アンパンマンはなぜ“食べ物のヒーロー”? やなせたかしが語る、子どもが生きていく上で一番大切なこと

やなせたかし
2025.04.15 13:49 2025.04.24 11:50
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写真提供:やなせスタジオ
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今も子どもたちに大人気のアンパンマン。そのキャラクターたちの多くが、食べ物をモチーフにしているのはなぜでしょうか? また、当初は登場しなかった「バイキンマン」や「ドキンちゃん」が、後から加わった理由とは?

作者・やなせたかしさんが語る、キャラクター誕生の裏話をお届けします。


※本稿は、やなせたかし著 『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

真の正義とは何か

――アンパンマンとか、しょくぱんまん、基本的にキャラクターとして食べものが多いのはなぜですか?

これはね、最初から食べものに限定しようと思っていました。

どういうことかというと、子どもにとって一番大事なことは「食べる」ということ。例えばツバメの親が帰ってくる、雛は口を開けて待っていますよね。子犬は、生まれると、母犬のおっぱいにしがみついて吸います。そのことは誰も教えていません。つまり、「食べる」ということなんです、一番最初は。その時には名誉欲とか、そういうものはない。「食べる」ということが一番重大なこと。だから、食べものを中心にしようというふうに、最初から僕は考えていて、基本精神は当時から変わっていませんね。

――アンパンマン、メロンパンナちゃん、バイキンマン、ドキンちゃん。キャラクターのネーミングがユニークですが、どういうところからきているんですか?

あんパンは表面がパンで、中身があんこ。食事にも、お菓子にもなることに着目して、最初からアンパンマンと名付けました。それで話を続けていくうちに、周りにあるものを入れるようになってしまったわけです。

じつは、この話を描き始めたらすぐに、作曲家のいずみたくが「ミュージカルをやろう!」と言ったんですよ。これは面白いからやろうと。その時は大人向けのミュージカルで、まだバイキンマンというキャラクターも生まれていなかった頃です。ところが、話が引き締まらないんですよ。なんでだろう、あっ! かたき役がいないからだ。じゃ、かたき役をつくろう。あんパンが食品だから、かたき役はバイキン(ばい菌)がいいかなと思いついて。

世界中見ても、ばい菌のキャラクターなんていないんですよ。なぜかって、ばい菌は目に見えないほど小さいものだから。そこで一つのシンボルとして、バイキンマンというのを描いてみたんです。

すると話が、がぜん面白くなってきて、これは成功だった。つまり光と影ができたんです。光を描こうとすれば、影を描かなくちゃいけない。だからバイキンマンに力を入れて描けば、アンパンマンに自然と光が当たるわけです。

それでアンパンマンのほうには、しょくぱんまん、カレーパンマンとかいろいろ味方をつくったんだけど、バイキンマンも一人だとかわいそうなので、味方をつくってやらなくちゃいけない。で、バイキン星から、女の子のばい菌、ドキンちゃんというのが助けに来た、ということにしたんですね。ドキンとする、というのでドキンちゃんという、いいかげんな名前で出したんですけど、これも割合に成功だった。

それでこういう話を描くと、非常に面白いことが起きるんです。バイキンマンを助けるために彼女はやって来たはずなのに、一緒に戦うようになると、どういうわけか女の子のほうが強くなっちゃってね。ドキンちゃんが、バイキンマンをあごで使うようになって。不思議ですね、夫婦生活と同じなんです。

やなせたかし

1919(大正8)年2月6日生まれ。出身は高知県香美市。東京高等工芸学校図案科(現・千葉大学工学部)卒業後、製薬会社の宣伝部に入社。1941(昭和16)年、野戦重砲兵として日中戦争に出征。終戦後、高知新聞社の記者、三越百貨店の宣伝部デザイナーを経て、独立。漫画家の肩書きを掲げるが、舞台美術や放送作家、演出家、作詞家、デザイナー、編集者など多分野で活躍する。1973年、代表作である『あんぱんまん』の絵本を出版。シリーズ化され、1988年、テレビでのアニメ放映が始まったのを機に大ブレイクする。
『詩とメルヘン』の編集長を長年務め(1973〜2003年)、季刊雑誌『詩とファンタジー』の責任編集も手がけた。日本漫画家協会理事長を、2000年5月〜2012年6月まで務めた後、会長。2013年10月逝去。

何のために生まれてきたの?

何のために生まれてきたの?』(やなせたかし著 /PHP研究所)

25年春スタートのNHK連続テレビ小説「あんぱん」のモデル!

脚本家・中園ミホさん(「あんぱん」作者)、推薦!
「69歳でアンパンマンが大ヒット。愛と勇気にみちた生き方が素敵です!」

本書は、大反響を呼んだNHK「100年インタビュー」のやなせたかし氏の回を書籍化。
苦しい時もユーモアと好奇心を忘れなかった著者が、半生を振り返りつつ前向きに生きる秘訣を語ります。波瀾の人生を乗り越えて綴った、痛快人生論。
読むだけで元気が出る1冊です。