保育の専門家が語る、叱る必要がないのに「ルールだから」と叱ってしまう問題性
大人はつい、「ルールだから」という理由で反射的に子どもを叱ってしまうことがあります。しかし、それは本当に正しいことでしょうか? 親が叱る前に考えるべきことについて、げんきこども園理事長の向井秋久さんの書籍『子どもが伸びるほめ方 子どもが折れない叱り方』から紹介します。
※本稿は、 向井秋久[著]、モチコ[イラスト] 『子どもが伸びるほめ方 子どもが折れない叱り方』(Gakken)から一部抜粋・編集したものです。
愛を持って叱れば、生きる力が育つ
・それは愛か、愛情か
子どもには「いい点数を取ってほしい」「もっと優秀であってほしい」と多くの親御さん達は望んでしまいがちです。自分の子どもに期待したり望んだりすること自体は悪いことではありませんが、親側の勝手な願い、親自身のエゴであることは自覚しないと、子どもに対して理不尽に押しつけになってしまう可能性があることを忘れてはいけません。
なかには愛情があるからきつく叱るんだ、と愛情を免罪符のように使う人がいます。しかし、「愛」と「愛情」は違います。愛はすべてを受け入れる、無条件のもの。愛情は「愛」だけでなく「情」。つまり、自分の感情が入ります。愛情は、愛ではないのです。子どもに対するとき、それがエゴが入った愛情なのか、無償の愛なのかは、私たち大人は意識しておかなければなりません。
・愛を持って叱る
「叱る」とは、子どもを、思い通りに動かすために指示や命令することではありません。子どもが社会で生きるうえで大切な指針を示すことです。ですから、何に対して叱るか、どう叱るかに親御さんの生き方や価値観が表れます。
子どもに対する(愛情ではなく)無償の「愛」がベースにあれば、叱る、注意するときも子どもを思った言葉になるはずです。
つまり、子どものすべてをほめることは、愛ではありません。いいことはほめ、悪いことに対してはしっかり「それはよくないよ」と愛を持って教えることが子どもの「生きる力」を育むのです。
それ、本当に叱らなければならないこと?
お子さんを叱るとき、なぜ叱るのか、を考えず「世間でそう言われているから」「みんながそうと考えているから」「前からそういうものだから」となっていないでしょうか。叱る前に「なぜ叱るのか」根本に戻って考えることが必要です。
子どもの頃、学校で「給食を残さず食べよう」と厳しく叱られた経験のある方もいるのではないでしょうか。給食を残さず食べる、というのは、はじめは、料理してくれた人、お米を買うために働いてくれた人に感謝し、農家の方々が作ったお米を大事にしよう、自然の恵みに感謝しよう、という感謝にあふれた行為だったはずです。
しかし、体格も発達段階も違うのですから、食べられる量は違います。だから、感謝して、食べられる分だけ食べればいい、というのが本来の趣旨に沿った行動なのではないでしょうか。
それなのに時が経つと、なんのためにルールを設けたのかが忘れられて「給食を米粒ひとつ残さず食べなきゃいけない」「食べ終わるまで昼休みなし」などルールの形だけが残って厳しい指導として残っているケースが往々にしてあります。「感謝」の気持ちは置いてけぼりになり、「残さない」ことばかりに目が行ってしまうケースです。
これではおいしく楽しいはずの給食の時間が苦痛になってしまいます。感謝をするどころか、嫌で仕方がないというお子さんがいても無理はありません。このような、本来の趣旨と逆効果の結果をもたらす指導はすぐにやめるべきでしょう。
その代わりに、もし、食べられなかったときは、捨てられてしまう食べ物のことを教え、次回から食べられる分だけよそう、おやつを食べすぎないようにする、などの対策を子どもと一緒に考えればいいのです。
同じように、私たち大人は、叱る必要のないときに、「ルールだから」という理由で叱ってしまうことがあります。そんな自分に気づくために大切なことは、物事の根本を見る姿勢です。反射的に叱る前に「そもそも、どうしてそう言われているんだっけ?」と根本に戻って考えてみましょう。
「困った行動」こそが才能の原石
「この子、虫ばっかり触ってるんですよ」など、似たような悩みで困っている親御さんは多くいます。
でも、その虫好きをずっと突き詰めていったら、将来は虫を研究する博士になるかもしれません。もしかしたら、益虫を研究して人類の食糧不足を救う可能性だってあるでしょう。
小学生が「勉強しないでゲームばかりしている」というのも捉え方次第です。ただのゲームと捉えたら遊びですが、「ゲームの勉強」と捉えたら勉強になるものです。ゲームを突き詰めていけば、Eスポーツでのプロになる可能性(オリンピックに出る可能性も!)やゲームを作る仕事につく可能性があります。将来何がどんなふうに役立ち、それが仕事になるかはわからないのです。
「仕事はしんどい」「やりたくないこと」と、親が思い込んでいると、子どもが楽しみながら可能性を伸ばす足を引っ張ってしまいます。まずは親が考え方の枠を外して、子どもが夢中になっていることを応援してあげてほしいと思います。
自分が興味を持ったことには集中するけれど、大人の言うことをまったく聞かない、そんな子も多くいます。好きなことばかりしていて、やらなければならないことは後まわし……。これらは、大人にとっては「困った行動」です。
でも、実はそこに、子どもの個性や興味、関心が詰まっています。考えてみれば、子どもの行動に「困った」と思うのは実は大人の都合です。時間を守るとか、人の決めたルールに従うとか、そういった大人社会の基準に子どもを合わせようとするから「困ったこと」となるのです。
「困ったところ」がある子は、自分自身の興味と熱意に従って自分の世界を切り開ける力を持つ子だ、とも考えられます。「困った子」ほど才能の原石をたくさん持っていると言えるのです。
でも、その才能が花開くかどうかは、周囲の関わり次第で変わってきます。「好き」という気持ちを否定されると自己肯定感が下がります。なかにはバランスのとれる子もいますが、何かに夢中になるタイプのお子さんは、好きという気持ちに一直線で、アンバランスになることが多いのです。だから余計「困った子」に見えてしまいます。
でも夢中になれるのは才能です。その才能を伸ばすためには、叱らなくてもよいことは叱らない、待って、包んで、許す、という覚悟が必要なのです。
関連書籍
子どもが伸びるほめ方 子どもが折れない叱り方(Gakken)
日本一の規模の「ほめ育」導入園の保育園から「ほめる育児」のポイントと、子どもたちが伸びる・折れない言葉がけのポイントを具体的に伝授します。今や、「ほめる育児」はよく聞きますが、実際のところほめてばかりではダメ! しかり方のポイントも。