伝えたいのに伝わらない…赤ちゃんのもどかしさを解消! “ベビーサイン”で深まる親子の絆
まだ言葉を話せない赤ちゃんは、日々たくさんの思いを抱えながらも、うまく伝えられずにもどかしさを感じています。指差しや表情だけでは限界があり、親も本当の気持ちを読み取れないことも。
そんな赤ちゃんの気持ちを“目で見える言葉”に変える“ベビーサイン”の魅力と実践のコツを、ベビーサインの専門家・吉中みちるさんの著書よりご紹介します。
※本稿は、『ベビーサイン図鑑: 簡単なジェスチャーだけで、2歳児以下とも双方向コミュニケーション!』(吉中みちる/Gakken)から一部抜粋・編集したものです。
言葉を話せない赤ちゃんは「思いを伝えられないもどかしさ」を感じている
赤ちゃんのフラストレーションをちょっと体験できる面白い実験があります。イギリスの心理療法士・フィリッパ・ペリーのベストセラー『子どもとの関係が変わる 自分の親に読んでほしかった本』(日本経済新聞出版)からの引用です。
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「床に寝そべってみましょう。そして、その姿勢のまま、寂しいとか、おなかが減ったとか、喉が渇いたとか、居心地が悪いと感じながら、言葉がしゃべれないのはどんな気分か想像してみてください。心と体だけがあって、座ることも、寝返りを打つことも、誰かと一緒にいると感じることもできないのはどんな気分でしょうか。あなたにできるのは、そこに横たわって自分の気持ちに浸ることだけです。(中略)まだ言葉も、過去も未来もなく、いまこの瞬間と、心と体があるだけです。赤ちゃんはそういう状態であることを忘れないでください。」
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これは「ねんね」の状態の疑似体験ですが、お座りができるようになっても、ハイハイができるようになっても、まだ言葉を話せない赤ちゃんは「思いを伝えられないもどかしさ」を感じています。
少し言葉を話せるようになっても同じです。小椋たみ子らの研究によると、1歳半で理解している単語は約200ですが、そんなに多くの単語を話せる子どもはまずいません。
「指差し」は便利だけど、それだけだと限界がある
さて、ここで赤ちゃんが「指差し」というスキルを身につけたとしましょう。
「見てほしい」
「とってほしい」
「食べたい」
こうした要求の対象を「指差し」で示すことで、大人の目線を誘導できるようになり、伝えられることがぐんと増えます。赤ちゃんにとって、とても便利なスキルですね!
でも……伝えたいものが、その場にないときはどうでしょうか?
「りんごを食べたい」(でも、テーブルの上にはない)
「パパはどこ?」(今、目の前にいない)
「ボールを持ってきて!」(遠くにある)
指差しだけでは、こういった「目の前にないもの」を伝えるのは難しいですよね。
さらに、単なる「もの」ではない気持ちや考えを伝えたい時はどうでしょうか?
「このリンゴ、おいしい!」の『おいしい』
「パパ大好き!」の『大好き』
「このボール、大きいね!」の『大きい』
赤ちゃんの伝えたいことは、どんどん増え、どんどん複雑になっていきます。そうなると単純な「指差し」では到底間に合わなくなってくるのです。
表情や仕草だけでは伝わらない思いもある

「ベビーサインがなくても、仕草や表情でわかるのでは?」
そう思う方もいるかもしれません。
確かに、小さな頃の赤ちゃんのニーズはシンプルですから比較的わかりやすく、赤ちゃん自身の思いも明確でないことがあります。ですから、大人が読み取ってあげるだけで、ある程度は対応できますね。
しかし、赤ちゃんも成長して1歳、2歳と年齢を重ねていくと、ニーズが複雑になり、「自己主張」がどんどん増えてきます。そうなると、大人が読み取るだけでは満足できないことも出てきます。
例えば、
▪ 夜中に泣いていた赤ちゃんが【お茶】のベビーサインをしてくれたとしたら?
→「おっぱいじゃなかった……。喉が渇いてたんだ!」と原因がわかります。
▪ 食事中にごはんを食べない赤ちゃんが【おにぎり】のベビーサインをしたら?
→「形を変えたら食べるんだ!」と気づくことができます。
このように「伝え合えるツール」があると明確にやり取りできるので本当に助かります。
そこで、赤ちゃんを含め2歳前後までの小さな子どもとのコミュニケーションで、強力な味方になるのがベビーサインです。ベビーサインは長い歴史を持つ手話という優れた言語に基づいた「子ども向けの『目で見える言葉』」となります。
大人とまだ話し言葉を十分に使えない乳幼児がベビーサイン(手話の語彙であるサインと一般的なジェスチャーを赤ちゃん用にアレンジした単語集)を通じてコミュニケーションをとります。
例えば、私たち大人が「りんご」について会話する時は、「りんご」と声に出したり(音声言語)、文字にして書いたり(文字言語)します。でも、2歳前後までの子どもにはまだどちらも難しいですよね。でも、手を使うベビーサインで【りんご】と伝えることができるのです。まだ話せなくても書けなくても、子どもはこの視覚的な言語で自らの意思を表現できるのです。
今すぐ試せる! この記事に出てくるベビーサイン
【お茶】

Waterの頭文字Wを作って、人差し指をあごの中央に2回トントンする。
【おにぎり】

両手でおにぎりを作っている仕草。
【りんご】

カギ状に曲げた人差し指を頬にあて、手首をひねる。
『ベビーサイン図鑑: 簡単なジェスチャーだけで、2歳児以下とも双方向コミュニケーション!』(吉中みちる/Gakken)
20周年を迎えた「ベビーサイン」が決定版となって、大幅にパワーアップして登場!
「ベビーサイン」とは、簡単なジェスチャーだけで、まだ言葉が話せない2歳くらいまでの子どもとも双方向コミュニケーションがとれる方法。
子どもは、言葉を話し始める前から、たくさんの気持ちや願いを抱えています。
「おしまいにしたい」「もっとやってみたい」「こわいよ」「うれしいな」「バスが来たよ」「リンゴが食べたい」――そんな思いを、言葉の代わりに“手の動き”で伝え合えるのが「ベビーサイン」です。
親子の心の距離をぐっと近づけてくれます。