1歳児は他人を助ける? 赤ちゃんが持つ「道徳と社会性」の不思議
赤ちゃんは生後3ヶ月ごろからすでに「悪い行動」を感じ取り、1歳半ごろには困っている他人を助けようとする行動まで見せることがあるのだそう。
こうした赤ちゃんの中に芽生える「道徳」や「社会性」について、認知発達の研究者である鹿子木康弘先生にお話しを伺いました。
生後3か月で「道徳」の力をもっている
――前回、赤ちゃんは生後3か月ごろから「数の大小を直感的に理解する能力(サビタイジング)」があると伺いました。それ以外にも、1歳くらいの赤ちゃんが持っているあまり知られていない能力はありますか?
「道徳」、簡単に言うと「他者の行動の良し悪し判断する力」ですね。実はこの力は、生後3ヶ月くらいの赤ちゃんでにすでに見られるというのが、過去20年ほどの研究で明らかになってきています。
僕自身はそれに加えて、「赤ちゃんが悪いものをやっつけるような行動をするかどうか」についても研究しています。たとえば、赤ちゃんが「正義の味方」のように、悪いものを罰するような行動をとるのかどうか、という実験ですね。
道徳というのはすべてが生得的(生まれつき)なわけではなく、もちろん学習による部分もあるんですが、「良い」「悪い」とか、「助ける」「邪魔をする」といった、他者の行為に対するポジティブ・ネガティブに評価をする力というのは、かなり早い時期から備わっていると言われています。
――そうした力があるかどうかは、どうやって調べるのでしょうか。
2006年におこなわれた有名な研究があります。たとえば、キャラクターが坂を登ろうとする。そのとき、後ろから押して助けてくれるキャラクターと、上から落ちてきて邪魔をするキャラクター、2種類が登場します。その二つを赤ちゃんに見せて、どちらを選ぶかを調べるんです。
すると、多くの場合、赤ちゃんは「助けるキャラクター」を選ぶ、という反応を見せます。赤ちゃんの選択は、たとえば「リーチング」といって、どちらかをつかむ動作で示されたり、あるいは「選好注視」と呼ばれる、見ている時間の長さで判断されたりします。どちらを長く見るか、あるいはどちらに手を伸ばすかで、赤ちゃんがポジティブに評価している対象がわかるんですね。
こうした研究は、だいたい生後半年から1歳くらいまでの赤ちゃんを対象に行われることが多いです。
赤ちゃんが持つ社会性とは?
――赤ちゃんが持っている能力は、ほかにもありますか?
「向社会性」に関しても面白い話があります。
他人を助けようとする傾向は、1歳以降に見られるようになるんです。
生後14ヶ月~18ヶ月くらいの子どもで実験したところ、誰かが物を落としたとき、それを拾って渡そうとする行動が見られました。しかも、それは見知らぬ他人に対しても起きるんです。
これがだんだん年齢とともに選択的になってきて、3~4歳になると、「良い人は助ける」「悪い人は助けない」といった判断ができるようになる。
つまり、人間というのはもともと「他者を助けるようにできている」生き物なんですね。
チンパンジーなど他の霊長類は、こうした助け合いができないから、大きな社会をつくれない。でも人間は、助け合ったり、逆に悪い人を罰したりする能力があるからこそ、信頼関係を築いて、規模の大きい複雑な社会を築くことができたわけです。
赤ちゃんの心を育てるために
──子どもとの関わり方で大切なことは何でしょうか?
よく言われているのが、「随伴的に振る舞う」という関わり方です。
たとえば、子どもが何か行動したときに、それにすぐ反応してあげるということですね。無視したり放っておいたりするのではなくて、「あ、今こんなことしたな」「こんな声を出したな」と思ったら、すぐに返してあげる。これが「随伴的に反応する」ということです。
そういうやりとりを積み重ねていくことで、子どもの社会性の発達にもつながっていくんです。
また、「顔を見る」こともよく言われていますね。ただ、なんとなく顔を見るだけじゃなくて、「子どもの心の状態をモニターする」という意識が大事です。
子どもが今どんな気持ちなんだろう、疲れてないかな、不安かな、うれしいのかな、といったことを、表情やしぐさからちゃんと感じ取ろうとする。そういう「モニタリングの意識」を持って関わることが、子どもの社会性の発達にとっても重要だとされています。
──子どもの気持ちに寄り添って関わるということなんですね。
そうですね。ただのインタラクション(やりとり)じゃなくて、子どもの内面とつながろうとする関わりが、いちばん大切なんです。
(取材・文:nobico編集部)