子どものやる気引き出す声掛け 「押しつけ」と「意識づけ」の大きな違い

中山芳一
2024.10.31 14:53 2024.11.07 11:50

小学生の女の子を見つめる母親

子どものやる気を引き出すのは難しいもの。無気力な子どもにもどかしさを感じ、「もっとやる気を出して!」声をかけたことがある親御さんも多いのではないでしょうか。
しかし、このような押し付けの言葉は子どもにとってあまり意味がありません。

中山芳一先生の著書『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』より、親が心掛けたい「意識づけ」の言葉についてご紹介します。

※本稿は、中山芳一著『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部抜粋・編集したものです。

押しつけではなく意識づけが大事!

意識づけは、「押しつけ」と対比させて使っている言葉です。
自分自身の非認知能力は自分が伸ばそうとして初めて伸ばすことができるものです。

たとえば、なかなかやる気になれない子どもに「もっとやる気を出しなさい!」と押しつけてみたところで、いきなりやる気を出して積極的になることはないでしょう(もちろん、その場限りで、やる気を出しているふりができる子どもはいますが……)。
みなさんが子どもだったときのことを思い出していただいても同じようなことがなかったでしょうか? 

結局のところ、自分の中で「もっとがまんしなきゃな」とか「やる気を出していこう」とか「友達にやさしくなりたい」という意識を持つことができるかどうかが、自分自身のなんらかの非認知能力を伸ばしていく上では大事になってくるわけです。
そうなると、外側からの押しつけではそれは難しいことがおわかりいただけると思います。

それでは、押しつけではない意識づけとはどのような関わりなのでしょうか?
この意識づけとは、お子さんがその気になれる「きっかけ」を提供するイメージになります。
今一度、みなさんが子どもだった頃を思い出してみてください。
あの人のあの一言でやる気になれたとか、ハッと気づかされた、といった経験はありませんか? 
私も子どもの頃にそんな経験がありましたし、そのことを今でもよく覚えています。
私たちにとって、その一言は決して押しつけではありません。単にあの人が怖いから言うことをきかないと……といった押しつけではなく、自分の中で本当に必要(大切)だと思えたことだったはずです。

このようにお子さんが自分自身の意識へつなげていけるような関わりのことを(押しつけではなく)意識づけと呼んでいます。

会話する父と子
少し難しい話になるかもしれませんが、この意識づけは、大きくふたつに分けることができます。
ひとつは、先ほどのようにみなさんが直接お子さんに声をかけるなどして、その気にさせていく場合です。
一番わかりやすい例は、やっぱり「ほめる」と「注意する」ではないでしょうか。
そのほかにも、教えたり、説明したり、問いかけたり、なども該当します。
これらに共通するのは、みなさんとお子さんが直接やりとりをすることで意識づけをしていこうとする点です。
そのため、この意識づけを「直接的な意識づけ」と呼んでいます。

もう一方で、みなさんとお子さんが直接やりとりをするのではなく、みなさんが提供した機会に参加したお子さんが、自分自身で何か大切なことに気づける場合です。
一言で言うなら、お子さんにとってのなんらかの「体験」になります。ひょっとしたら、みなさんご自身も○○教室や□□プログラムのような体験をとおして、以前と少し変わったような気がする、といった実感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんね。
子どもだけでなく、大人にも十分起こり得ることです。
このような意識づけについては、みなさんとの直接的なやりとりではないので、「間接的な意識づけ」と呼ぶようにしています。

ちなみに、○○教室などをイメージすると、何やらとてもお金がかかってしまう印象があります。
しかし、子どもたちにとって最も大切な体験は、お金をかけた特別な体験ではなく、自分が楽しいからやっている自由な体験、つまり遊びだと私は考えています。
以上のとおり、直接的な意識づけと間接的な意識づけを通じて、私たち大人と子どもたちが「価値」を共有することができれば、子どもたちは自分の中で必要なことを意識して、自分に必要な非認知能力を伸ばしていけるようになるでしょう。
なお、このような意識づけの考え方は親子関係だけではありません。教師や保育者と子どもとの中でももちろんですが、何より大人同士でも同じことがいえます。地域やお仕事先などの大人同士のやりとりのときにも活かしてみてください。

中山芳一

1976 年1月、岡山県岡山市生まれ、All HEROs 合同会社 代表、IPU 環太平洋大学 特命教授、元岡山大学 准教授(教育方法学)



岡山大学教育学部卒業後、1999 年当時は岡山県内でたった一人といわれた男性の学童保育指導員として9年間従事。そこから学童保育の研究の必要性を確信して、教育方法学研究へ方向転換をする。以降は、幼児教育から学校教育まで、さまざまな教育現場で実践研究を進めるとともに、大学ではキャリア教育を中心に実践してきた。こうした経験から、「非認知能力」の大切さと育成のあり方について全国各地で提唱するようになる。2024 年8月には岡山大学を退職。日本の教育や保育を元気にしていくためのAll HEROs 合同会社の代表として、ますます精力的に活動の幅を拡げている。

マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方

マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』(中山芳一著/日本能率協会マネジメントセンター)

2000年にノーベル賞経済学賞を受賞した、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授の幼児教育の研究がきっかけで注目され、日本でも2020年の教育改革の核として盛り込まれた「非認知能力」。

IQや学校のテストのように数値化できる認知能力に対し、非認知能力とは、「目標を達成するための勤勉さ」「意欲」「知的好奇心」「協調性」「自己肯定感」「表現力」など、数値では測定しにくい総合的な人間力を指します。健やかな心を育み、将来の幸せと成功につながることから、「あと伸びする力」とも言われています。

先行きが見えない現代社会では、約8割の親が「失敗しても立ち直れて成長できること」「自分の力で道を切り開けること」といった「非認知能力」の高い子に育ってほしいと願っているといます。

本書では、非認知能力について解説するとともに、マンガも交えながらわかりやすく家庭教育の中で非認知能力を高める方法を紹介します。