「4年間ママと会話しない息子」とM-1に出場した父 2丁拳銃・小堀さんがたどりついた“思春期の見守り方”【後編】

小堀裕之(芸人・2丁拳銃)

この記事の画像(2枚)

思春期の子どもとの関係は、親にとっていつも試行錯誤の連続です。
お笑い芸人・2丁拳銃の小堀裕之さんの次男・響己さんは、中学3年の夏を境にママと話さなくなり、4年間その関係が続いているといいます。
いま、家族の中で唯一会話をしているのは、パパである小堀さん。今年、同じ芸人の道へ進んだ響己さんを、父としてどんな思いで見つめているのでしょうか。

中学に上がってから「怖さ」が出てきた

――nobicoにも、ママと男の子の関係が一番難しくなりがちで、あんなに可愛かった子が急に口をきいてくれなくなった、などの声が届くことがあります。

【小堀】響己は中学に上がってから、ちょっと”怖さ”が出てた感じですね。思春期特有のホルモンバランスもあるでしょうし。

嫁も、喋れなくなった響己のことを「怖い」とよく言ってます。

――奥様が感じている「怖さ」というのは?

【小堀】態度ですかね。ママもどこかで「負けへんで」みたいな気持ちはあると思うんですけど、どう気遣おうかって思ってるうちに4年が経ってしまった。しゃべらんまま4年。もちろん、ビクビク怯えるような怖さではないです。

しょっちゅう僕に「こうしてあげて」「響己帰ってこんけど」みたいな連絡がママから来ます。

――「ビビる怖さ」じゃなく、変な対応でこじらせそうな怖さ、ですね。

【小堀】何を考えているか分からない、どう転ぶか分からない怖さですね。

――ご夫婦で話し合いをされたりも?

【小堀】彼はNSCで芸人を目指しているので、そこは任せてもらってます。「響己のことは頼んだ。いろいろ教えてあげて」と。

漫才が変えた“親子の関係性”

――お笑い面では、厳しめの指導をすることもありますか?

【小堀】響己は「ウェスタンジーニャ」というコンビを組んでいて、ネタ動画がしょっちゅう送られてきます。「これどう思う?」って。向こうが頭を下げるようになってきたので、こちらも「ここ意味が分からへん」「バラバラやから、こうしなさい」とはっきり言う。口調は強くないけど、きっちり言います。

相方の子も呼んで、2分の動画に対して2時間ぐらい指導することもありますね。響己も素直に受け入れてます。

――親子コンビとしてはどうなんでしょうか?

【小堀】去年はコンビ仲が悪くて、響己は相方としても反抗期でした。M-1には今年を含めて4回出ていますけど、不仲だった去年は2回戦止まりでした。

僕が遅刻したり、お酒飲んだり、ネタ合わせをあまりしなかったから腹が立っていたんでしょうね。

でもNSCに入ってから、周りから「お前の父ちゃんはすごい」みたいな話を聞いて、「あれ?」と思い始めたみたいです。

今はやっと「先輩・後輩」「師匠・弟子」になってきた感じです。

――響己さんが高校2年生ぐらいで「芸人を目指す」と言った時、どう思いましたか?

【小堀】嬉しさ半分、心配半分。「本気か?覚悟あるんやな?」と確かめましたね。嬉しかったし、コンビとしてもやりやすい。ただ、バックアップしすぎ・手伝いすぎは良くない。向こうも相方がいるのに、僕と組んでM-1に出るのもどうなん、とは思ったけど、長い人生やし、今しかできへん経験はやっとこう、と。

響己は溜め込むタイプだから「嫌なら嫌って言え」と教育してるつもりです。やらされてる、にならないように。ネタも書かせるし、全部向こう発信で。「自分で気づいて、やりたいと思って、面白くしたい」と思わんと無理。力づくでやっても良くないと思います。

――それでM-1の3回戦はすごいですね。

【小堀】そうですね。最近は、自分の体重のかかったネタを書くようになってきました。自分の体重が乗ってるネタは強い。それがあれば僕はちょっと整えて”笑いやすい”ようにするだけ。30年以上芸人やってるので。

――テクニックでカバーできる部分は親が支える。

【小堀】そうですね。ゼロイチは本人がやらんと良くないと思います。

――いい親子関係ですね。本当にいいお話です。

【小堀】…まあ、僕、全然家に帰ってなかったんですけどね(笑)。

一緒に過ごしていて知った“次男の意外な素顔”

――コンビを組んで一緒にいる時間が長くなったことで、響己さんとの向き合い方や感覚も変わってきましたか?

