「本当は怒りたくない」のに・・・アダルト・チルドレンが子育てでぶつかる壁

斎藤裕, 斎藤暁子
2024.07.29 15:28 2024.07.23 11:50

落ち込む 慰める

子どもに優しく接したいと思っているのに、ついイライラして強く叱ってしまう。怒らないためのノウハウを調べてみても、上手く実践できず、ますます自己嫌悪に。

そんな苦しみの中にいる私たち親に、「あなたのせいではない」と語りかけてくれる本があります。

元・精神保健指定医の斎藤裕先生、心理カウンセラーの斎藤暁子先生のご夫婦による共著、『ママ、怒らないで。(新装改訂版) 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。

「本当は怒りたくないのに」と悩む親にとって大切なのは、自分を責めることではありません。

今抱えている悩みは、私たちが「本来の自分らしい自分」を見失っていることを知らせるサインかもしれないのです。

そのことに気付かせてくれる一節を、本書より抜粋・編集してご紹介します。穏やかな気持ちで子どもと向き合うための一助となれば幸いです。 (編集:nobico編集部 中瀬古りの)


※本稿は、斎藤裕, 斎藤暁子著『ママ、怒らないで。(新装改訂版) 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部抜粋・編集したものです。

ママのゆとりをなくす『心の詰まり』

親に叱られる子ども

実は、イライラする、怒ってしまうところには、必ず『心の詰まり』があります。心の中が、あふれ出した感情でいっぱいになって隙間がなくなることでゆとりを失うため、優しく接することができなくなるのです。

心はどうして詰まるのでしょう。

多くのママの心は、すでにかなりの割合で詰まっているかもしれません。それは、幼い頃からの我慢の蓄積に加え、子育てや対人関係で多くの我慢を強いられているためです。

そして、我慢すること、自分の気持ちよりも相手や周りを優先することがよしとされる中で育つことで、人に自分の本当の気持ちを適切に伝えることができなくなるために、心を詰まらせるパターンが身についてしまっているのです。

つまり、『本来の自分らしい自分』を置き去りにした生き方が、心の詰まりの原因になっているというわけです。

そんなママたちは、いつもがんばっているのに、”つい言っちゃった””つい怒っちゃった””つい無視しちゃった””ついにらんじゃった”……それで、子どもの心を傷つけてしまった、とママ自身も、罪悪感で胸を痛めるのです。

子どもへの伝え方や接し方のノウハウを効果的に使って、悪循環を少なくすることはできるかもしれません。しかし、対症療法的な方法だけでは見逃すことのできない問題が残ります。

それは、ひとことで言えば、「心の詰まりの種となっている根本的な部分が光にさらされなければ、子どもに怒ってしまうなどの悪循環をなくすことができない」という問題です。

光にさらされることがなかった自分の心の痛みや自然な欲求に蓋がされたままだと、子どもの気持ちや心の痛み・欲求なども受け止めきれません。何らかの対処法を身につけて、たとえ表面的には優しくできたとしても、種がそのまま残っていたら、特に親子や夫婦関係の中で相手に何らかの悪影響を与えてしまうのが現実です。

ですから、心の詰まりの種が何なのかを理解して、それを適切に処理することが大切なのです。

心の詰まりの種とアダルト・チルドレン

手をつなぐ親子

では、心の詰まりの種とはどのようなものでしょうか。

多くのママ(パパ)たちの中には『親は子どもより立場が上で、子どもを正しく躾け、誘導するものである』とか、『子どもは親の言うことをよく聞き、従うものである』という考えはありませんか?

また、自分はそのような考えを持った親のもとで育ってきたと思うところはありませんか?

実は、この当たり前で普通のように感じられる親子間の上下関係のあり方こそが、心を詰まらせるパターンをつくり出す種になっている、と言ったらドキッとされる方も多いでしょう。

そのことについて、アダルト・チルドレン(AC)という用語を用いて、くわしく見ていきたいと思います。

ACとは、「子どもの成育に悪影響を与える親(機能不全家族)のもとで育ち、成長してもなお精神的影響を受け続ける人々」のことをいいます。

※ACは医学用語(診断名)ではありません。

ACの方の家庭に受け継がれている”当たり前”で”普通”だと思われている常識は、つねに「親や上に立つ人中心の、偏ったものの見方・考え方が基準」になっています。

そのため、『対等性』や『平等性』が失われてしまい、親や上に立つ人の考えや理想・期待・躾の一方的な押しつけとなって、子どもや下の立場となる人の気持ちや存在が尊重されにくくなっているのが実情です。

