思春期の「健全な反抗」と「危険な反抗」は別物…精神科医は荒れる子とどう向き合う?
思春期の子どもの反抗的な態度は、自立しようとしている証です。しかし、児童精神科医の佐々木正美さんは、子どもの反抗には2種類あると語ります。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
※本稿は、佐々木正美著『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ: 思春期に向けて、いちばん大切なこと』(大和出版)から、一部抜粋・編集したものです。
子どもの自尊心を傷つける言葉を使っていませんか
最近、学校や家で暴力をふるう子どもが増えています。ちょっとしたことでキレて感情をぶつけたり、モノを投げつけたり、人を叩いたりしてしまうのです。
感情のコントロールができず、がまんができない子どもたちに共通しているのは「自分はだれかから見放されるんじゃないか」という不安感が心の底にあるということです。見放されることに対する不安感がとても大きいのです。
この感情を「見捨てられ抑うつ感情」といいます。
「見捨てられ抑うつ感情」をもっている人は、幼いときに親から、「そんな子はもういりません」「そんな子、お母さんは産んだ覚えありません」「そんな子は、もうよその家にあげてしまいますよ」といったことを繰り返しいわれて育ってきた子たちです。あるいは、親にかまってもらえず放置されて育った子たちです。
そういう子どもは、放っておかれた、大事にしてもらえなかったという思いから、孤独感や孤立感を深め、寄る辺のない不安が高まり、心に深い傷をつくります。子どものなかに蓄積された不安や孤独は、強い怒りとなってあらわれることがあります。
わかりやすい例が、泣き叫ぶ赤ちゃんです。言葉で気持ちを伝えられない赤ちゃんは、抱っこしてほしい、おっぱいがほしい、おむつを替えてほしい、眠いといった欲求を、泣くという行為で訴えます。
赤ちゃんが泣くのは、こうした生理的な欲求だけでなく、さみしい、不安といった感情を表現しているときもあります。赤ちゃんが泣いているときにそのまま放置していると、赤ちゃんの泣き声はさらに激しくなります。これは、赤ちゃんにとって「怒り」の表現です。
思春期の子の反抗や暴力的な行動も、泣き叫ぶ赤ちゃんといっしょです。さみしさや孤独、不安といったもののサインを暴力や非行で発しているのです。荒れる子どもは、成長の過程でなんらかの障害を抱えています。それは、成熟の障害ともいえます。
子どもは、親に依存したり反抗したり、友だちと関係を結ぶことで安定した情緒を育てていくのですが、幼少期に「あんたなんかいらない」というようなことをいわれたり、そういう態度をとられてきた子どもは、自分の親を本当に安心して信じることができないまま、大きくなってしまいます。
親を信じることから、友だちなど多くの人を信じて交わるようになっていくのが普通なのですが、最初の「親を信じる」ところでつまずいてしまった子は、うまく人との関係を築けず、社会性が育たないまま大きくなってしまうのです。
大切な「生まれてきてありがとう」の気持ち
とても悲しいことなのですが、子どもの存在自体を否定するようなことを平気でいう親は少なくありません。本人は、子どもの教育のため、正しく成長するようにと思っているのかもしれません。
しかし、どんなに愛情のつもりであっても、子どものよくないところを指摘するのならまだしも、人格そのものを否定するようなことは絶対にしてはいけないことです。
たとえば、家族間で決めた門限が21時だったとします。その約束を子どもが破ったときに、「これはわが家のルールだから守りなさい」と注意をするのはいいのですが、「そんな簡単な約束が守れないやつはうちの子じゃありません」とか「ダメなヤツだ」などと、その子の全部に対してNOをつきつけるようないい方はいけません、といっているのです。
こんなことをいわれると、子どもは大きく自尊心を傷つけられ、いつも親の前でビクビクするようになってしまいます。親を信じられず、自分のこともきらいになってしまうのです。
【まとめ】子どもの人格を否定するようなことは、絶対にいってはいけません。
口ごたえだけの反抗か、暴力を伴う反抗か
思春期といえば、親や大人に対して反抗的な態度をとるのがひとつの特徴です。反抗とひと口にいっても、日常の口ごたえなど「普通の反抗」(いわゆる反抗期)と、暴力をふるったり、暴走したりするような「屈折した反抗」の2種類があります。
・普通の反抗=愛情を確認しようとする作業
・屈折した反抗=愛情を感じられなかった反動で起こす問題行動
子どもは「依存(甘え)」と「自立(反抗)」を繰り返して成長していきます。思春期ともなると、「自分のことは自分で考えて行動したい」「親のもとを離れて自由になりたい」という自立心が強くなります。
