アンパンマンはなぜ“食べ物のヒーロー”? やなせたかしが語る、子どもが生きていく上で一番大切なこと

今も子どもたちに大人気のアンパンマン。そのキャラクターたちの多くが、食べ物をモチーフにしているのはなぜでしょうか? また、当初は登場しなかった「バイキンマン」や「ドキンちゃん」が、後から加わった理由とは?
作者・やなせたかしさんが語る、キャラクター誕生の裏話をお届けします。
※本稿は、やなせたかし著 『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。
真の正義とは何か
――アンパンマンとか、しょくぱんまん、基本的にキャラクターとして食べものが多いのはなぜですか?
これはね、最初から食べものに限定しようと思っていました。
どういうことかというと、子どもにとって一番大事なことは「食べる」ということ。例えばツバメの親が帰ってくる、雛は口を開けて待っていますよね。子犬は、生まれると、母犬のおっぱいにしがみついて吸います。そのことは誰も教えていません。つまり、「食べる」ということなんです、一番最初は。その時には名誉欲とか、そういうものはない。「食べる」ということが一番重大なこと。だから、食べものを中心にしようというふうに、最初から僕は考えていて、基本精神は当時から変わっていませんね。
――アンパンマン、メロンパンナちゃん、バイキンマン、ドキンちゃん。キャラクターのネーミングがユニークですが、どういうところからきているんですか?
あんパンは表面がパンで、中身があんこ。食事にも、お菓子にもなることに着目して、最初からアンパンマンと名付けました。それで話を続けていくうちに、周りにあるものを入れるようになってしまったわけです。
じつは、この話を描き始めたらすぐに、作曲家のいずみたくが「ミュージカルをやろう!」と言ったんですよ。これは面白いからやろうと。その時は大人向けのミュージカルで、まだバイキンマンというキャラクターも生まれていなかった頃です。ところが、話が引き締まらないんですよ。なんでだろう、あっ! かたき役がいないからだ。じゃ、かたき役をつくろう。あんパンが食品だから、かたき役はバイキン(ばい菌)がいいかなと思いついて。
世界中見ても、ばい菌のキャラクターなんていないんですよ。なぜかって、ばい菌は目に見えないほど小さいものだから。そこで一つのシンボルとして、バイキンマンというのを描いてみたんです。
すると話が、がぜん面白くなってきて、これは成功だった。つまり光と影ができたんです。光を描こうとすれば、影を描かなくちゃいけない。だからバイキンマンに力を入れて描けば、アンパンマンに自然と光が当たるわけです。
それでアンパンマンのほうには、しょくぱんまん、カレーパンマンとかいろいろ味方をつくったんだけど、バイキンマンも一人だとかわいそうなので、味方をつくってやらなくちゃいけない。で、バイキン星から、女の子のばい菌、ドキンちゃんというのが助けに来た、ということにしたんですね。ドキンとする、というのでドキンちゃんという、いいかげんな名前で出したんですけど、これも割合に成功だった。
それでこういう話を描くと、非常に面白いことが起きるんです。バイキンマンを助けるために彼女はやって来たはずなのに、一緒に戦うようになると、どういうわけか女の子のほうが強くなっちゃってね。ドキンちゃんが、バイキンマンをあごで使うようになって。不思議ですね、夫婦生活と同じなんです。
『何のために生まれてきたの?』(やなせたかし著 /PHP研究所)
25年春スタートのNHK連続テレビ小説「あんぱん」のモデル!
脚本家・中園ミホさん(「あんぱん」作者)、推薦!
「69歳でアンパンマンが大ヒット。愛と勇気にみちた生き方が素敵です!」
本書は、大反響を呼んだNHK「100年インタビュー」のやなせたかし氏の回を書籍化。
苦しい時もユーモアと好奇心を忘れなかった著者が、半生を振り返りつつ前向きに生きる秘訣を語ります。波瀾の人生を乗り越えて綴った、痛快人生論。
読むだけで元気が出る1冊です。