子どもの不登校で増える親の退職・休職…NPO代表の訴え「親は自分を責めないで」

大洞静枝
2024.03.31 21:27 2024.03.29 11:50

「親は自分を責めないで」とメッセージを送り続ける不登校支援のNPO法人  LINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」から見える不登校児の親が抱える苦悩とは?の画像1

ある日突然、子どもが不登校になると、親の生活はガラリと変わります。現実を受け入れきれないまま、子どものメンタルケア、学校やスクールカウンセラーとの連絡、専門支援機関のリサーチ、生活面でのケアなど、さまざまな役割を担うことになります。仕事の調整による金銭面での変化も発生します。先が見えない不安や世間からの心ない偏見も、親の心を疲弊させていきます。

不登校親子の支援を行なうNPO法人キーデザインが2020年5月に立ち上げた、不登校児の親向けLINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」には、全国から年間300件以上の相談が寄せられるといいます。「お母さんのほけんしつ」から見えてくる、不登校児の母父が抱える苦悩とは?             

子どもの不登校で追いつめられる親たち

NPO法人キーデザイン代表理事の土橋優平氏が、不登校に悩む親のためのLINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」を開設したのは、ある母親のさりげない言動がきっかけでした。

「フリースクールを始めて間もない頃、あるお母さんが迎えに来てくださった時に、すごく嬉しそうにしていました。聞けば、久しぶりにマッサージへ行ったとのこと。その時、子どもが学校へ行かなくなってから、自分のために時間を使うことが、長らくなかったのだろうと思ったんです」

それまでにも、フリースクールで保護者からの問い合わせ対応をする中で、不登校児の親たちが追い詰められ、精神的に辛い状況にある様子を多く見てきたといいます。

「対面でお話をするとき、みなさん涙をボロボロと流し、ハンカチで目を押さえながら、これまでの経緯を話されます。子どもが学校に行ってほしいと親がどれだけ願っても、叶わないし、元気になって欲しいと思っても、子どもは落ち込んだまま。誰にも理解されない孤独な環境の中で頑張ってこられたことが、涙の背景にあるのでしょう。

こんなにも、不登校の親子を苦しめてしまう今の社会はなんだろう?という悔しい思いがありました。何か親御さん向けの支援をできないかと考え、保護者のための無料相談窓口を、LINEで開設することにしました」

2020年5月に開設したLINEの無料相談窓口「お母さんのほけんしつ」は、予算をかけて広報をしなかったにも関わらず、登録者は10 日で 100 名を超えました。

当初は土橋氏が一人で対応し、昼間はフリースクールを運営する傍ら、夕方から5~ 6 時間かけて、毎日15人ほどの相談に乗ったといいます。

開設から3年が経過し、現在はボランティアのスタッフも含めた4人体制で、常時50人ほどの親とやり取りをしています。登録者数は、約3,500人(2024年2月時点)です。

親は自分を責めずに普段どおりの生活を

土橋氏は、親から寄せられる悩みは、大きく分けると2つだと話します。

「親御さんの悩みは2種類あって、一つは、子どもが今後どうなるのだろう?という心配。もう一つは、子どもが不登校になったのは自分のせいなんじゃないか、子どもがこんなに苦しんでいるのは親の私が悪いんじゃないかという悩みです。自分を責めてしまっている親がすごく多いなという印象があります」

「学校に行かない理由は、100人いれば100通りあります。ですが、親が自分を責めてしまっているだけでは、解決には向かわない。親自身が、自分が悪いと思わなくても済むようなケアが必要だと感じています」

学校に行かなくなった原因を突き止めるのではなく、親の気持ちを安定させることが、子どもの回復へつながっていくと感じているといいます。

「子どももまた、自分のせいで親が苦しんでいる、迷惑をかけているんじゃないかと思っているのです。親御さんはどっしりと構えて、日常と変わらないように過ごせると良いと思います。そうすると、子ども側の悩みが一つなくなって、安心して過ごせます。親御さんは第三者に頼ったり、あえて子どもと離れる時間をつくったりすることで、心安らかでいて欲しいです」

キーデザインが2021年5月に、LINE相談窓口に登録する138名を対象に実施した独自アンケートでは、「現在ストレスをどの程度感じていますか?」という質問に対して「限界を超えていて助けが欲しい」と回答した親は24.6%、「限界は超えていないが、助けがあると嬉しい」と回答した親は50.7%にも上り、約8割の親が何らかの支援を必要としているという結果が明らかになりました。

また、仕事の状況に関するアンケートでは、「休職・退職した」「休職・退職を検討している」と回答した親は約3割に上り、子どもの不登校が、親の金銭面にも影響するということがわかりました。親は、精神的にも金銭的にも不安を抱える状況に陥ってしまうのです。

受け入れてくれる場所があると知って欲しい

土橋氏は、「正直、LINEを1~2往復したからといって、劇的な変化というのはありません」と前置きした上で、親からは、「こんなに寄り添った言葉をいただいたのは初めてです」といった声や「気持ちを聞いていただくことで、私自身が落ち着いた」という声が届いていると話します。LINE相談という、相談までのハードルの低さも好評です。

「頼れば確実に受け止めてもらえる場所でありたいと思っています。第三者に相談してもいいんだ、受け入れてくれる人が世の中にいるんだとわかってもらいたいです。相談窓口を始めた時からずっと、親御さんの味方という立ち位置です」

今後は、「お母さんのほけんしつ」をより多くの人に届けるため、スタッフを増員し、受け入れ体制を整えていく予定です。さらに、地域で子育てを支えるための情報発信も増やしていくといいます。2023年11月には、不登校に特化した専門サイト「たより」をオープンし、栃木県内のフリースクールや親の会などの情報を積極的に発信しています。

さらに、2024年4月からは、さくら国際高等学校宇都宮キャンパス(※認可申請中)のサポート校として「ライフデザイン学科」を運営する予定です。

悩んでいる親がいれば、自然と助け合えるような社会に

「本当は事業にしなくても、困ったことがあったら、近所の方が話を聞いてくれたり、子どもを預かってくれたりするような、地域で支え合える環境があればいいと思っています。

核家族化が進んで、共働き家庭が増えて、子育てに関わる人数が減っていますが、子育て支援は整備されていません。私たちのような機関がなくても、悩んでいる親がいれば、自然と助け合えるような社会になって欲しい」と土橋氏は願います。

文部科学省が2023年10月に発表した不登校の小中学生の人数は29万9048人で、過去最多を更新しました。「お母さんのほけんしつ」は、地域や学校からは見えにくい、不登校の親の苦悩が表面化される場所です。学校と親子の二者間では打開策がなく、悩みを抱え続けている親子にとっては、気兼ねなく頼ることができる唯一無二の存在となっています。土橋氏は今後も、「長期的なスパンで子育てに伴走する気持ち」で、親子に寄り添っていきます。

大洞静枝

大洞静枝

同志社大学商学部卒業後、生命保険会社に入社し、バックオフィスにて企業保険の更新業務に携わる。第二子出産後、業界新聞社の記者に転身し、モビリティ・移動・まちづくりの分野で取材・執筆活動を行う。2019年に独立。ライター業と並行し、NPO法人生態会の事務局メンバーとして、関西のスタートアップ支援に携わっている。3兄弟の母。

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