【小堀】特に男の子は、「酒を飲めるようになってからが親子の会話」というのが、僕の中にあるんです。もちろん響己はまだ飲んでないけど、僕が飲む席で、だらだら自慢話を聞いてもらってます(笑)。長男は飲み始めてから、だいぶ長く付き合ってくれる。

子どもらと一緒に飲むとすごい酔うんですよ、楽しすぎて。

でも、長男と僕が2人で飲みに行ってたのも、響己にしたら思うところがあったかも。僕と漫才をするのも、もっと会話したいし構ってほしいから、という側面はあると思います。

――響己さんは3番目、4番目のご兄弟とも喋らないんですよね?

【小堀】子ども4人と僕で出かける時は、響己もしゃべってました。ママがいる前では照れくさい、許すタイミングが難しい、というのはあると思います。

そろそろ家族に「助けてもらってる」のが分かってきて、「ちゃんと頭下げな」と思ってる頃かもしれないですね。

――ママと口をきいていない間、小堀さんが一番響己さんと時間を過ごしていると思いますが、何か気づきはありましたか?

【小堀】響己はモテてました(笑)。

軽く恋愛相談を受けたりしてます。二人きりだと照れるから、後輩たちがいる場で「ところで恋愛の話やけど…」みたいに。

恋人の情報は、最初はママから入ってくるんです。部屋を掃除したときに「仲直りの仕方」みたいな本が置いてあって、「多分、今フラれてるんちゃう?」と。本人に聞いてみたら本当に別れてた。

彼女ができたときも、部屋に写真が置いてあって分かった。手紙も置いてあって。こういうの、全部ママから僕に来る。

つまりママはずっと気にしてるし、見捨てても諦めてもいない。僕はそれを受けて、響己からも話を聞いて、またママに共有。お互い「せやろ?」と情報交換してます。

――親子で恋愛話ができるのは素敵ですね。

【小堀】いや、普通は父親と恋愛話なんて嫌でしょう(笑)。響己も本心ではどう思っているか。

でもまあ、楽しいですよ。息子の恋愛話で、僕が教えるみたいなのも。「『今度会いたい』って打て、今!」とか言ったりして(笑)。

僕らがネタ合わせしてる時に、響己から「今、彼女と別れた」と言われたこともあります。ささっとネタ合わせ終わらせて、どうやったらもう一度彼女に振り向いてもらえるか作戦会議をしました。

――なんだか泣ける話です…。

【小堀】”クズ”と言われることも多いですが、ちゃんと家族とは向き合ってます。

僕は子どもに媚びたくないタイプでなんです。酒の席につき合ってくれるようになって、やっと話ができるようになった感じ。後輩と喋るみたいに、ずっと本気で向き合ってる。

好かれようと思ってないし、嫌われてもいい。特に娘には嫌われてもいい、くらいの気持ち。この前も久しぶりに娘と部活の話をしたけど、嫌われてもいいから本気で言いました。実際、「パパ嫌い」と泣かれたけど、「ええよ、ほんまやから」と。

――家庭の中で役割分担がはっきりしています。二人とも甘やかすだけでは、なかなか成長できないですよね。

【小堀】まあ、ママにうまく利用されてるだけかも(笑)。

子どもを“そっと導く”コツを教えてくれたのは…

――最後に、思春期の母と息子の関係に悩むお母さんたちにメッセージをいただけますか?

【小堀】僕は嫁に「大丈夫」と言っていました。時間が解決するし、大したことじゃない、とずっと思ってました。

悩んでる人に何て言うたらええんやろ…でも、子どもはバカじゃない。信じてあげるのが大事。

――小堀さんご自身も信じて待っているのですね。

【小堀】自分の子を信じる。無理に急いで教えようとしても、本人が納得せんと変わらん。何十年かかってもええ。あの時はうまくいかんかったとしても、後から「エピソードトーク」になる。僕はそう思ってます。

――今日のお話で、「待つ」ことの意義を感じました。

【小堀】ちょっとした”補助”は大事かもしれない。でも気づかれへんように。自分で「こっちを選んだ」と思えるように。反抗期に「こっち行け」と言うと、反発するから。

ネタも「俺が書いたやつや」と思ってほしい。家族とも「喋りたくなったから、喋った」と最終的になるように。

まあこれ、吉本のマネージャーのやり口なんですよね(笑)。自然にあっちへ行くようにする、みたいな。

――つまり、子育ては”吉本のマネージャー”に学ぶ(笑)。

【小堀】「僕は何も知らないですよ、あなたがやると言ったんでしょう」って。吉本のマネージャーはそうしてると思う。人を育てるって、そういうことなんですね。

(取材・編集:nobico編集部 片平奈々子)