過度な先取り学習で傷つく子どもたち…シリコンバレーの幼稚園が教える「勉強より大切なこと」

中内玲子

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世界の先端企業が集まるアメリカのシリコンバレーで日英バイリンガル幼稚園Sora International Preschool創設し、教育事業のアドバイスをするコンサルタントとしても活躍する中内玲子さん。

「先取り学習」には落とし穴がひそんでおり、『自己肯定感』を傷つけてしまうことがあると指摘します。勉強ができる、できない以前に何を大切にすべきかを多くの子供達と接した経験から伝えます。

※本記事は中内玲子著『シリコンバレー式 世界一の子育て』(フローラル出版刊)より一部抜粋・編集したものです

なぜ子どもの成長に自己肯定感が大切?

みなさんは、自分のことが好きですか?日本の方にこの質問をすると、首を振るか、困ったように笑って答えられない方がほとんどです。日本人は自己評価が低い傾向があるので、答えがNOの方が多いのでしょう。また、内心は「自分が好き」と思っていても、謙遜が美徳とされる日本では人前でそう言うのは抵抗があるのだと思います。

自分を好きでいられる気持ちを「自己肯定感」と呼びます。人が生きるうえで、自己肯定感を持つことは非常に重要です。自己肯定感は、人間にとってのエネルギー源であり、自己肯定感がないとあらゆる力を伸ばすことができません。

子育てにおいては、何よりもまず子どもの自己肯定感を高めることが重要だと私は考えています。たとえ勉強やスポーツをがんばっても、自己肯定感がなければ自分の努力を自分で認めてあげることができず、かえって自己評価が下がってしまう場合もあります。

自己肯定感があると、具体的には、つぎのようなメリットがあります。 

・他人の評価や環境に振り回されずに自分の価値を認められる
・日々のタスク(勉強や仕事など)をこなすことが苦にならない
・「やってみたい!」という好奇心が湧き、新しいものごとに積極的にチャレンジできる
・思考に制限が生まれず、興味や関心が広がり、自由な発想ができる
・失敗したり、悪い結果が出たりしても落ち込むことが少なく、切り替えが早い
・トライ・アンド・エラーができるから、問題を早く解決できる
・自分が好きだから、人のことも認められる

自己肯定感があれば、すべての力が底上げされます。個性や才能を開花させるのも、自分らしく幸せに生きるのも、自己肯定感がベースになります。

私が幼児期に特に育てるべきだと考えている「5つの力」のうち、自己肯定感以外の「考える力」「意志力」「社会的スキル」「国際的スキル」も、自己肯定感があるのとないのとでは、身につけるための労力が大きく変わります。

自分を好きでいられる「根拠のない自信」を子どもに持たせる

自己肯定感は、経済的に恵まれた家庭に生まれたとか、一流大学を出て一流企業に勤めているとか、社会的に人から認められたとか、そういうこととは関係ありません。

自己肯定感は「どんなときも自分を好きでいられる気持ち」です。人に自慢できるような経歴がなくても、欠点や苦手なことがあっても、「ありのままの自分でいい」と受け入れ、たとえ誰からも評価されなくても自分を好きでいられる「根拠のない自信」です。

子どもの能力以上の「先取り学習」が自己肯定感を低下させる

具体的な方法はのちほどご紹介しますが、自己肯定感は習慣を変えることで高めることができます。

ただし、自己肯定感は環境に大きく左右されます。生まれたときから自己肯定感が低い赤ちゃんはいません。親や周囲の大人、お友だちとの関わりの中で次第に自己肯定感が上がったり下がったりしていくのです。

ですから、一度下がってしまった子どもの自己肯定感を上げたいなら、まず大人が意識を変えて、子どもの自己肯定感を下げない環境づくりをすることです。それができなければ、同じことのくり返しになってしまいます。

アジア人は、全般的に小さいときから子どもにたくさん勉強をさせる傾向があります。親は子どもの将来を思って先取り学習をさせるのですが、先取り学習には親が期待するほどのメリットはありません。

むしろ、年齢やその子のキャパシティ以上のことを無理にやらせてしまうと、自信をなくさせることになり、大きなデメリットになります。

たとえば、次男は4〜5歳の頃までそら幼稚園とは別に週に2日チャイニーズの幼稚園にも通っていましたが、毎回「行きたくない」と泣いていました。

実はその幼稚園では、漢字をたくさん覚えさせたり、算数の難しい問題を解かせたりするなど、4〜5歳の子には難しい勉強をさせていたのです。その結果、彼にとってその幼稚園は、「ぼくは勉強ができない」という劣等感を植えつけられる場所になってしまいました。

また、私の友人のお子さんでとても勉強ができる子がいたのですが、アメリカから日本に帰国した際、先取り学習に力を入れている学校に入ることになりました。

その学校ではアメリカの学校よりも高度な内容を教えていたため、その子は「自分はみんなより勉強ができない」と自信をなくしてしまい、学校に行くのが苦痛になってしまったそうです。

「中学受験に失敗したら、人生終わり」なんて大間違い

お受験に熱心な家庭が多い日本では、「中学受験に失敗したから、もう人生終わり」と諦めて勉強をしなくなる子もいるという話を聞きます。その子は中学受験で志望校に合格できなかったことで自己肯定感が持てなくなってしまったのでしょう。

私は、自分の子どもが読み書きや計算が早くできても遅くても、どちらでもかまいません。ただ、幼児期に「勉強ができない」「自分はダメな子」というマイナスの自己意識を持たせることには大きな危機感を抱いています。幼児期に「勉強は苦手」という自己意識を子どもの心に刷り込んでしまうと、小学校以降の学習にマイナスの影響が出ます。次男の場合、自信を取り戻させるのにとても時間がかかりました。

もちろん、子どもが文字や数字に興味があるなら、好きなようにやらせてあげて、その力を伸ばすことには賛成です。けれど、その子の年齢を超えた難しい勉強は、本人が望まないかぎり、遊ぶ時間を削ってまでやらなくていいと考えています。

自己肯定感を低下させたまま、その子のキャパシティを超えた勉強をさせるのは、空腹のまま休まず走り続けろと言うようなもの。必ず力つきて倒れてしまいます。何よりもまず、原動力となる自己肯定感を与えてあげること。勉強をするのはそれからです。

シリコンバレー式 世界一の子育て(中内 玲子)

シリコンバレー式 世界一の子育て(中内玲子著、フローラル出版刊)

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