絵本なのに「やりこみ要素」満載! 子どもが飽きない迷路絵本はどのように生まれた?

香川元太郎

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たくさんの遊びや仕掛けが詰め込まれた、香川元太郎さんの迷路絵本シリーズ。

「何度遊んでも飽きない!」と幅広い年齢の子ども達の人気を集め、累計発行部数300万部のヒットを記録しています。

23年11月には、記念すべきシリーズ20作目となる、『地獄の迷路』が発売。
テーマを「地獄」にしたのはなぜ? 複雑な迷路はどのように描いている? などの制作秘話を中心に、シリーズ誕生のきっかけや、ご家族のことなど、香川さんに幅広く語っていただきました。(文・取材:nobico編集部 セコリ)

「地獄」というテーマはすぐに決まった

──大人気の迷路絵本シリーズも、ついに20作目ですね。よくネタ切れしないなと感じるのですが、テーマは毎回どのように決めているんですか?

もうだいぶネタが枯渇していますけど……(笑)。

最近は共著者である香川志織とテーマの候補を5つ~6つほどあげて、その中から編集担当に選んでもらうことが多いですね。

──今回「地獄」をテーマに選んだ理由は何でしょうか?

子どもって基本的に怖いのもが好きなんですよね。
比較的『お化けの迷路』の評判が良かったので、次はちょっとダークな怖い系のテーマにしようと決めていました。

「妖怪」などいくつか案を出したのですが、「地獄」というテーマはタイトル的なインパクトもあって、比較的すぐに決まりましたね。

──怖い中にもギャグシーンのような絵が入っていたりと、怖がらせすぎない工夫がされていると感じました。

怖いところにちょっとクスッと笑えるものがあってもいいんじゃないかと思って。 意外性があると楽しいし、おもしろいと思うんです。

例えば1作目の『時の迷路』でも、古代の日本にわざと現代の文房具を落として、それを読者に探してもらうクイズを入れたり……。

シリーズを通して、「何でこんなところにこんな物が?」といった面白さを大事にしています。

「ごちゃこちゃな道」を迷路に仕上げていく

──香川さんの迷路には、「かんたん」「難しい」といった複数のルートがあるだけでなく、「隠し絵」や「さがしもの(絵探し)」など、たくさんの仕掛けが詰め込まれていますね。
どのように作っているのか想像がつかないのですが……


最初は「どういう絵を描くか?」ということから考えていくんです。
例えば、岩山とか、お屋敷とか……。大きな隠し絵は、この時点でどこに入れるか考えています。

迷路のコースは、最初にごちゃごちゃとした複雑な道を描いていおいて、後から行き止まりや仕掛けを入れたり、道と道をつないだりして完成させていくんです。 ちゃんとした迷路になるのはわりと最後の方なんですよ。

▲すでに素晴らしい完成度に見えますが、実は迷路の道としては出来上がっておらず、ゴールに続く道が複数ある状態です。大きな隠し絵はこの時点でしっかり入っています。

▲黄色の線やオレンジの線が、迷路のコースに。難しい迷路には、「オオカミの絵が描かれた道を全て通る」といった難しい条件が追加されます。

幼少期から、迷路を作るのが好きだった

──香川さんは、子どものころから迷路を作るのがお好きだったんでしょうか。

紙に迷路を描く遊びは学校で流行っていましたし、僕もやっていましたが、それ以上に夢中になっていたのが積み木です。

積み木といっても、父親が作ってくれた手作りのもので、正方形の同じ形のチップがいっぱい集まっただけのものだったんですけど……。
それを積み上げて、立体の迷路を作るのに夢中になっていました。

作った迷路は誰かにやってもらう訳でもなく、完全に自己満足で、作っては壊してを繰り返していましたね。

積み木のおかげで立体感覚が身についたので、絵も平面的ではなく立体的なものが描けるようになりました。
自分の作品の特徴にもなっていると思います。

積み木以外だと、本が結構好きでしたね。いろんな国の知識を本で得たりしていました。あとは昆虫も好きだったので、虫を飼ったり……興味の方向性は幅広かったように思います。

──積み木を作って下さるなんて素敵なお父さんですね。

父親はがつがつと仕事をするタイプではなく、比較的家に居ることが多かったかもしれません。

本マニアで、面白いと思う本は片っ端から買うので、部屋中本だらけになっていたのを覚えています。
自身も小説家を目指して文章を書いて、同人誌に投稿したりしていましたね。

「子どもを喜ばせたい」という想いが絵本の原点

──ご自身のお子さんのために描いた迷路が、迷路絵本の原点になっているとお聞きしました。

息子も小さい頃迷路が好きで、ある日、「お父さん、イラストレーターなら迷路描いてよ」とリクエストされたんです。

簡単にマーカーで迷路を描いたら嬉しそうに遊んでいましたので、ならばと思い2~3枚本格的に凝ったものを描いたら、ものすごく喜んで。

迷路は子供たちにとって不変の遊びだと感じましたね。

▲香川さんがお子さんのために描いた迷路。

──香川さんの手作りの迷路に触れて育ったお子さん達が、現在どんな大人になられたのかが気になります!

息子は研究者になりました。
進化論が専門で、生物の進化をコンピューターでシミュレーションする研究をしています。

研究者はポストドクターといわれるような立場にあるんですけど、お金になる仕事ではないんですよね。
分野によっては企業の研究所が雇ってくれるんですけれど、生き物の進化の研究は、何かの役に直接立つわけではないので……。そういう難しい世界ではあるんですけれど、頑張っているようです。

娘の香川志織は、ご存じの通りイラストレーターとして迷路絵本シリーズを一緒に作ってくれています。

迷路はプログラミングに似ている?

──実は私の3歳の息子も迷路絵本のファンで、親である私も一緒に楽しんで読んでいます。迷路絵本シリーズは、幅広い年齢の子どもが楽しめる絵本だと感じました。

「3歳4歳ぐらいからデビューした」という感想はよくいただきますね。迷路そのものはやらなくても、さがしもの(絵探しクイズ)や隠し絵で楽しんでくれているようです。

小学生にも楽しんでほしいので、一つの絵の中に「簡単な迷路」と「難しい迷路」を用意したり、頭を使う数学的なパズルを入れ込んだりといった工夫もしています。

小学校の受験勉強なんかでよく見る、「立体の図形の展開図はどうなりますか?」という問題をクイズに入れたり。

──遊んでいるうちに、賢い頭が育ちそうですね。

実際に、受験に役立つかどうかはわかりませんけどね(笑)。

──ちなみに、幼少期から迷路に触れることのメリットというものはあるんでしょうか?

迷路というのは、プログラミングとちょっと似ている所があるんですよ。
たとえば、わかれ道が一つあるとする。Aを選んだ場合は行き止まり、Bを選んだ場合は道が通じていて、次のわかれ道に出る。その選択を繰り返してゴールにたどり着くものなので、そういう理論的な感覚は育つかもしれないですね。

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