親としての夫婦の絆を育むために必要なこととは?

斎藤裕, 斎藤暁子
2024.07.29 15:40 2024.08.08 11:50

夫婦喧嘩

夫婦はお互い対等に助け合える関係が理想ですが、「自分ばかり我慢している」「家事育児の分担に不平等さを感じる」といった悩みの声を耳にするのも確かです。

一方が抱える負担や不満の重大さに、もう一方はなかなか気づきにくいもの。

自分が当たり前だと思っている事に対して、パートナーがどう思っているか。自分の中に、無意識に相手を苦しめている要素はないか。

まず振り返り、そして気付くことが、健全な家庭を築くための第一歩かもしれません。

元・精神保健指定医の斎藤裕先生、心理カウンセラーの斎藤暁子先生による著書、『ママ、怒らないで。(新装改訂版)』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、子どもの健やかな成長のためにまず見直したい、より良い夫婦関係へのヒントが記された一節を、抜粋・編集してご紹介します。

記事の最後には、自己省察の手助けとなる、「“安定した愛着関係“を育てるのに、障害となり得る『毒性・有害性』」のリストも掲載させていただきました。パートナーやお子さんとより良い関係を築くための一助となれば幸いです。(編集:nobico編集部 中瀬古りの)

※本稿は、斎藤裕, 斎藤暁子著『ママ、怒らないで。(新装改訂版) 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部抜粋・編集したものです。

安全・安心に欠かせない『夫婦の適切なコミュニケーション』

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機能不全を改善した本当の家族になるには、お互いの努力が欠かせません。

しかし、お互いに正直に誠実に、相手の気持ちに配慮した適切なコミュニケーションが取れているご夫婦は、想像以上に少ないものです。

そこにはお互いの、生い立ちの中で抱えてきた人間関係におけるトラウマやストレス、取り込まれてきた信念・信条、そして価値観などが影響し、年とともに夫婦問題の種が膨らんでいくのです。

特にママたちの、夫の実家である嫁ぎ先との関係において、「夫が向き合ってくれなかった」、「親を優先して私の存在や気持ちをないがしろにした」、「味方をしてくれなかった」といった不満が募った場合のヒビは深刻。ヒビは亀裂に、不満は恨みにと、深刻さを増していくため、対処が必要です。

ほかにも、伴侶に対して「反応が怖くて向き合えない」、「つい遠慮してしまう」、「当てにしていない」、「あきらめている」など、夫婦間のコミュニケーションに障害があれば、家庭外の問題に対処しても、家庭内で心を詰まらせることになります。

そして、それは当然、子どもが育つ環境にも悪影響が及ぼされてしまいます。

夫婦喧嘩を聞く子ども

そこで、夫婦関係を客観的に見直し、「両家の身内やそのほかの人・物事に左右されない関係」、「正直に誠実に向き合える関係」、「温かい心のつながり・交流がある関係」を築いていただきたいのですが、そこには大きな『壁』が立ちはだかることを、セラピスト・カウンセラーとして常日頃から痛感しています。

その『壁』とは、無意識に取り込んできた男女に対する差別観のことです。そのために、多くのママがジレンマを抱えながら、相手に対する失望やあきらめを生じさせている現実があるのです。

この男女の差別観は、立場的に男性の方が優位となる類の考え方が多いことから、ママ側の主張に耳を傾けて本気で変わろうとするパパはめずらしいと感じます。たとえ努力する姿は見せても、「何か違う」、「わかってない」という不全感・不毛感をママたちは抱いています。

男女の差別観とは、シンプルに表現すれば、『男が上、女が下』の関係になることをいいます。仕事で収入を得て、家族を”経済的に”支える夫が優先されて、家事や育児でヘトヘトになりながら家庭を支える妻は、どんなに自分を犠牲にしてがんばっても、「やって当たり前」、といったものです。

もちろん、すべての夫婦がこれに当てはまるわけではありませんが、夫の方も妻の方も、その差別観や価値観で生きていることに気がつかないことが意外と多いのです。

夫婦共働きであっても、昔から刷り込まれてきた、男女の立場や役割意識はしぶといようで、共働きの場合でも、家事の割合は妻が8割というアンケート結果もあるようです。

夫は妻が、家事や育児、お姑さんとの関係など、肉体的・精神的に、どれほどの負担を負っているか、その価値や大変さをなかなか理解できません。

悩む女性

セラピスト・カウンセラー側から見ても、職場での人間関係よりも、家族内・親族内の人間関係を保っていくことの方が難しいと思われるケースに直面することが多々あります。

そしてその役割を任されるのは、たいてい妻の方。その価値や負担が認められず、存在をないがしろにされてきた妻の不満や恨みといったツケが、熟年になって表に出てくる夫婦は多く、その溝は深刻です。

