中学の計算問題を解けた小学3年生が、中学受験でつまづいた理由

山下エミリ
2024.10.01 15:24 2024.10.01 11:50

鉛筆を手に勉強する男の子

この記事の画像(4枚)

自分の意志を強く持って、自分考えて、行動する。そんな「自律性」を育むために、親は子どもとどう接するべきなのでしょうか?公認心理師として多くの親に子育てをアドバイスする山下エミリさんの著書より、教育熱心な親とその期待に応えていたはずの子の「予想外なその後」について触れた一説を紹介します。

※本記事は山下エミリ著『子どもの一生を決める「心」の育て方』(青春出版社)より一部抜粋・編集したものです。

先取り教育で計算問題が解けても、身についていない力

教科書を読む女の子

幼い子どもに早期教育をさせようとする親御さんが増えています。幼稚園から計算問題をやっているよそのお子さんを見ると、焦る気持ちはよくわかります。人より早く勉強を始めたほうが子どもも後々ラクになるから、と考える方も多いようです。

でも、子どもの心の発達段階を知らないと、せっかく時間とお金と労力を使って始めた早期教育も意味のないものどころか、害になってしまうこともあるのです。

早期教育の中には算数の問題を学年を超えてどんどん先に進めていく先取り学習もあります。

繰り返し教えることで、子どもができるようになったように親には見えているかもしれませんが、それは親の喜びをいっときだけ満足させてくれるだけです。

なぜなら、心理学的に論理的な思考能力がつくのは小学校の高学年くらいからということがわかっているからです。つまり、時間の概念や距離などはよほどの天才でない限り、低学年や中学年ではまだ理解できないのです。

心の発達がわからないと、目の前の問題を子どもが解くことだけに必死になってしまい、応用力が身につく大事な発達の時間を奪ってしまいます。この時期に身につけたいのは、問題を解くような勉強ではなくて、子どもたち同士の関わりや自然と触れ合うことで習得できる非認知能力です。

小学校3年生で中学の問題が解けた子が、なぜ応用問題で躓いたのか?

考える男の子

私の主宰する講座の受講生のお母さんで、お子さんが小さいときから算数の先取り学習をしていた方がいました。小学校3年生で中学校の問題が解けて表彰もされていたために、「うちの子は算数が得意だ」と信じて疑わなかったそうです。

ところが、そのお子さんが中学受験塾に入った途端、算数ができなくて愕然としたお母さん。計算問題はできても、算数の応用問題が実はまったくできなかったのです。子どもの発達を知っていたら、あの学習法はさせなかったのに、と悔やんでいました。

中学受験では思考力を問われる問題がたくさん出てきます。いわゆる「非認知能力」が備わっていないと解けない問題ばかりです。小さい頃に算数の繰り返し計算ばかりやっていたお子さんは、応用で必ずつまずいてしまいます。

論理的な思考能力をつけるためには、計算問題をひたすら繰り返し解かせることではなく、いろいろな体験をさせることが重要です。

その大事な時期に理解ができていない問題を繰り返し行わせ、ただ問題に慣れさせることだけをしていたのでは、その時期に本当に必要な経験を積むことができません。

計算問題をしている暇があったら、きょうだいや友だちと思いっきり遊んだり、家族で楽しい時間を共有したりすることのほうが、ずっとずっと大切です。人との関わりの中で、たっぷりと子どもの将来につながるような豊かな力となる非認知能力を身につけておきましょう。

非認知能力はどう育つ?

野原を走る小学生たち

中学受験では、小学4年生から塾に通うのが定番のようになっていますが、心の発達を考えれば、5年生からで十分なのではないかと思っています。

ちなみに、うちの息子と娘は、ありがたいことに私立中学の特待生(入学金も学費もいらない)になりましたが、中学受験塾には6年生から入りました。それでも公立の最難関校も合格しましたし、御三家と言われる難関校の私立の特待生にもなりました。適切な時期に学んだことが吸収力を高めたのだと思っています。

この話は、わが子の自慢をしたいわけではなく、子どもの心の発達を知って適切に関われば、どんな子の目の前にも、たくさんの可能性が広がっている。それをぜひみなさんに知っておいていただきたいのです。

中学受験は、親子の受験と言われることもあり、親が勉強を見なくてはいけないと思っている人も多いようです。餅は餅屋と言います。勉強は専門家に任せていればいいのではないでしょうか。

お母さんの専門は子どもの心を育てることです。あとは子どもの健康管理ですね。私自身も勉強は得意ではありませんし、夫も中学受験の経験はなく、そもそも勉強は親が見るという考えが一切なかったので、夫婦とも子どもの勉強を見たことは一度もありません。

子どもの勉強に関しては、子どもたちには小さい頃からそろばんを習わせていました。計算の基礎ができていることは、すごく役に立ちましたね。それにそろばんはクリエイティブな能力である右脳を育てるためにもいいようです。後は、兄弟や近所の子ども同士でよく遊んでいましたので、それで非認知能力がついたかもしれません。

山下エミリ

山下エミリ

公認心理師。一般社団法人キャリアエデュケーション協会代表理事。筑波大学大学院博士課程前期修了。カウンセリング修士取得。TBSドラマ「積み木くずし」で暴走族のリーダー役としてデビュー後、人気モデルとして活躍。3男1女の子育て中に大学・大学院で心理学を学び、スクールカウンセラーやキャリアコンサルタントを経て、2019年にキャリアエデュケーション協会を設立。心理学の理論とワークに基づいた「賢く幸せな子育て」を伝授している。

子どもの一生を決める「心」の育て方

子どもの一生を決める「心」の育て方 (山下エミリ)

体の発達と違って目に見えない「心の発達」がわかれば、子どもが見える。今話題の「自律する子」に変わる。

「子どもにいちいち怒らなくなった」「笑顔で登校(登園)するように!」「本音を話してくれるようになった」…と感謝の声、続々!公認心理師の著者が教える、何歳からでも間に合う!心理学的に正しい子育てメソッド。