5歳の先取り学習は逆効果に? シリコンバレーの幼稚園が実践する年齢別「脳の基礎体力」の育て方

中内玲子

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世界の先端企業が集まるアメリカのシリコンバレーで日英バイリンガル幼稚園Sora International Preschool創設し、教育事業のアドバイスをするコンサルタントとしても活躍する中内玲子さん。

多くの子どもたちを指導した経験から、幼児期の子育てにおいて大切な親の役割は「安心・安全な関係づくり、自由な遊び、好奇心や意欲、規則正しい生活習慣」と言います。

子どもたちの「学びの土台」を作るために重要な親の接し方を、年齢別に解説します。

※本記事は中内玲子著『シリコンバレー式 世界一の子育て』(フローラル出版刊)より一部抜粋・編集したものです

0〜2歳は「アタッチメント」をつくってあげることが大切

この時期に何よりも大切なのは、子どもと親の信頼関係です。「親は100%信じられる」「ここにいれば安心」という「安心・安全な基地」をつくってあげることです。これは、発達心理学でいうと「アタッチメント(愛着)」です。

子どもは「何があってもここに戻って来れば大丈夫」という親に対する安心感を持つことで、やがて外の世界や他者への興味を広げていきます。

アタッチメントを育むためには、抱っこをする、手や頬に触れるなどのボディタッチがおすすめです。ボディタッチによって、子どもは親の愛情を肌で実感していきます。

小さいうちから保育園に預けている方はどうしても子どもと関わる時間が少なくなりますが、時間がとれないなら「量より質」を意識しましょう。

私自身、現在2歳の長女が生後3か月の頃からデイケア(日本でいう保育園)に預けているので、平日は2時間くらいしか関われない日もあります。その代わり、長女が寝る前にぎゅっと抱っこして、「ママはあなたが大好きよ、パパも大好きよ、お兄ちゃんたちも大好きよ、(デイケアの)○○先生も、おじいちゃんも、おばあちゃんも……(飼っている犬や猫、お気に入りのぬいぐるみなど、どんどん続きます)」と、娘がみんなに愛されているということを、言葉にして毎日伝えています。娘も気に入っているようで、一人遊びしているときに自分でおまじないのようにつぶやいています。

3〜4歳は「やってみたい」を尊重してあげる

家庭で育てられていた子も幼稚園などに通うことで初めての社会生活が始まり、子どもの世界が広がる時期です。

この時期の子どもは、五感を通して身の回りのあらゆるものから学びます。子どもの「やってみたい」「見てみたい」「触ってみたい」という気持ちを尊重し、のびのびと遊ばせましょう。世界に対する興味を広げるために、たくさんの体験をさせることも大切です。

また、早寝早起きを心がけながら、着替え、食事、トイレ、歯磨き、お風呂などの日々のルーティンを崩さず、規則正しい生活を送ることも大切です。

5〜6歳で「先取り学習」より優先すべきこと

好奇心や学ぶことの楽しさ、何かに取り組む意欲を育む時期です。子どもの世界を広げるための「学びの窓」を用意してあげるのが親や保育者の役割です。文字や数に親しむことも、その一つとなります。

この時期から、あるいはもっと早い4歳くらいから、小学校入学を見据えて読み書きや算数などの「先取り学習」に力を入れる方もいますが、やり過ぎは逆効果です。遊びより勉強を優先したアンバランスな育て方をしてしまうと、この時期に身につけるべき大事な能力を伸ばすチャンスを奪ってしまうことになります。

幼児期は「遊びが学び」 先取り学習では能力を伸ばせない 早期教育のメリットは3年しか続かない

幼児期に勉強中心の生活を送った子どもたちがその後どのように育つかについて、ボストンカレッジのピーター・グレイ教授の興味深い調査があります。

早期教育に関するさまざまな研究を分析した結果、早期教育に力を入れて育てられた子どもたちは、自由に遊んでいた子どもたちに比べて、特定分野のテストにおいてより高い得点をとることができるとわかりました。けれど、その効果は1〜3年以内になくなり、その後はテストの結果が逆転したそうです。

これは、早期教育が思ったほど有益ではないということだけでなく、長期的に見ると早期教育が弊害を引き起こす可能性がある証拠であるとグレイ教授は指摘しています。その弊害は、特に社会的・感情的な発達の領域に見られるとされています。

1970年代に行われた、遊びを重視した幼稚園の卒園生と勉強を重視した幼稚園の卒園生との大規模な比較調査でも、勉強を重視した幼稚園の卒園生は、最初は学力におけるメリットが確認できたものの、小学4年生になる頃には、比較されたすべての尺度で遊び重視の幼稚園に通っていた子どもたちよりも大幅に成績が悪くなったという結果が出ました。特に、読書や数学における能力の向上がより少なく、社会的・感情的な調整もうまくできていなかったそうです。

6歳までは、勉強は「ほどほど」でいい

もちろん、読み書きや計算などの勉強も、子どもの世界を広げるために必要なものです。

私の幼稚園でも、15分くらいの「ラーニングテーブルタイム」を設けています。ラーニングテーブルタイムは、「学びの窓」を開く時間です。文字が書けるとお友だちや家族に手紙が書ける。文字を読めると外遊びで見つけた花や昆虫の名前を図鑑で調べられる。そういう学ぶ意欲、学ぶための好奇心を養い、子どもの世界を広げるための時間です。ただし、何歳までにこれを習得すべきというルールはありません。

ラーニングテーブルタイムは、日本の年長にあたるキンダーガーデンに行く前の準備をする時間でもあります。落ち着いて座り、先生の話を聞き、指示を理解できるようにするには、一日15分くらい、何かに集中的に取り組む時間を持つことが大切です。

また、文字を書くことで、「ファインモータースキル」を鍛えることもできます。ファインモータースキルは、鉛筆を持つ、はさみを使う、小さいものをつまむ、箸を使うなど、指先の細かい筋肉を動かすための運動能力です。このスキルを鍛えることは脳の発達にもよいとされています。

子どもが興味を示すようなら、4歳くらいからおうちでも一日に15〜30分くらい、読み書きや計算をさせてもいいと思います。ただし、子どもが乗り気でないのに無理にやらせたり、一日に4時間も5時間も勉強させたり、その日のノルマを終えるために睡眠を削って深夜まで勉強させたりするのは、子どもにとってはむしろ害になります。
 
6歳までは「脳の基礎体力」を育てる時期です。基礎体力ができていないのに、あれもこれも覚えさせ、何時間も勉強させ、さらにその結果を出せと求めるのは無茶というものです。小さいうちから無理に勉強をさせたがために子どもが勉強嫌いになってしまったら、本末転倒です。

シリコンバレー式 世界一の子育て(中内 玲子)

シリコンバレー式 世界一の子育て(中内玲子著、フローラル出版刊)

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