そのような環境のもとで育った人たちは存在価値を認めてもらえておらず、ひとりの人間として尊重されなかったことで、「低い自己価値感」や「認められない・満たされない空虚感」と、それに伴う「認められたいという強い承認欲求」を抱えています。

そのため、親や上に立つ人から認められることで自分の存在価値を満たすような生き方に依存してきていることが多く、その生き方からなかなか離れることができないために、精神的に自立することが難しくなっています。

人は、この『対等性』・『平等性』のない環境や状況に置かれて、そこから離れることができないとき、自分にとって都合のよくない”負の感情”(不満、反感、嫌悪感、怒り、寂しさ、不安感、恐れなど)に蓋をして見ないようにします。しかし、そのときに抱いた感情は消化されずに蓄積するため、心の中が詰まっていくのです。

つまりACとは、「子ども時代に受けた虐待などのトラウマ(心の傷:心的外傷)による影響を含め、『育った家庭環境の中で身についた生き方・考え方』『その家系の長い歴史の中で受け継がれた生き方・考え方』によって、その人本来の人格形成がなされず、感情面の処理がうまくいっていない人」、ともいえるのです。

苦しみの背景にあるもの

頭を抱える母親

ACの方の多くは、『過剰な義務感と責任感』や『期待に応えられないこと・してあげないことに対する罪悪感』、『満たされることのない空虚感』を抱えています。

本来はそういったものや自身の苦しみは、「親との関係性や生い立ちの中で受けた心の傷の影響である」、というのがACの概念なのですが、多くの場合、具体的ではっきりとした記憶や認識に乏しく、外的な影響よりも、自分の性格やものの考え方がそうさせるのだととらえてしまいます。

しかし、その『性格』自体、環境面の影響を強く受けた結果によるものであり、本来の自分らしさや生まれ持った個性・資質が押しつぶされているために苦しいのです。

ですから、生きづらさや抱える問題など、そういうものを性格のせいにして変えようとしても、苦しみの種となっているACやその背景について認識できていないと、根本的な解決にはならず、問題は繰り返されるのです。

悩みや問題は、『自分らしい生き方を取り戻すこと』を知らせるための大切なきっかけ

親子で手を取り合って

人間には個性もあれば、自然な感情や欲求があります。そういう心の事実という内側(本来の自分)の現実に対し、社会や対人関係といった外側の環境的な現実があり、私たちはその矛盾の中で生きています。

多くの人は、そういうことをあまり意識することなく、自分の内側よりも、外側に自分を合わせて適応しているわけです。そうすると、そこで生じた内と外との矛盾によって、何らかの滞りや妨げが生じてしまいます。そのようなものが、悩みや迷い・問題となって浮上してくるのです。

目標としたいのは、『ご本人が苦しまずにすむこと』だけにとどまらず、その方の、新しい家族となった方々が、お互いの生命を建設的に育むことのできる平等で対等な、安全で安心な関係性を築くこと。

そして、それぞれみんなが幸せや温かさを実感できるような家庭環境を築くための土台となる”自分らしい生き方を選択していく力”を身につけられるようになることです。

ですからあえて、自分の悩みや迷い、直面している問題はどれも、現状に何らかの滞りや妨げが存在することに気づくきっかけであるととらえていただきたいのです。

それに気づき、改善する必要性があるということ。強弱にかかわらず、悩みや迷い・問題は『自分らしい生き方を取り戻すこと』を知る大切なチャンスです。つまり、ごまかすことのできない現実を、ありのままはっきり見ていくことが大切なのです。

【著者紹介(五十音順)】

斎藤暁子

斎藤暁子

心理カウンセラー。「さいとうカウンセリングルーム」代表。生きづらさ、母娘関係、対人関係、子育てなどのカウンセリングを行う傍ら、「HSC子育てラボ」を立ち上げる。現在は、HSC子育て、不登校に関するカウンセリングも行っている。

HSC子育てラボ:https://xn--hsc-qb4bpxncv211bpr2c.net/
さいとうカウンセリングルーム:https://saito-counselingroom.com/
Instagram:akikosaito_mamaoko

斎藤裕

斎藤裕

1961年生まれ。久留米大学医学部卒業。元・精神保健指定医。
約20年間、民間病院に勤務。2008年から2017年まで心療内科クリニックを開業。 2017年、カウンセリングルームを開設。アダルト・チルドレンや人間関係におけるトラウマからの回復を目的としたカウンセリングおよびセラピーを行ってきた。現在、精神科医を引退し、『HSC子育てラボ』の顧問をしている。

ママ、怒らないで。

ママ、怒らないで。(新装改訂版) (斎藤 裕, 斎藤 暁子著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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