小学生の人間関係が「子どもの語彙力」に左右される理由

齋藤孝

言葉の力は人間関係にも影響する

――小学校に入ると、各教科の勉強にも取り組みます。齋藤先生は、勉強の根幹に語彙力や読解力があるとおっしゃっていますね。

(齋藤)これらの力は、国語や文系科目だけに必要な力ではありません。算数の文章問題を理解するのも、理科の実験内容を把握するのも語彙力であり読解力です。

もちろん、人間関係にも必要です。例えば、友だちに「このマンガ、貸して」と言ったとします。友だちが「まだ読み終わってないから、ダメ」と言ったら、普通は「読み終わったら貸してくれるかもしれない」と思いますよね。でも、読解力がなければ「ダメ」という言葉だけに反応してしまって、「貸してもらえないんだ」と落ち込んでしまうかもしれません。

よく「空気が読める」「空気が読めない」と言いますが、空気が読めるというのは相手の背景や文脈がわかるということ。言葉を手掛かりにして相手の気持ちを推し量ることです。小学校に入ると人間関係が広がり勉強も難しくなっていくので、ぜひ言葉の力を意識してつけてあげてください。

――先生ご自身は、語彙力があってよかったと思うことはありますか? 学校生活以外で語彙力の効能があればぜひ教えていただきたいです。

(齋藤)私は、子どものころからマンガや本をたくさん読んできました。自分の語彙力については、読書のおかげだと思っています。語彙があるから、自分の思考や感情と言葉にズレがない。伝えたいことを言葉にできますし、もどかしさを感じることもないのでストレスを感じません。そうすると自信もついて自己肯定感が上がるので、心も安定します。

もちろん、「言わなきゃよかった」と後悔することはあります。ですが、別の言葉で言い換えたり真意を説明し直したりできるので、リカバリーは効くような気がします。

――お話を聞いていると、言葉の力と生きる力が結びついているような気がします。

(齋藤)全部が全部言葉の力とは言えませんが、人が生きる上で重要なポイントであるとは思います。

芥川龍之介は手記の中に「ぼんやりとした不安」という言葉を残しましたが、生きづらさや不安というのは、時代を超えて存在するものです。それらは往々にして「ぼんやりと」しているから、解決法がわからずますます不安に陥ってしまう。

そんな時は、視点を近くに移して解像度を高め、具体的で実感できるものに意識を向けるといいのではないでしょうか。例えば自分の感覚。みずみずしい梨を食べた時の「しゃりしゃり」とした食感、吹いてくる風の「さわさわ」とした感覚、あるいはおならの「プー」という音。

オノマトペを通して確かな感覚を見つめることができます。そうすると生きている実感が持て、その実感を他の人と共有できれば心が落ち着きます。言葉の力が生きづらさや不安を軽減する一助になることを願っています。

へんし~ん!ことばブック(小学館)
「とろん」と「どろん」、「ふりふり」と「ぷりぷり」、「はらはら」と「ぱらぱら」…点や丸がつくと意味が変わるオノマトペを、かわいくて、くすっと笑えるイラストとともに紹介。”てんてん”おばけが、ねむいときの「とろん」にとりつくとどんな意味になる?「どろん」と消えちゃった! といった具合に、普通音・濁音・半濁音のオノマトペを対にして、1日のストーリーで紹介します。ページをめくる度に、大人がリアクションすると、子どもが喜びます。楽しみながら「伝える力」を養う一冊です。