親に自分のことを話さなくなったり、「~しなさい」といったときに「うるせーな」などと反抗的態度をとるのは、自立しようとしている証拠なのですね。
しかし、子どもの心は「自立したい」と「甘えたい」を行ったり来たりしますから、自分1人でがんばっていると、そのうち不安の心がわいてきて、親に依存しようとします。
そのときに、うまく家族の愛情を確認できずに失望すれば、その程度によって問題行動を示すことになります。「屈折した反抗」とはこういうことをいうのです。別の表現をすると、反抗的な行動の裏側には、「これでもぼくのこと、わたしのことを愛してくれますか」という確認の気持ちがあるのですね。
それが屈折し、重症化したときに、不幸な事件を起こすことがあります。放火はそのひとつの典型です。放火は、人の関心を自分に集めたくてするのだといわれます。それが快感なんですね。爆音を響かせて、バイクを暴走させるのも、自分を見てほしいという欲求のあらわれです。
奈良県で小学校1年生の女児を誘拐して殺害した38歳の男性は、法廷で「短い期間だったけれど、全国の人々に注目されていたことがうれしかった」と陳述したそうです。
若い人たちが起こす最近の悲惨な事件は、愛情が得られないことに絶望し、せめて人の関心を集めることをしなければいられないという人の行為といえるでしょう。ほとんど病的といっていいほど、みんな自分に関心をもってもらいたいと思っているのです。
親としては、どのくらいまでが普通の反抗なのか悩むところです。何しろ、愛情をたしかめたいということは、親から受け取る愛情が不十分だと思っていることですから。子どもがこんな態度をとったときは愛情不足や不安を感じていると見ていいでしょう。
・汚い言葉を親に投げつける
・暴力的な行動に出る
・閉じこもって何もしゃべらなくなる
東京女子医科大学の小児科で非常勤講師をしているときに出会った拒食症の少女が、手記で「親を苦しめてやりたいから今こうしている」という趣旨のことを書いていました。
同じようなことは何人もの子どもで経験してきました。まるで親を苦しめることに快感を覚えているようでした。自分が求めている愛情を注いでくれないことをうらめしく思っているのですね。
荒れる子の心を健全にするには
反抗期は、一般的に3歳前後と、就学前後、そして思春期にあるといわれていますが、この時期は、子どもが急速に成長・発達するときです。成長するために、反抗していると思っておいて間違いないでしょう。
人が大人になるのには、依存も反抗も必要なことなのです。ですから、親に対してどんな言葉を投げつけようが、先生に対してどんな態度をとろうが、あれこれいわないほうがいいのです。
子どもはそれが必要だからしているのです。今まで歩んできた人生のなかの補えるところで、不足分を補おうとしているのです。親にしてもらえなかったことがたくさんあって、それを反抗というかたちで腹いせしているのかもしれません。
親としては、「私のことを信じるために、この子には今こうすることが必要なんだ」と見守ってあげることが大切です。親を信じているから安心して反抗できる、あるいは信じたいから反抗しているといってもいいでしょう。
リストカットや摂食障害、不登校などは子どもの心が荒れている証拠です。愛情を欲しているサインです。
そこから立ち直らせるためには叩いたり叱ったりしてやめさせるのではなく、抱きしめることです。しっかり保護してあげればいいのです。
どんなに激しく反抗していても、問題行動をとって”荒れ”ていたとしても、親が子どもをしっかり受けとめ、子どもが望んでいることを満たしてあげれば、必ず立ち直れます。
「抱きしめる」というのは、体をただ抱きしめるだけではありません。あなたのすべてをまるごと受けとめるよ、という意思表示でもあるのです。
話をゆっくり聞いてあげる。思春期の子の心を抱きしめるうえでいちばん大切なことは、この「話を聞く」ということです。家事や仕事で忙しかったとしても、子どもが話しかけてきたら、手を休めて、子どもの目を見て話を聞いてあげてください。
興味をもってうなずいたり、「すごいね!」など感嘆したりしながら聞いてあげると、「お父さん、お母さんは自分の話をよく聞いてくれるからうれしい」と思い、さらに積極的に自分の話をするようになります。よく話をするようになったら、よい経過をたどっていると考えてよいでしょう。
ポイントは、息ながく、根気よくです。「育てる」ということは、子どもに限らず草花や農作物でも同じことでしょう。芸術家や技術者がすぐれた作品や製品をつくるのと同じように、日々根気よく、手塩にかけることです。
【まとめ】不安定な思春期だからこそ、「あなたのことをまるごと受けとめるよ」という心と体を抱きしめることが大切なのです。