3歳にキレる大人げない夫 どうすれば改善?【鴻上尚史の人生相談】

鴻上尚史
2025.05.08 14:19 2025.05.12 11:50

夫婦喧嘩を聞く子ども

3歳の娘に対し、大人げない対応をする35歳の夫。「何とかしたいのですが、良い方法が分からず悩んでいます」と悩むあきさんにむけられた、鴻上さんのアドバイスは?

作家・演出家の鴻上尚史さんに寄せられた人生相談と、その回答をご紹介します。

※本稿は鴻上尚史『鴻上尚史の具体的で実行可能!な ほがらか人生相談』(朝日新聞出版)より一部抜粋・編集したものです。

3歳の娘に対する夫の態度が大人げなく、なんとかしたいです

(30歳・女性 あき)

3歳になる娘に対する夫(35歳)の態度が大人げなく、またそれを本人が正当化し私や他人の意見に全く耳を貸しません。

具体的には、入浴や寝かしつけで「パパはいや」と言われただけで激怒し「二度と面倒を見ない! お前なんか嫌いだ!」と子どもに怒鳴る、大きな声を出したり駄々をこねて泣いたりすると「うるさい! パパはうるさいのは嫌いなんだ。静かにしろ。大声を出す必要なんかないじゃないか!」とイライラする……といった感じです。「まだ3歳なんだから」と言うと「お前には嫌われる悲しさが分かっていない」「大声などは迷惑だからしっかりしつけなければ駄目だ」と取り合わず、むしろ私にも怒りを向けてきます。子どもが(彼にとって)扱いやすいときなどはコロッと態度が変わり機嫌良く遊んだりしています。

本人の精神状態が幼いのでしょうか。子どもも可哀想ですし私もストレスなので何とかしたいのですが、良い方法が分からず悩んでいます。

夫婦喧嘩

鴻上尚史さんの回答

あきさん。困りましたね。「本人の精神状態が幼いのでしょうか」と書かれていますが、僕もそうだと思います。「『パパはいや』と言われただけで激怒し『二度と面倒を見ない! お前なんか嫌いだ!』」と反応し、でも、「扱いやすいときなどはコロッと態度が変わり機嫌良く遊んだり」しているのは、あきらかに幼い精神状態でしょう。

なおかつ、「本人が正当化し私や他人の意見に全く耳を貸しません」ということなんですよね。

僕は、これはかなり深刻な状況だと思っています。

娘さんは父親に対して怯えていませんか? 父親が望む子供になろうとしていませんか?

残念なことに、このまま娘が成長をしていくと、もっともっと父親として納得ができないことが増えていくでしょう。「しっかりしつけなければ駄目だ」という言葉で、娘さんを抑圧していく可能性がかなり高いと思います。娘さんとの対立も深刻になっていくでしょう。

「お前には嫌われる悲しさが分かっていない」という言い方は、僕には意味不明です。3歳の娘の反応に対して「嫌われる悲しさ」という表現を平気でできるのは、精神状態が幼い上に、とても自己中心的な考えを感じます。

子供ができる前はどうでしたか? その時は、幼いとは思いませんでしたか? 何か思い通りにならないことがあったら、機嫌が悪くなったり爆発したりしなかったんですか? 子供にだけ、そうなんでしょうか。子供にだけ、幼い反応を示しているのなら「溺愛」という表現で言えるかもしれません。でも、どうも、そうではないような気がしますが。

あきさん。いずれにせよ、この状態を変えるしかありません。

あきさんは、このまま娘に対する態度が変わらなければ離婚を考えていますか?

それとも、離婚はまったく考えていないですか?

もし、まったく考えていないのなら、あきさんの踏ん張りどころとなると思います。

夫の態度を変えるしかありません。子育ては「自分が嫌われるかどうか」なんてことは関係ないこと。3歳だろうが4歳だろうが5歳だろうが、子供は大きな声を出すこと。それが子供だということ。自分の機嫌の良い時と悪い時で娘に対する接し方を極端に変えてはいけないこと。一番大切なことは3歳児として「迷惑をかけないこと」ではなくて、3歳児としてすくすくと育っていくこと。

それを粘り強く、諦めないで、ぶつかって、戦って、時には子供を抱えて実家に避難しても、つらくて泣いてしまっても、夫を説得するしかないと思います。それ以外には、良い方法はないと僕は思います。というか、それしか方法はないでしょう。

ガチンコで対話するだけだと疲れますから、同時にいろいろと方法を考えましょう。

義母・義父とあきさんの関係はどうですか? 夫の性格について、フランクに話せる関係ですか? それとも、そんなことは話せませんか? もし、いろいろと話せる関係なら、夫との対話のヒントが見つかるかもしれません。夫の性格が義母・義父の育て方にあるようなら、義母・義父はどんなコミュニケイトの仕方をしているかは参考になるでしょう。

「他人の意見に全く耳を貸」さない夫ですが、育児書とかを読ませる機会はありますか? 読んでくれそうですか? 夫の先輩や上司で、子供を持っている人はいませんか? 女性だと一番いいですが、男性でも「子供ってのはそういうものだよ」と教えてくれる人はいませんか? 父親のしつけが厳しくてずっと許せないと思っている娘さんの相談に答えた回(「一冊の本」2020年6月号、単行本『ますますほがらか人生相談』の相談19)を読んでもらうことは可能でしょうか?

僕はあきさんにとても苦しいことを提案しています。でも、今、この苦しさから目を背けると、将来、何倍もの苦しさになることが予想できます。なぜなら、娘さんはどんどん成長し、自分を主張し、夫はますます、許せないと感じると思うからです。

あきさんが夫と末永く暮らしたいと思っているのなら、それも良好な関係で続けたいと思っているのなら、そしてもちろん、娘の幸せを願うのなら、粘り強く対話し続けるしか方法はないと思っているのです。

苦しいですが、踏ん張って下さい。あきさんの奮闘を心から応援します。

鴻上尚史

作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。95年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲・シナリオ賞受賞。ベストセラーに『「空気」と「世間」』、『不死身の特攻兵~軍神はなぜ上官に反抗したか』(共に講談社現代新書)、また、『何とかならない時代の幸福論』(ブレイディみかこさんとの共著/朝日新聞出版)、『君はどう生きるか』(講談社)などがある。X(@KOKAMIShoji)も随時更新中。ニュースサイト「AERA dot.」で『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』を連載中。

X:@KOKAMIShoji

鴻上尚史の具体的で実行可能!な、ほがらか人生相談
鴻上尚史の具体的で実行可能!な ほがらか人生相談』(鴻上尚史著/朝日新聞出版)

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