地方から独学で医学部合格、その鍵は「医学英語」? 医師・舛森悠さんの受験体験
総合診療科医師として北海道函館市を拠点に活動する舛森悠先生は、YouTubeやSNSでのDrマンデリンとしての発信も多くの方に知られていますが、定期的に「はこだて暮らしの保健室」を開催し地域住民と医療をつなぐ地域医療活動を精力的に行っています。その原点には、地方という環境でひとり奮闘しながら医学部を目指した受験期の苦労と努力がありました。今回、先生に当時を振り返りながらお話を伺いました。 (取材・文/吉澤恵理)
医師を目指したきっかけを与えてくれた桜木奈央子さん
―― 医師を目指そうと思ったきっかけについて教えてください。
「高校3年生の夏、桜木奈央子さんという写真家の方の講演会に参加したことが、すべての始まりでした。アフリカの子どもたちの暮らしを撮影している方で、彼らの現実を知る中で、日本の環境の恵まれた部分に初めて気づかされたんです。その時に、自分はなんて視野が狭かったんだろうと思い知らされました。自分も恵まれた環境に生まれたからこそ、人の役に立つことがしたい、そう強く思ったんです」
―― その瞬間に進路が大きく変わったのですね。それまではどんな分野を目指していたのですか?
「実は、それまでは宇宙工学に興味があって、全然違う分野を目指していました。NASAで働けたら、なんて漠然と思っていたんです(笑)。医学部なんて考えたこともありませんでした。でも、桜木さんの話を聞いたとき、『これだ!』って思えたんですよね」
予備校に通わず独学を選んだ理由
―― 当時、どちらの高校に通われていたのですか?
「札幌第一高校の特進コースに通っていました。偏差値は68~69で、北海道内では比較的上位に位置する私立高校です。学校の環境も英語学習に力を入れており、それも後々の医学英語学習の土台作りに役立ちました」
―― 医学部受験に向けて、どのような決断をされましたか?
「予備校には通わず、すべて独学で勉強を進めることを決めました。また、滑り止めは受けないという決断もしました。代わりに、前期で不合格になった場合は同じ大学の後期試験に挑戦する予定を立てていました。この決断は、自分を追い込むための一つの選択でしたね」
―― 地方ならではの課題や苦労はありましたか?
「はい、一番大きな課題は『情報不足』と『独学の限界との戦い』でした。地方には医学部受験に特化した予備校やコースがほとんどなくて、都市部の受験生のように専門的な講座や模試を受けることができなかったんです。それがかなりのハンデでした」
―― 予備校に通わずに医学部を目指すのは非常に大変だったのではないですか?
「受験に向けて孤独感との戦いが辛かったです。同じ目標を持つ仲間が少ないので、都心部の受験生のように切磋琢磨する環境がありませんでした。でもその分、静かな環境で集中できたのは地方ならではの強みでした。夜遅くまで図書館で勉強して、周囲の静けさを味方にすることで乗り切ることができました」
舛森悠さんが「医学英語が重要」だと考えた理由は?
―― 英語の学習、特に医学英語についてはどのように取り組まれたのでしょうか?
「高校生の時から、医学英語の重要性を強く意識していました。将来必須となるスキルだと考え、早い段階から計画的に取り組みました。具体的には、BBC HealthやReuters Healthなどの医療系英語ニュースを毎日チェックする習慣をつけました。最新の医療情報を英語で学びながら、自然とリーディング力や医療系の語彙力も向上していきましたね」
―― 具体的な教材選びや学習方法について教えていただけますか?
「まず、高校生向けの医学英語入門書から始めました。人体の各部位の英語名称や基本的な症状の表現、医療現場でよく使われる略語など、基礎的な内容から着実に積み上げていきました。その後、テーマ別の医学英語長文読解問題集に取り組み、解剖学や生理学といった各分野の専門的な内容も学んでいきました」
―― 医学英語の学習で特に工夫された点はありますか?
「英語の勉強を『受験のため』だけではなく、『将来のキャリアのため』と位置づけたことです。例えば、COVID-19のパンデミックが始まった際、英語のニュースサイトを通じて、世界各国の対応策や最新の研究結果をリアルタイムで追うことができました。これは、医学英語の実践的な学習機会となりました」
勉強のモチベーションを保つ方法
―― 独学で進める中で、具体的にどのような勉強法を取り入れたのでしょうか?
「独学をするうえで特に気をつけたのは、自分の得意不得意をしっかり把握することです。例えば、理科は基礎から応用まで体系的に学びました。生物は暗記だけに頼らず、メカニズムを理解することで楽しさを見出しました。一方、物理は苦手でしたね。基礎問題集からスタートして少しずつレベルを上げることで克服しました」
―― 勉強中のモチベーションはどうやって保っていたのですか?
「定期的に志望理由を書き直していました。『なぜ医師になりたいのか』『なぜ医学部を目指すのか』を何度も自分に問いかけることで、目標を明確に保つようにしていました。あとは医療のドキュメンタリーを観たり、本を読んだりすることで、自分が目指す未来を具体的にイメージしていましたね。
高校の担任からの励ましの言葉がいつも支えてくれた
―― 辛い時期をどのように乗り越えましたか?
「模試の成績が伸びなかったり、第一志望の偏差値との差に落ち込んだり、何度も挫折しかけました。でも、高校の担任の先生が『君なら必ず道は開ける』と励ましてくれたんです。その言葉が、諦めそうになるたびに頭に浮かびました。
両親の支えも大きかったです。特に父が医療関係者だったので、医学部受験に理解があったのが救いでしたね」
地方の受験生が不利な時代ではなくなった
――医師として働いていて、受験期の経験が活きていると感じることはありますか?
「集中力と忍耐力ですね。長時間の手術や緊急対応など、ストレスの多い状況でも冷静に対処できるのは、受験期に培った力だと思います」
―― 最後に、未来の医学部受験生へメッセージをお願いします。
「まず、『地方だから無理』と思い込まないでほしいです。地方には静かに集中できる環境がありますし、今はオンライン教材も充実しています。オンラインの教材や情報をフル活用すれば、都市部の受験生とも同じ土俵で戦えます。
何より行動力が大切です。迷ったらまず動く。やってみないと見えないものが必ずあります。独学でも十分に勝負できますから、自分を信じて挑戦してください」
総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方(舛森悠著/KADOKAWA刊)
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