難関中学に入学した子がなぜ不登校に? 教育熱心な母が後で気づいたその原因

山下エミリ

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かんしゃくを起こす、やる気を出さない、学校へ行かない。親を悩ませるこういった行動には、子どものどんな本音が隠れているのでしょうか?

育児・教育に悩むの多くの親をカウンセリングしてきた公認心理師の山下エミリさんは、心理学とワークを通して欲求を読み解き、その心に寄り添った子育てを説いています。

本記事では、山下エミリさんの著書より、中学受験合格後に不登校になった子のケースを紹介しつつ、子どもが安心できる親の関わり方を伝える一節を紹介します。

※本稿は山下エミリ著『お母さんには言えない 子どもの「本当は欲しい」がわかる本 』(青春出版社)より一部抜粋・編集したものです

難関中学合格後になぜ?

「何やってるの!」「なんで、まだ準備できてないの!」「どうしてテストの点数がこんなに悪いの!」「これじゃ合格できないでしょ!」

中学受験を控えた小学生のお子さんがいらっしゃるMさんのご家庭では、お母さんが毎日ガミガミしていたそうです。

「自分のガミガミにさらに火がついてもう止められない状態だった」。そう振り返った受講生のMさん。お子さんは難関中学に合格したものの、やる気が見られず成績は下降の一途。そのことにまたガミガミするお母さん。お子さんはついに学校に行けなくなってしまいました。

安全欲求は安心・安全な暮らしへの欲求を指します。お母さんが気分次第でガミガミ怒っている家の中は、子どもにとっては、森の中で、いつ猛獣が出てくるかわからなくて、ビクビクしている状態と同じです。

そうなると、常に戦闘態勢をとり続けているようなものなので、疲れて動けなくなるのも無理ないのです。他にも、森の中で道に迷っていて不安でいっぱいの時に、一緒にいるお母さんが「大丈夫よ!」と安心できる存在であれば子どもは安心していられますが、ちょっとした物音にも、「きゃーっ!」と叫んでいたら、子どもはさらに不安になってしまいます。

家庭が安心できない状態なのですから、心が安らげませんよね。そして、そんな不安な環境にいると、勉強どころではないことはおわかりいただけるかと思います。家庭が安心・安全な環境になり、安全欲求が満たされると、不登校のお子さんも、ほとんどがすぐに学校に行けるようになります。

安全欲求は、生理的な欲求がある程度満たされたら湧き上がってくる、安心できる環境で生活したいという欲求です。つまり、安心や安全を感じられない時に湧いてくる欲求だからです。

お子さんの安全欲求を満たしてあげていないことに気づいて、Mさんが変わったら、お子さんは元気に学校に行けるようになりました。それだけでなく、意欲的に勉強もするようになりました。こうなるまでにMさんにどんな気づきがあったのでしょう。あなたの気づきになるように、その経緯をお伝えします。

「わかっているけど、学校に行けないわが子にイライラが止まらなかった」

Mさんはお子さんが学校に行けなくなってからスクールカウンセラーに相談すると、「無理に来させず、お子さんを見守りましょう」と言われたそうです。

お子さんを信じて見守るのは大事なことです。でも、それはお子さんのエネルギーが充電されるのを待つためで、放電させるためではありません。Mさんは「学校に行きなさい」「なんで行かないの」という言葉は我慢して言わないことにしました。

でも、頭ではわかっていたものの、学校に行けないお子さんを見ると、怠けていることに、よけいにイライラしていたそうです。代わりにMさんがお子さんにかける言葉は、

「学校に行かなくてもいいから、勉強だけはちゃんとしなさいよ」
「学校も行ってないのにゲームなんてしちゃダメでしょ」

というものでした。お母さんからこの言葉を聞いたお子さんがどうなると思いますか? いえ、この言葉自体にはそんなに問題があるわけではありません。当たり前の言葉のようにも思われるかもしれません。

問題は、「行かなくていい」と言葉では言ってはいるものの、お母さんの気持ちの中にある「学校に行くべきだ」いう本音の気持ちが無意識に言葉に反映されていることなのです。

これには、「学校に行かなくていい」という言葉と、その言葉の背景にあるお母さんの本音「なんで学校に行かないの!」という言葉以外の態度から発せられる非言語の情報の二つが存在しています。心理学で「二重拘束(ダブルバインド)」というのですが、この二つが全く違うものであると、お子さんは「どっちなの?」と混乱するわけです。

「学校行かないなら、やめちゃえば」とお母さんが言って、「じゃあ、やめる」と子どもが言ったら「なんで、やめるっていうの!」というものもあります。どっちなの? ですよね。

そして、こういう場合は、もし、お子さんが学校に行かずに勉強をしていたところで、「勉強するなら学校ですれば?」ということにきっとなるでしょう。こんなことが繰り返されると、お子さんは、どうしていいのかわからず、動けなくなってしまいます。

お母さんは学校に行ってほしいと思っていたはずなのに、無意識でお子さんが身動きがとれなくなってしまう全く逆のことをしてしまっていたのです。

子どもを変えようとしても、子どもは変わらない

Mさんも、まさかお子さんの心がそんなことになっているとは全く思っていなかったのでしょう。「見守っていたら、成績が落ちてしまう」と試験の時だけは無理やり学校にお子さんを連れて行ったそうです。

もちろん、勉強をしていないので成績がいいはずがありません。見守るというのは、お子さんの気持ちに寄り添うことなのですが、Mさんは、お子さんの気持ちよりも、自分の焦る気持ちにしか目が向いていなかったのです。

自分の気持ちに目が向いている時は、お子さんの気持ちはわかりません。そうすると、最初のうちは普通に過ごしていたお子さんが、ゲームにどんどんのめり込むようになり、朝も起きてこなくなりました。ついに昼夜逆転生活が始まりました。

お子さんも、身動きがとれなくなっている状態は苦しいですから、どうしたらいいかわからなくなっていると、ゲームにのめり込んで現実逃避をするしかありません。お子さんの状態がどんどん悪くなってから、Mさんはやっとこのままではマズいと気づき、講座を受講されました。

そこで、お子さんに安心・安全な環境を与えていなかったことに気づき、自分が変わらなければ子どもは変わらないことが腑に落ちたといいます。

でも、これを読んでいるあなたは、きっと読みながらMさんが安心・安全な環境をつくっていないことに気づかれたと思います。Mさんはどうしてわからなかったのかと思われるかもしれません。

ところが、客観的に見ていると気づくことでも、当事者はなかなか気づかないものなのです。ですから、あなたはこの事例を読むことで、どんどん気づいていってくださいね。

さて、子どもが変わるために「何と言えばいいですか?」「何をすればいいですか?」と、言い方ややり方を求める方が多いです。でも、子どもを変えようとやり方を求めても、子どもは変わりません。

それに、自分でも薄々わかっていたとしても、人から直接、「お母さんの態度が悪いから子どもが学校に行けないんじゃないの?」と言われたら、とても受け入れられないでしょう。ましてや夫にそんなことを言われた日には、怒りで眠れなくなってしまいますよね。

人から指摘されると、自分のせいにされたくないという心理で、自分を守ろうとする「防衛本能」が起こります。そうなると、他の人のせいにしなければいけないのです。そのために問題が複雑になってしまう人も多いのです。

だから自分で気づくことが重要なのです。お母さんが「気づいて」、自然と安心・安全な家庭環境を提供できればいいだけなのです。