子どもがやさしい子に育つ「親の魔法の言葉」

ドロシー・ロー・ノルト,レイチャル・ハリス(訳:石井千春)
2024.10.01 09:59 2024.09.24 11:50

読み聞かせをするママと女の子のイラスト

「優しく、思いやりのある子に育ってほしい」…親であればだれもが我が子に願う事です。

子どもは、自分自身の親から優しさや思いやりを学びます。
ドロシー・ロー・ノルトさんは、詩、「子は親の鏡」にて、「やさしく、思いやりを持って育てれば、子どもは、やさしい子に育つ」と記しました。

この一文のより詳しい解説を、ドロシーさんの著書、『子どもが育つ魔法の言葉』より抜粋してご紹介します。

※本稿は、ドロシー・ロー・ノルト著、レイチャル・ハリス著、石井千春訳『子どもが育つ魔法の言葉』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

やさしく、思いやりを持って育てれば、子どもは、やさしい子に育つ

4人家族のイラスト

人を思いやるとは、どのようなことでしょうか。人を思いやることと、表面的な礼儀とは違います。礼儀正しく振る舞うことで相手を敬っているように見せかけることはできますが、それは本当の思いやりではありません。子どもは親の姿から、人を思いやる気持ちを学びます。親が、家族を思いやり、敬う気持ちを持っていれば、子どもはそんな親の姿から、本当の意味での思いやりの心を学ぶのです。

人を思いやるとは、その人を敬い、やさしくすることです。それは、毎日のちょっとした仕草に表れるものです。夫婦が互いに敬い合い、子どもにもやさしく接していれば、子どもは自然にそれを学びます。人を思いやることは、ありのままのその人を受け入れ、その人の気持ちを尊重し、ときには自分の気持ちよりも優先させることなのです。

子どもが、たとえば動物と遊んでいたり、弟や妹の面倒をみたりして、思いやりを示したとしましょう。そんなときには、親は必ず誉めることです。そうすれば、子どもはやさしい心を伸ばしてゆきます。

人に対する思いやりの心は、わたしたちが生きているかぎり常に学ぶべきものです。わたしたち親自身も、ときには、家族に対して思いやりに欠けることをしてしまいます。そんなときには、率直に謝り、反省しなくてはなりません。そうすれば相手も許してくれることでしょう。子どもは、そんな親の姿から、人を思いやるということは終生学びつづけることなのだと知るのです。

思いやりの心を育てる

おしゃべりする子ども達のイラスト

幼い子どもは、自分のことしか考えられません。赤ちゃんやよちよち歩きの幼児は、世界は自分を中心に回っていると思っています。これは、幼児の自然な成長の一過程です。幼児は、成長するにしたがって、この自己中心性を和らげてゆきます。

人を思いやる気持ちを子どもに教える機会は、日常生活のあらゆる場面に訪れます。

先日、わたしは、4歳と8歳ぐらいの男の子を連れたお母さんを、スーパーで見かけました。3人は、キャットフードを買おうとカートに積んでいました。そのとき、一人のお年寄りが財布を落とし、中身が床に散らばってしまったのです。大きいほうの男の子は、すぐにカートから離れ、お年寄りに手を貸しました。弟のほうは、そのままキャットフードの缶をカートに入れていました。そんな弟をお母さんはそっと促しました。さり気なく弟の腕に触れて買物の手を止めさせ、そして、お兄ちゃんとお年寄りのほうへ顔を向けて、その子に気づかせたのです。二人に気づいた弟は、お兄ちゃんを手伝い始めました。このお母さんは、こんなふうにやさしく、さり気なく弟をしむけたのです。

思いやりとやさしさは、遊びをとおして教えることもできます。

4歳のケニーとお母さんは、寝る前に部屋のおもちゃを片づけていました。お母さんはテディベアを布団に入れながら、トントンとやさしく叩いて言いました。

「さあ、テディちゃんは、これでぐっすりオネンネができるわよ」

ケニーもテディベアの毛布を掛けなおしながら言いました。

「テディ、おやすみ」

ケニーは、まるで弟のようにテディベアをかわいがっています。ですから、お母さんは、そんな「弟」に対してやさしく接することをケニーに教えたのです。ケニーは、こんなお母さんのおかげで、遊びながら、やさしい心を学ぶことができました。

子どもに、相手の気持ちを考えさせることも大切です。

7歳のジェニーとマリアは、さっきまでゲームで遊んでいました。ところが、ルールのことで喧嘩になってしまったのです。マリアは急に立ち上がり、帰ってしまいました。ジェニーは、お母さんに話を聞いてもらいたくて、台所へ行きました。

「マリアって、ほんとに変な人なの。負けるのがいやで、帰っちゃったの」

「何かあったの? いつも仲良く遊んでるのに」

ジェニーは、ルールをめぐって喧嘩になったこと、マリアが悪いのだということを話しました。

「そう、そんなことがあったの……」

お母さんは、考えながら言いました。

「でも、そのときマリアはどんな気持ちだったのかしら」

「え? 何が?」

ジェニーは少し驚いたようです。そして、しばらく考え込んでから言いました。

「あたし、マリアに電話する」

ジェニーはマリアと話しました。そして二人とも悪かったということで、仲直りしました。きちんと話し合うことができたのです。二人は、また同じようなことが起こったら、その場できちんと話し合って解決できることでしょう。

このお母さんは、マリアのことをジェニーの大切な友だちだと思っていました。そんなお母さんのおかげで、ジェニーはマリアの気持ちを思いやることができたのです。そして、大切な友情を保つことができたのでした。

子どもは、一人ではなかなか思いやりの重要さを学べません。親が導かなくてはならないのです。思いやりの心は、子ども時代に学ばなければなりません。大人になってからではとても苦労してしまうことでしょう。

ドロシー・ロー・ノルト

1924年1月12日生まれ。ロサンゼルス出身。ミネソタ州立大学卒。
40代の終わりに英国国立聖職大学で博士号取得。
40年以上にわたって家族関係についての授業や講演を行い、家庭教育や子育てコンサルタントを務めた。
3人の子どもを持つ母親、2人の孫の祖母であり、ひ孫も6人。
2005年11月、家族に見守られながら永眠。

著書『子どもが育つ魔法の言葉』(1998年刊・アメリカ)は、22ヵ国語に翻訳され、世界中で多くの共感を呼び、ミリオンセラーとなった。詩「子は親の鏡」は37ヵ国語に翻訳された。

親子の問題をあたたかく見つめるまなざしや長年の経験に裏打ちされた子育てに対するあたたかい言葉は国境を越え、世界中で愛されている。

レイチャル・ハリス

精神科医。臨床ソーシャルワーカー。大学院で家族療法と子育て教育を学んだ。

石井千春

翻訳家。早稲田大学大学院英文学専攻修了。 訳書に『あの動物たちが教えてくれたこと』『ジェフリー』(以上、PHP研究所)『HUG(ハグ)しようよ! 』(扶桑社)など。明治大学と専修大学で英語を教えている。

子どもが育つ魔法の言葉

子どもが育つ魔法の言葉』(ドロシー・ロー・ノルト著,レイチャル・ハリス著,石井千春訳,PHP研究所刊)

認めてあげれば、子どもは自分が好きになる。――世界37カ国の親たちを励ました、個性豊かで挫けない子どもを育てるための知恵と言葉。