結婚せずに出産したのは…子どもが保育園に通いだしたら伝えたいこと

松田青子
2023.05.22 18:00 2023.06.08 06:00

顔も知らなくても、ほんの一時でも、つながれる

助けてくれる人が近くにいなかったり、自分が一人に思えて孤独を感じたりするときってありますけど、いろんなつながり方があると思うんです。すれ違っただけの人とのあいだにつながりが生まれることもあるし、それはすごく希望だなと。

子どもを育てていると、小さな助け合いみたいなことが身近に感じられる機会が増えました。この前も出先で子どもの靴下をなくしてしまったんですが、どこで落としたか見当がつかなくてあきらめていたら、数日後に近所の公園に置いてあって。そうやって目にとまるところに置いてくれる人がいたんでしょうね。

その場に居合わせただけの人に助けられるとか、お互いにいいものを教え合うみたいなことは、育児じゃなくてもあると思うんですけど、自分にとって未知のことだから情報をより求めているところが潜在的にあるので、一つひとつがすごくうれしいというか、新鮮に感じています。

一方で、そうじゃないことももちろんあります。区役所の人に結婚しない理由を聞かれたので「名字を変えたくないから」と答えたら「そんなことで!?」と言われたり、2歳の子どもに対して「男のプライドがあるんだね」と言う人に遭遇したり。そういうときの対処法が私にはまだなくて、ただただぼんやりしてしまうんです(笑)。

対処法ができるまでは一つひとつくらっていくしかなくて、くらいながらどうするか決めるしかないんだろうなと思っています。

保育園に行くようになったら子ども自身がいろんな固定観念を持ち帰るようにもなるでしょうし、そういうときも「それがすべてじゃないんだよ」ということを伝えられるような方法を、自分で考えていきたいなと思います。

母性、ちっともピンとこない

子を大切に思う気持ちになぜ「母性」と名付けて、特別で神秘的なものにしなきゃいけないのかという違和感がずっとあったんですが、実際自分に子どもが生まれてみても、「これが母性か!」みたいな瞬間ってないんですよね。

子どもが大事だったりかわいかったり心配だったり、いろいろな気持ちが湧き起こりますけど、おそらくそれらの気持ちが「母性」として語られてきたんじゃないかと思うんです。でも、それって私の気持ちなだけで、別に「母性」じゃなくないですか。

わりと使われがちな言葉だけに、使う前にちょっと考えてみてもいいんではないかなと思います。女性にケアを押し付けるために、都合よく使われることも多いですし。

「母性」と言わずに、「守りたい」「できることをしてあげたい」というふうに気持ちを分解して表現すればいいんじゃないでしょうか。

自分が「母」とか「妻」という感覚もないんですよね。病院とかで「お母さん」と呼ばれたら、自然に「はい」と答えますけど。だから、あるとき「保護者」という言葉にハッとして、すごくいいじゃないかって思いました。もちろん前から知っていた言葉ですけど、「保護する者」ってなんてぴったりなんだと。性別も関係ないですし。

感覚的に落ち着かないことはしたくなくて、それは「抵抗する」という強い気持ちよりは、「やりたくないことはやりたくない」と言うほうが近いかもしれません。

子どもの父親の人と結婚しないのもそうです。40近くまで生きてきて今さら名字が変わるのはとも思いましたし、変えるのは96パーセントが女性という状況で素直に名字を変える気持ちにもなれません。向こうも自分の名字をけっこう気に入ってると言うので、じゃあ別にいいよねって。

選択的夫婦別姓に7割方の人が賛成しているのに、政権が変えない状態が長いこと続いているわけですよね。でも人の一生って有限で、待っていられるものでもない。ひどい話です。

はじめから名字が選べて、個人の選択が尊重されて、こんなことをいちいち経験しなくて済むならば、もっとほかのことを考えられるんじゃないかという気持ちもあるんですが、私はなんでもフィールドワークのように考えてしまうところがあって、おかしなことが起こっても、「あ、こういうふうになるんだ」と、そのときの自分を含めて観察してしまうところがあります。

今もうここで生きている状態なので、自分でしっかりと見つめて、考えて、書いていきたいなと思っています。

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