なかなか変わらない子どもに、「どうしてできないの」「いい加減にしなさい!」などと怒鳴ってしまう。こんな言い方でガマンは身につくのだろうか。子どもを傷つけているだけなんじゃないか。一生懸命になるほど、空回りしているような気持ちになってしまうかもしれません。でも、そんなときこそ、チャンスです。
 

 

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なぜ、ガマンが必要なの? 

「ガマンさせるなんてかわいそう」「何でも好きにさせたい」――でもちょっと待ってください。

それはお子さんの「これから」のためになりますか?

 

そもそもガマンって、何?

「ちっともガマンができない」「いつも自分の気持ちを抑えこむ」どっちも心配なのです。

ガマンとは、自分の感情をそのまま出さずに、自分でコントロールして抑えることです。日々の生活の中には、そして世の中にはやりたいと思っているのにやってはいけないこと、逆にやりたくないのにやらなくてはいけないことがたくさんあります。そのとき、自分の中にき上がる感情をストレートに出していては、この世の中では生きにくい。周囲の人と衝突してばかりで、孤立してしまうでしょう。

ですから、欲望と抑制のバランスをうまくとれるようにならなくてはいけません。それが「ガマン」です。本人の立場に立てば「ストレス」とも言い換えられますが、決して悪いだけのものではなく、とくに子どもの成長にとっては非常に重要な意味を持つものです。

 

すべてが思うままだったら?

幼い時に甘やかされすぎると知的発達の遅れや心の病気になる恐れが……。

人間は、勉強でも仕事でもされたり、むずかしい課題を与えられるなどして適度なストレスがかかればパフォーマンスが上がるという習性を持っています。逆に、ストレスがなく何の刺激も受けないと能力は伸びません。とくに幼児期に過度に甘やかされ、すべて自分の思うままの環境の中で育つと知的発達が遅れたり、将来、心の病気になりやすいという研究結果もあります。

 

「ガマン」ばかりだと?

無理ながんばりを続けると、かえって心が弱くなってしまいます。

子どもの成長のためにガマンは必要ですが、過剰にストレスを与えると子どもの心はつぶれ、かえってやる気を失うことになりかねません。また、ずっと自分の中に抑え込んでいた感情がある時突然爆発して収拾がつかなくなり、暴力をふるうようになる場合もあります。重要なのは、その子の性格や成長の度合いに合わせて、ストレスの強さを大きくしていくこと。また、たまに息抜きをさせて、心の緊張を解いてやることも必要です。

 

ガマンが伸ばす3つの力

バランスのとれたガマンは心の栄養。毎日少し意識するだけで大きな変化がやってきます。

 

1)自立心

「ひとりでできた!」という快感が成長のカギです。

たとえば、赤ちゃんの頃はオムツの始末はお母さんに甘えて任せたまま。ところが、少し成長するとウンチもオシッコもある一定時間ガマンをして、自分でおまるを使ったりトイレに行って用を足せるようになります。すると、お母さんが「よくできたね!」とほめてくれる。このとき人間は初めて、お母さんに頼らずに自分の力でできたという自立の快感を味わいます。したがって、その快感をもっと味わいたいからガマンするようになる、ガマンができれば自立の快感をさらに味わえる……というふうに、ガマンと自立は車の両輪なのです。


2)社会性

「こんなことをしたらカッコ悪い」という感覚を持つことからスタート。

あのオモチャがほしいのに買ってもらえない。泣いてダダをこねたいけど周りの人に笑われるから、できない。すごく楽しくてはしゃぎたい気分だけれど、今は電車の中だからそんなことをしたら恥ずかしい……などと考えて、子どもはガマンすることを覚えていきます。子どもにとって、この「こんなことをしたらカッコ悪い」という感覚が自分を高めたいという欲求につながり、自らガマンする力が育っていくのです。そんな経験を重ねるうちに人の目を意識するようになり、自分の行動を客観視できるようになる。その積み重ねによって、社会性というものが育っていきます。


3)思いやりの心

相手の気持ちを想像しながら行動できるようになります。

相手の気持ちを読み、理解する力を身につけていくことは、小学校における発達課題のひとつです。集団生活を送る中で、こんなことをしたら相手は怒るだろうな、これを言ったら相手は傷つくな、ということを失敗を重ねながら覚えていく。そうやって自分の感情をコントロールするうちに相手の立場に立った、思いやりのある行動ができるようになるのです。ただし、子どもの頃から人の気持ちを優先してガマンしすぎるのも問題。親としては子どもに「この場合は自分の気持ちを優先していいんだよ」というふうに教えていくことも肝心です。

 

(取材・文:鈴木裕子)


 


 

和田秀樹 (わだ ひでき)
精神科医。1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。現在は、精神科医、国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学経済学部非常勤講師。著書に『勉強できる子のママがしていること』(PHP文庫)など多数。

『PHPのびのび子育て』は未来を担う子どもたちの健全な成長と幸せを願って、発刊している月刊誌です。