親の期待が「子どもの自己肯定感」に悪影響となるいくつかのパターン
進学校の中学生を研究して分かったこと
心理学者のスニヤ・S・ルター氏は、この現象について何十年も研究を続けています。1990年代後半、ルター氏の研究チームはアメリカ北東部郊外にある裕福な家庭の子が通う高校で調査を開始しました。その結果、裕福な家庭の子は、市街地の低所得家庭の子に比べて飲酒率、大麻などの違法薬物使用率、不安症発症率が高かったそうです。
また、裕福な家庭の女子生徒は、10代女子の全国平均に比べてうつの兆候が見られる確率が2~3倍高かったそうです。裕福な成育環境の優位性を考えると、意外な結果です。
その後、ルター氏が研究対象を「進学校に通う子」(親が高学歴で裕福な家庭が大多数)にして調査を続けたところ、やはりうつや不安症の発症率、飲酒率、タバコや大麻その他薬物使用率が高いことがわかりました。
非行行為に関わる確率は低所得家庭の子と同程度でしたが、非行行為の種類には差異がありました(低所得家庭の子は凶器の所持、裕福な家庭の子は詐欺や窃盗が多い)。
これらの学校の危険性はどこにあるのでしょうか? ルター氏の研究チームは2019年に発表した論文で、「問題は全て、1つの原因から派生しています。それは、『常に実績を出し続け、他人より優秀であれ』というプレッシャーです」と述べています。
こうしたプレッシャーは、学校や先生からだけではなく、大部分が親から受けるものです。ルター氏の研究グループは2017 年、進学校の中学校に通う生徒500人以上にインタビューをおこない、親が重視していると思うもの3つを6つの選択肢から選んでもらいました。
その結果、親がやさしさや思いやりよりも成果を重視していると感じている生徒は、プレッシャーを感じていない生徒に比べて自己肯定感が低く、心の不調を抱える傾向があり、成績も悪かったそうです。ルター氏は私に説明してくれました。
「自分や他人が設定した高い目標を全て達成できるかどうかで自己肯定感が決まるとしたら、目標が達成できなければがっかりし憂うつになるのは当然です」。
また、親が勉強自体の重要性よりも成績を重視すると、子どもは自己不信に陥る傾向があるとする研究結果もあります。
なお、これは子どもが「どう感じるか」の問題です。子どもに向かって「やさしい人になるより、いい成績を取るほうが大事だよ」と言う親がたくさんいるとは思えません。
けれども、やさしさや思いやりのある言動よりもよい成績ばかりをほめていると、子どもはそう推測してしまうのです。同じような報告書は他にもいくつかあります。
期待と愛情表現のバランスをとることが重要
これを読んで、「大変、子どもにひどいことをしてしまった」とあせっている方、安心してください。全員ではないにせよ、ほとんどの親は子どもに成果を求めてプレッシャーを与えた経験があるものです。だからと言って全ての子がその後ずっと追いつめられた人生を過ごすと決まったわけではありません。
親が子どもにできる限りのことをしたいと思うのを、誰が非難できるでしょうか? 子どもに優秀であってほしいと望むのは愛情あればこそですし、実際に起こっている社会変動に不安を感じているからです。
「子どもに大きな望みや期待を抱くのをやめるべきだ」というのは非現実的ですし、そんな言葉が役に立つとは思っていません。
ではどうすべきかというと、子どもに抱く期待と愛情表現のバランスをとるべきなのです。
子どもの感情を傷つけるのは、親が「常に」「長期的に」成果を求めてプレッシャーを与え続け、子どもが失敗したときに批判したり、愛情表現をしなくなる場合だけです。
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