気がつけば医学部も視野に? 室井佑月さんの「母一人、息子一人の中学受験」(後篇)
作家でありコメンテーターとしても活躍する室井佑月さん。息子さんを寮のある中学校に送り出した経験を通じて、親としてどんな試練に向き合い、息子さんがどのように成長していったのかを率直に語ってくれました。(取材・文/吉澤恵理)
※前編はこちらです
子どもを勉強好きに変えた話術とは? 室井佑月さんの「母一人、息子一人の中学受験」(前編)
寮生活が子どもにもたらした「かけがえのない経験」
――息子さんの寮生活はどのようなものだったのでしょうか?
室井さん: 息子はやんちゃで、悪さばかりしていました。『寮を出て通わなければ退学』と言われたこともあります。でも、悪いことといっても門限を守らず外で友達と話していたり、届けを出さずに自宅通学の友達の家に泊まったりする程度です。それでも寮の規律は厳しくて…
息子を支えるために学校の向かいにアパートを借り、毎週末訪れる生活を何年も続けました。大変でしたが、やりきったことが私自身の自信にもつながっています。
――寮生活でなければ得られなかった経験はありますか?
室井さん: たくさんありますね。寮生同士の団結力は素晴らしく、赤点を取って進級が危うい子がいると、一番勉強ができる子が家庭教師役になって教えるんです。そして、その子が進級できたときには、みんなで一緒に喜ぶ。その姿を見て、寮に入れて本当によかったと心から思いました。
友達は兄弟のような存在になり、休みのたびに誰かが家に遊びに来るような関係でした。学校の前に家を借りていたので、息子が抜け出して門限を破ることもありましたけど(笑)、みんなでサッカーのワールドカップを観戦したことなども、今ではいい思い出です。
「医学部も視野に入りますよ」の担任の言葉に驚く
――大学受験については、中学入学時に考えていましたか?
室井さん: 特には考えていませんでした。でも中学3年生で文系か理系を選ぶとき、学校から「医学部も選択肢に入りますよ」と言われて驚きました。息子は成績のアップダウンが激しかったので、推薦で私立医学部という道があると言われたときは信じられなかったくらいです。
――具体的に考えていた将来の仕事などはありましたか?
室井さん: 中学受験やその後の進路について、「絶対に食いっぱぐれないように」とか「高収入を得られるように」といったことは全く考えていませんでした。ただ、好きなことを見つけて、それを続けられることが一番大事だと思っていたんです。
好きなことでも辛い瞬間はありますが、嫌いなことなら到底続けられません。私自身、好きなことを仕事にしてきましたが、それでも苦しいときはありましたから。
――大学受験での苦労はありませんでしたか?
室井さん: 大学受験も息子に任せました。息子は進みたい大学があり、浪人を選びました。結果的にその後に大学に進みましたが、私は学歴を重視していたわけではありません。勉強で得た知識や経験は盗まれない財産ですから。
今はもう社会人になり、最近は結婚したいと言っているので、落ち着くのかなと思ってます。でも、まだ20代半ばなので、これから先、もっと成長していくと思います。
中学受験は「人生のほんの一瞬」でも「一生の財産」
――子育てにおいて、どんなことを大切にしていましたか?
室井さん: 「中学受験の結果がすべてではない」と常に思っていました。これから人口はどんどん減り、今頑張って入った学校が数年後には「昔は優秀と言われていたけど、今は全入に近い」なんてこともあるんです。
だからこそ、どの学校に行くかよりも、その環境でどんな経験を積み、どんな力を身につけるかが大事だと思います。
――中学受験を振り返って、どのように感じていますか?
室井さん: 中学受験は人生のほんの一瞬に過ぎません。合格したからといって、ずっと安泰が続くわけでもないし、同じ10年がその後に再び繰り返されることなんてないですよね。
でも、親子で一緒に頑張った経験は信頼関係を深める最大の財産になります。だからこそ、合否に一喜一憂する必要はないと思います。
――最後に、子育てをする親御さんにメッセージをお願いします。
室井さん: 人生に正解なんてありません。その時々で親子が納得して選んだ道なら、それで十分だと思います。