宇宙博士・的川泰宣先生が語る「子どもの好き・興味を見つけるために、親にできること」

nobico(のびこ編集部)

7月25日(月)・26日(火)と横浜市役所アトリウムで開催された「ヘーベルメゾン BORIKI えほん箱パーティー2025」※。

初日には、ヘーベルメゾン BORIKI×宇宙博士・的川先生のトークショー「絵本からはじまる宇宙とゆめのはなし」が行われ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授で、はまぎんこども宇宙科学館館長である的川泰宣先生が、子どもの「好き・興味」を見つけるために、親はどのようなことに気を付ければよいのかなどを話されました。夏休み後半、子どもの自由研究のテーマ選びに頭を悩ましているご家庭にも、ヒントになることがあるかもしれません。

※旭化成ホームズグループが運営する「子育て共感賃貸住宅」ヘーベルメゾン BORIKIが行っている絵本巡回サービス「えほん箱」の活動をさらに地域に広めるため開催されたイベントで、2日間で1230名の親子が楽しみました。

同じ「好き」でも、タイプの違いがそれぞれある

――的川先生は宇宙の研究をずっと続けてこられたわけですが、子どもの「好き」「興味」を見つけるために、大人はどんなことに気を付ければよいのでしょうか。

私は海のそばで育っているので、よく釣りに行きました。夜釣りに行くと、魚が釣れるまで見えるものはお星様しかない。だから星が見え始めると、星をつないで自分で星座をつくったりしていました。

ある時、シリウスに行くには光でざっと9年かかる距離があるけれど、ほかの星は違っていて、星までの距離がそれぞれ違うことを知るんですね。天空に張り付いているように見える星だけど、奥行きがそれぞれ違うのかと。星の間を辿って、「何年経ったらここに行って…」と、宇宙を冒険するような気持ちになり、それから星を見る目が全然変わった記憶があります。

ところが、別の子どもは、「赤い星や白い星、色が違う星があるのはどうしてだろう」と思うわけです。さらに別のタイプの子は、「星のことはどうでもいいけれど、見ている望遠鏡がもっと見えるようにならないかな」と考えたりしている。

――「星に興味を持っている」ことだけでも、子どもの中にもさまざまなタイプがあるというわけですね。

そうです。子どもの心の中をよく覗き込めば、いろいろな種類がある。

私のような、星に距離があって「いろいろ旅をしたい」などと思う子どもは「冒険心」が勝っているんですね。「赤い星と白い星がなぜあるのか」と思う子は「好奇心」が勝っていて、「もう少し見える望遠鏡が」という子は、機械づくりが好きなんです。

でも、子ども自身は、そういう違いがあまりわからないので、保護者や近くにいる大人が、その子のもつ微妙な興味をかぎ分けて、子どもたちのセンスの向きを発見してあげることが大切なのではと思います。

天体観測ひとつを通じてでも、そういう心の色というものはかぎ分けることができるので、大人が注意深く子どもを見てあげることが、その子の将来を考えるうえで大切になってくるのではと思います。

――夏休みの自由研究で、先生の子どもの頃のエピソードはありますか?

自由研究ではないのですが、昼間釣りをしている時には星が見えないので海ばかり見ているわけですね。

海って青いですよね。でも、青い海の水をバケツに入れたら透明になる。私が頭の中で考えたのは、「そうだ。海の水は本当は青いけれど、たくさん集まらないと青くならない。濃くないと透明に見えるんだ」と人生で初めての仮説をつくりました。だけど、小学中学年頃になると、虹の原理を考えたりして、この仮説は違う、などと自分の考えを更新していきました。

「子どもの疑問」をまず褒め、一緒に考えることが大切

おすすめの宇宙絵本

――自分の頭でいろいろ考えることが大切なのですね。自由研究にあたっては、親はどのようなことを心掛ければ良いでしょうか。

やはり子どもたちの様子を毎日見て、子どもの「好きなこと」「興味は何か」を一緒に考えてあげることだと思います。

そして「好きだけど、何を根拠にすればいいのかわからない」という時は、「好き・興味」の中でも一番カギになるもの、その中でも一番好きなことは何なのかというのをもう少し深掘りして聞いてみること。

例えば、「星が大好き」と言うのであれば、「星の色っていろいろあるよね。距離もいろいろあるよね」というふうに話を向けて、テーマを絞り込んでいく。それをサポートする。

3番目は、子どもがちょっとつまずいた時に、保護者の方が一緒に考えてあげるということが大切だと思います。

ある女の子が、「料理の時に『ナスにはヘタがあるけど、キュウリにはヘタがないのはどうして?』とママに聞いたら、『そんなくだらないことを考えず、算数でもやりなさい』と言われた」と話してくれました。

その子がどうして欲しかったかといえば、「いい質問だね」と褒めてもらって、「せっかくいい質問をしたんだから、一緒に考えてみようか」って言ってほしかったんです。

たぶん、子どもを助けてあげるとは、「正解を言ってあげる」ことではないと思います。一緒になって「いい質問だね」と褒めてあげて、一緒になって図鑑やいろいろなもので考えて調べてみること。

そうすることで、子どもは「自分の質問は、良い質問だ」と肯定することができ、自分の頭に自信を持つことができる。これが大事だと思います。

子どもの心に火をつけ、社会性を大きく育む

――宇宙教育を通して、先生は子どもの成長をどのように考えていらっしゃいますか?

子どもの頃は、家の中だけでなく、外に出て虫など自然と接していろいろなものの中で遊ぶことが大切だと思います。

人間だけが、他者と共感しあい、協力していける生き物です。人間はまず「音」に共感し、その後に「言葉」を作って対話するようになり、それによって「社会性」が生じました。だから、私は人間の中で一番大切なものは「社会性」だと思っています。

「社会性」というのは、皆がお互いに認め合って、他の人の心を自分で想像し、一緒に力を合わせて大きな仕事をすること。そして、たぶん世界中で一番協力し合わなければならないのは「平和」をどうやって作るかだと思うのですが、そういう力をここに来た子どもたちにぜひ育んでほしい。「社会性」を子どもたちの心の中に、大きく大きく育てていくのが大人の仕事だと思います。

最後に、私が大変感動した、アメリカの教育学者であるウィリアム・アーサー・ウォードの言葉を皆さんにプレゼントしたいと思います。

「平凡な教師は、おしゃべりをする。

良い教師は、説明する。

優秀な教師は、やってみせる。

しかし、最高の教師は、子どもの心に火をつける」