私は、子どもの置かれている環境を安全・安心なものに整え、子どもが本来持って生まれた資質や個性を花開かせる環境の土台づくりをすることが、最も重要ととらえています。

そんないちセラピスト・カウンセラーとしてお伝えしたいのは、夫側は妻の存在や家事・育児などの負担に関心を持ってしっかりと見て、その価値に気づいていただきたいということです。

同時に妻の方も、当たり前に見える自分の行いのひとつひとつにどれほどの価値があるのかに気づき、自分で認めてあげてほしいと思います。

夫婦間の安定した愛着関係を育むために必要なこと

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愛着関係は、親と子の間だけでなく、伴侶との間でも築かれ、本来、安定したものとなるはずなのです。

しかし、夫婦それぞれに、生い立ちの中の、親(身内)との関係におけるトラウマ(愛着関係における傷を含む)・ストレスや、親(身内)との関係の中で身についた認知・思考・人間関係のパターンを抱えたまま気づかないでいると、伴侶との関係は、どうしても不安定になってしまいやすくなります。

夫婦の絆(安定した愛着関係)を育むために必要なのは、

・伴侶が親や身内に置き換わることに気づき、それを解決していく
・双方が、親(身内)から取り込まれた、あるいは親(身内)との関係の中で身についた『毒性・有害性』に気づき、それを追い出していく
・適切な感情表現・意思表示・交渉を行うなどの、コミュニケーション力を育てていく

という過程を経ることです。

夫婦間に、安定した愛着関係が構築されていくにしたがって、その相互的な関わりの中から、双方のオキシトシンの分泌が促されていきます。

オキシトシンの、共感や信頼感、そして安心感や寛容さを高める働きによって、夫婦間のコミュニケーションや関係性にプラスの変化が生まれやすくなると考えられるのです。

対等で平等な関係が築かれると、同じ高さの目線で風通しのいい会話ができるようになり、夫婦間に温かい心の交流がもたらされます。

そこには、意外と素直に言えない「ありがとう」、「ごめんなさい」、「お願いします」という基本的なやり取りが欠かせません。なかでも「お願いします」という言葉は、“対等な関係”が確保されていないと、すっと出てこないものです。

そして、相手の立場に立って物事を感じたり考えたりすることができるようになると、相手に対する配慮や気配りも生まれてきます。

主導権争いもコントロールもなく、素直な気持ちで、相手を尊重し、敬意を払って伝える「ありがとう」、「ごめんなさい」、「お願いします」──これらの言葉は、夫婦の絆を育むだけでなく、両親の姿を見て育つ子どもの心にも安心感を与え、自然と同じようなコミュニケーションが取り入れられていきます。

“安定した愛着関係“を育てるのに、障害となり得る『毒性・有害性』

手をつなぐ親子

ここに、伴侶や子どもとの間で、“安定した愛着関係“を育てるのに、障害となり得る『毒性・有害性』を挙げています。

ただし、暴力・暴言・否定的な言葉や評価・無視や差別・拒絶的な態度・威圧的な態度など、明らかに『毒性・有害性』とみなされるものは含まれていません。

もし、親(身内)から取り込まれた、あるいは親(身内)との関係の中で身についた、『毒性・有害性』の特徴が自分の中に存在していたとしたら、存在している部分に意識を向けながら、ひとつひとつ追い出していきましょう。

“安定した愛着関係“を育てるのに、障害となり得る『毒性・有害性』

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“安定した愛着関係“を育てるのに、障害となり得る『毒性・有害性』

【著者紹介(五十音順)】

斎藤暁子

斎藤暁子

心理カウンセラー。「さいとうカウンセリングルーム」代表。生きづらさ、母娘関係、対人関係、子育てなどのカウンセリングを行う傍ら、「HSC子育てラボ」を立ち上げる。現在は、HSC子育て、不登校に関するカウンセリングも行っている。

HSC子育てラボ:https://xn--hsc-qb4bpxncv211bpr2c.net/
さいとうカウンセリングルーム:https://saito-counselingroom.com/
Instagram:akikosaito_mamaoko

斎藤裕

斎藤裕

1961年生まれ。久留米大学医学部卒業。元・精神保健指定医。
約20年間、民間病院に勤務。2008年から2017年まで心療内科クリニックを開業。 2017年、カウンセリングルームを開設。アダルト・チルドレンや人間関係におけるトラウマからの回復を目的としたカウンセリングおよびセラピーを行ってきた。現在、精神科医を引退し、『HSC子育てラボ』の顧問をしている。

ママ、怒らないで。

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