特別支援学校で行われる「子どもの偏食」解決への2つのアプローチ

平熱
2024.05.13 14:43 2023.04.12 11:50

②「自ら選べないメニューが出たときに、食べるものがない」問題

泣く女の子

毎日のように連絡帳に「今日も半分しか食べませんでした」とか「鯖の味噌煮はひと舐めしただけでした」なんて書かれたら気が滅入るのはわかります。食べられないものだらけで、毎日お腹を空かせている我が子の将来を想像してしまいます。

でも、ですよ。「自ら選べないメニュー」を食べるしかない状況なんて、社会に出たら、ほとんどの場合でありません。

はっきり言ってしまえば、保育園・幼稚園や学校における「給食」は「学習(≒授業)」なので、しんどいです。「食育」なんて大きな看板を掲げられ、いろんな教育的な意味合いもセットにされます。

そして、未だにどこか「(半ば強引にでも)完食させなくてはいけない」と先生たちが思っているところも、子どもを苦しめてしまっているかもしれません。

あと、特別支援学校でよく耳にするのは「将来、施設で出される食事で食べるものがなかったら困る」という意見。たしかに(特別支援)学校を卒業して通う作業所や施設では、有料のお弁当や昼食を出してくれるところがあり、利用している人は多いです。

しかし、それを利用せず、お弁当を持参している利用者さんもいます。まず、強制はされません。

したがって、「偏食なく食事ができる」とおなじくらい「偏食をしつつもたのしめる食事」の手段を考えていくことも大切ではないでしょうか。

笑う子

言いかえれば、「自ら選べないメニューを選択しないですむようなライフスタイルをつくっていく」ことも大事だと考えます。それは自分でお弁当を用意するスキルだったり、栄養バランスの知識だったりします。学校や家庭で、こっちを伸ばす作戦だってあります。

こんなことを言うと身も蓋もないけれど、偏食(食べられないもの)がたくさんある大人だって、数多くいます。アレルギーやなにかしらの信条で、食べられない食材がある方も大勢います。

わたしは栄養に関するプロでもなんでもないので、えらそうなことは言えませんが、そんな大人たちも、十分「健康的」な範囲で生活できていると思うんです。

それはやはり、栄養の偏りはほかの食事やサプリメントで補う、そもそも夜中に食べない、大食いしないなど、いろんなアプローチで調整しているからなんですよね。

じゃあ、苦手な食べ物はどうすればいい?

子どもを抱っこする母親

ここまでは「偏食」に真正面から向き合ってこなかったので、ここからは「偏食」、言いかえると「苦手な食べ物」に対してのアプローチの話を少しだけしていきます。

家庭では、せっかく調理した食事を食べてくれないと心中おだやかではいられないでしょうし、家事や用事が重なるので、そこまで食事(指導)に時間や手間を割けないかもしれません。毎日おつかれさまです、ほんとうに。

その点で言うと、わたしたち教員は子どもたちとの食事に「指導」として向き合う面が強いので、いろんなあの手この手で「苦手な食べ物」に挑んでいます(だから、食事に対して家で困ってることは学校に相談しましょうね)。

特別支援学校では「苦手な食べ物」に対して行うアプローチは大きく分けて2つです。

ひとつは「駆け引き」を行うこと。もうひとつは「スモールステップで条件を弱めていく」ことです。

①「駆け引き」を行う

親を見上げる子ども

これは端的に言うと「嫌いなものを食べたら、好きなものを食べられるよ」みたいなことです。「ポジティブな見通し」をもつことで、目のまえの嫌なことに折り合いをつけて乗り越えていく手法です。

もちろんこれは今回の場面に限らず、あらゆる場面で有効です。

ひと口ずつではなかなか魅力的に感じないので、「嫌いなものをひと口食べたら、大好きなものを3口食べられるよ」くらいのアンバランスな駆け引きからはじめてもいいと思います。

「ひと口食べるごとに、食後に観られる動画が10秒ずつ延びるよ」など、その子の性格や特性、環境によって内容、伝え方を変えてくださいね。

②「スモールステップで条件を弱めていく」

微笑みあう親子

これも①同様に、ほとんどの場面で有効な方法です。「確実に食べられる状態」などから、少しずつ条件をゆるくしていきます。

たとえば「ふりかけがないと白米が食べられない」と言う子どもに対し「ふりかけなしでも食べなさい!」としか言わないのは、プロの仕事じゃありません。

だったら、まず「ふりかけをかけて白米を食べる」ことからスタートして「少しずつふりかけを減らしていく」がクールな道すじです。

これも子どもに伝わる方法で、ふりかけの量を減らしていくことを伝え、減らして食べることができれば、減らした量の200倍祝っていきましょう。

「すごいね! ふりかけをこれだけしか使ってないのに食べられたよ!」なんて声かけされたら、大人のわたしだって苦手なものが食べられそう。

もちろんほかのアプローチ(きざみ食にするなど)もありますが、取り組みやすく、かつ手を替え品を替えながら手数が打てる方法として、こんな例を紹介してみました。

最後に、いちばん大切なことを伝えておきます。

食べないときは、食べません。食べないものは、食べません。

ただ、なにを食べてなにを食べないかに意識を向け続けることより、元気に健康でいるほうが大事だってことは確かですよね。

平熱

平熱

特別支援学校教師。おもに知的障害をもつ子が通う特別支援学校で10年くらい働く現役の先生。小学部、中学部、高等部のすべての学部を担任し、幅広い年齢やニーズの子どもたち、保護者と関わる。「視覚支援」「課題の分解」「スモールステップ」「見えないところを考える」など、発達障害やグレーゾーンの子どもたちだけではなく、全人類に有効な特別支援教育にぞっこん。

X:@365_teacher