「なぜ人を殺してはいけないの?」子どもの考える力を伸ばす3つの質問
与えられた情報を鵜呑みにせず、自分の頭で判断する力は生きていく上で非常に大切です。子どもの思考力を伸ばすために、答えのない問いについて親子で色々な視点から考えてみましょう。心理師の中野日出美さんが3つの質問を紹介します。
※本稿は中野日出美著『自信がない・考えるのが苦手・傷つきやすい 「心が強い子」に育つ100の質問』(大和出版)から一部抜粋・編集したものです。
なぜ、思考力が必要なの?
本稿では、お子さんの思考力を高めるための質問をご紹介していきます。なぜなら、思考こそが、その人がその人であることの証だからです。
思考力のある人は、テーマを与えられた際、自分の頭で考え、自分の言葉で話すことができます。一方、思考力のない人は、まるで空っぽの容器に水が注がれるかのように他の人の思考が頭の中に注がれ、それを自分の思考のように感じ、その考えに自分が乗っ取られてしまいます。
たとえば、過去の歴史を振り返っても、ほんの一部の人たちが情報を操作し、国民の憎しみや怒りを煽ることで、戦争の大義名分ができ上がりました。そして、国民はまるで自分たちの自由意志であるかのように、戦争へと突入していきました。
しかし、もしも多くの国民たちが国から与えられる一方的な情報だけではなく、自分たちで情報収集する力をもち、それらをもとに客観的な視点から自分の頭でものを考え、自分の言葉で話すことができたとしたらどうでしょう?
そう、あんなにもたくさんの一般市民が戦火に巻き込まれることはなかったかもしれません。
ネットが普及している現代では、多方面からの情報を得ることができます。しかし、たとえば、ある思想に偏った情報を一度選択すると、それと似た情報のほうを得ることができやすくなって、ますます偏った情報に傾いていくという問題点もあります。
コロナによるパンデミック下で話題になった「ワクチン陰謀説」「アメリカ大統領選の投票用紙差し替え疑惑」なども、自分で検証する力をもっていれば、おいそれとは信じられないことだというのがわかるはずです。
人は、自分が信じたい情報を真実だと思い込む傾向があります。だからこそ、自分の力で多角的に客観的な情報を得るための思考力が必要となるのです。
学校で教えられたことを、ただ記憶するのではなく、自分の頭で考えるような訓練をする─。それこそが思考力を育むおおもとになります。
たとえば歴史にしても、ただ暗記するのではなく、「なぜ、日本は戦争の道へと向かったのだろうか?」「戦争を回避する方法はなかったのか?」という具合に考えることこそが歴史を学ぶ本当の意義です。「なぜ?」と「どうしたら?」を自分の頭で考えるためには、たくさんの知識と多角的な視点、柔軟な考え方が必要です。
そして、当然のことながら、そんな力を身につけられたら、問題解決能力が高くなります。
人生は、そもそもがでこぼこ道です。子ども時代は、いくら親が子どもの歩む道を整備してあげても、社会に出れば、みんな同じでこぼこ道を歩くしかありません。
人生でつまずいたり、転んだりしたときに頼りになるのは、体勢を立て直したり、立ち上がる力です。そして、そのときにこそ必要になるのが思考力なのです。
本稿では、お子さんの顕在意識と潜在意識の両方を刺激し、より賢く、強く生き延びるための思考力を育む質問をご用意いたしました。
どうぞ、お子さんと一緒に、1つの質問に対して、できるだけたくさんの答えを出してみてください。
生き抜くために必要なものは何だろう?
【質問1】江戸時代にタイムスリップしてしまうとして、3つだけ好きなものをもっていけるとしたら、何をもっていきますか?
これは、今でもよく、大人になった私の娘と私が妄想する質問です。いい大人同士が本気になって小1時間、ああでもない、こうでもないと議論しています。
今のお子さんだと、「スマホ、ゲーム機、充電器」などと答えるかもしれません。その場合は、「江戸時代にそんなものをもっていっても、電気がないし、インターネットもないから意味がないよ」と教えてあげてください。
そうなると、お子さんはかなり困るかもしれません。でも、それこそが狙いです。
「その環境の中で、自分にとって必要なものは何か?」ということを考えさせてほしいのです。知っている人もいない、現代とはまったく別の環境の中で生き延びるための知恵を絞ることで、幅広い視点から思考する力が養われます。
江戸時代のことを知らないお子さんには、親が知っていることやネットで検索して得た情報を教えてあげるといいでしょう。
同じ日本であっても、数百年前と今の違いを知ることや、過去を知っているからこそ使える知恵を考えることには大きな意義があります。