3人のハーバード生を育てた親の”特別ではない”子育て 才能と個性を引き出す6つのポイント【後編】

シム・ファルギョン

5.子どものエネルギー

目標達成のために立てた計画を忙しくこなしているうち、ストレスで心のバランスが崩れてしまうことがある。必死で頑張っていると、友達はもっと暇そうで楽に生きているように見えるかもしれない。そんなふうに子どもが疲れているように見えたら、新しいエネルギーを吹き込んで、再スタートのきっかけを作ってあげよう。

学期末になると、子どもは燃え尽き症候群に陥りやすい。きつい日程で試験勉強に打ち込んでいた緊張が解けるからだ。そんなときは、知識を頭に詰め込むよりも、内部に積もったストレスを発散させたほうがいい。そうやって一息ついて余裕を取り戻せば、再び新しいエネルギーをためることができる。

私は子どもが学期を終えるたびに、充電の機会を作ってあげていた。教会に通っていたわが子たちは、冬には林間学習、夏にはメキシコへ短期宣教に行った。冬の林間学習では家を離れるので、それだけで息抜きになる。子どもたちはそこでコリアン・アメリカンという共通点を持った友達に会い、お互いの姿に自分を発見したりした。白人中心の学校では必然的にマイノリティーになってしまう子どもたちは、学校で感じる思いや苦労を共有できる友達がいるということに気づくことができた。

移民一世の親が背負っているもののほうがより大きく重いことを知っている子どもたちは、自分たちのしんどさを親に打ち明けるより、ほとんど自分で乗り越える努力をしてきた。同じような心の重荷を抱えた子どもたちは、林間学習の期間中にお互い心強い力になり、新しいエネルギーをもらっていた。

メキシコの集団農場での短期宣教は10年以上も続いた。そこでは、ほぼ放置されている子どもたちのために夏の聖書学校と医療宣教活動を行った。そういう子どもを見ると、世界にはさまざまな環境ごとに違った困難を抱えて生きる人々がいることを実感する。こうして子どもたちはアメリカとメキシコの国境をまたぎながら、新しいエネルギーをもらい、自分の今後の生き方を考える機会を得てきた。

6.子どもの共感能力

教育学者によれば、子どもの共感能力は親から学ぶものだという。親がどのように世界を見つめ、他人とどう関係を結ぶのかが、子どもにそのまま影響を与えるのだ。だから私たち夫婦は娘たちの見本になるため、人と円滑な関係を作り、広い心を持って一貫性のある行動をしようと努めてきた。 行動で示すことで、子どもたちが正しい人間に育ってくれると思ったからだ。

長女のヘミンは、幼いうちから社会性に富み、友達付き合いもうまく、相手の立場に立って状況を理解する洞察力も並はずれていた。外国の宣教地に行ったときも、言葉の通じない現地の子たちとすぐに仲良くなれた。ヘミンの通った高校は、ヒスパニック、アフリカ系、ユダヤ人、少数のアジア人まで、多様な人種が集まる学校だった。そこで少数派の韓国人がリーダーシップを発揮することはかなり大変で、友達の心を理解して真の友情を築かなくては難しいことだ。ヘミンには、違いを超越して仲間をうまくまとめ上げる、すばらしい能力があった。そのおかげで、他人種の友達同士でも関係を調整し、仲を深める役割をうまくこなし、先生と生徒の架け橋となった。

先生にも認められ、友達からも人気だったヘミンのリーダーシップが証明されたのは、選挙によって自治会の会長に選ばれたことだった。自治会の赤いユニフォームを着るだけでも胸を張れるこの高校の自治会は、全校生徒を率いて学校行事やボランティア活動の旗振り役となった。その会長に選ばれるには、友達や後輩、先生とも良好な関係を築く必要があるため、相当に難しいことだ。アメリカの大学は、そんなリーダーシップのある人材を求めている。リーダーシップに優れた学生が集まれば、彼らの持つ共感能力によって大学コミュニティーが強い絆で結ばれることをよく知っているからだ。

うちの子たちの共感能力がどこから来たものか考えてみると、一番は家庭環境だろう。共感とは、相手を理解し尊重することなので、自分だけの世界に閉じこもっている人には他人の気持ちを理解することができない。しかし、最初から優れた共感能力を持つ子はいない。私の経験からすると、共感能力を伸ばすには多くの人と関係を結ぶ必要がある。

そういう面から、わが家は共感能力を学ぶには最適な環境だった。まず、家族が多い。5 人が狭い空間でぶつかりながら住んでいると、大小さまざまなもめ事が生じる。そんなときに大事なのが、お互いあきらめずに、相手の考えを理解し、自分の考えを理解してもらえるまで、フィードバックをすることだ。

傾聴、質問、返答という一連のフィードバックをするときに最も重要なことは、相手を尊重することだ。うちの子どもたちは、そのことを夫を通して学んだ。牧師である夫は、教会の仕事に没頭するあまり、子どものことがおろそかになることがたまにあった。まかり間違えれば、子どもが誤解したり悲しんだりするかもしれないのに、その都度夫は自分の今の状況と教会の仕事に没頭しないといけない理由を説明し、子どもたちのフィードバックに耳を傾けた。

教会のことで夫をサポートしながら3人の子を育てるとき、一番大変だったのは、夫婦の時間が絶対的に足りない点だ。子どもが1人ならまだしも、3人の面倒を同時に見るのは不可能だった。うちの子たちは誰かから「お母さんは誰が一番好きなの?」と聞かれると、3人とも迷わず「私」と答える。そう言えるのは、自分がいつも母親と一緒にいたように感じているからだ。それは、いつも近くにいたというより、子どもが母親を必要としたときに必ずそばにいて、子どもの訴えに共感したという意味だ。そのおかげでわが子たちも共感する方法を学べたのだと思う。

長女のヘミンが学生寮で暮らしていたときのあだ名は「ヘミンママ」だったが、面白いことに末っ子のヘソンも大学時代のあだ名が「ヘソンママ」だったという。それだけ友達が必要なときに一緒にいて、安心させてあげていたのだろう。このように家族や友達、出会った人々に共感してあげることは、自分自身も幸せに生きられる方法なのだ。

3人の娘をハーバードに合格させた 子どもが自ら学びだす育て方

『3人の娘をハーバードに合格させた 子どもが自ら学びだす育て方』(シム・ファルギョン、吉川南 [訳])

牧師の夫の留学をきっかけに、幼い長女と次女を連れて一家でアメリカに渡米。ただ、牧師の家庭で十分なお金もなく、現地の学校に通う娘たちは「アジア系のマイノリティ」。そんな環境で、塾や入試コンサルティングにも頼らず、3人の娘それぞれの才能と個性を最大限引き出し、世界トップ大学に送り出した母親の家庭教育のすべてが詰まった1冊。