子どもが納得して勉強好きになる「勉強すべき理由の伝え方」
子どもから「なぜ勉強しないといけないの?」と聞かれたら、あなたはなんと答えますか?
「将来のため」「今しかできないから」といった表面的な理由では、子どもは納得してくれません。
しかし、勉強の必要性を上手に伝えることができれば、子どもは自ら前向きに勉強に取り組むようになります。
勉強の意義と伝え方を、教育評論家の石田勝紀さんに分かりやすく解説していただきました。
※本稿は、石田勝紀著『中学受験に合格する親子の「魔法の会話」』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。
「将来のため」では子どもの心に届かない
子どもたちの中には、「なぜ勉強しなくてはいけないの?」と言う子がいます。
このような子は、一般的に精神年齢が高い傾向にあり、それはとても重要な疑問なのです。しかし、多くの大人は、この疑問に答えなかったり、答えたとしてもお茶を濁にごすようなことを言ってしまうことがあります。
さすがに令和の時代に「いい会社に入れるから」はないとは思いますが、よくある典型的な返答としては、次のようなものがあります。
【NGワード】
「今、勉強しておけば、いずれ役に立つから」
「勉強しておけば、今後の選択肢が増えるから、やっておいたほうがいい」
「このような勉強は今しかできないからやっておいたほうがいい」
「いい学校に行けるから」
「行きたい学校に合格するために必要だから」
「私たちもやってきたから」
「みんなやっているでしょ」
これらの返答に多くの子どもたちは納得していません。
将来のことを言われても、子どもには響きません。また、勉強しなくても世の中で活躍している人はいますし、ハッピーな人もいます。行きたい学校に行くためというのは、表面的には間違っていませんが、行きたい学校がない子や、あったとしても、単純に受験のためだけの勉強? という疑問が心の奥にあったりします。
大人を悩ませる「なぜ勉強が必要?」の問い
「何のための勉強なの?」という質問、そう軽々しくは答えられませんね。本当に難しいと思います。
しかし、これは、多くの子どもたちが潜在的に感じていることでしょうし、私たち大人も、このような本質的なことを意識して、今まで勉強していなかったのではないでしょうか?(私自身は、少なくとも大試練が訪れる20歳まで勉強の意味がまったくわかっていなかったのです。ただやらなければいけないもの、受験のためのもの程度でした)。
私がこれまで指導してきた子どもたちも、初めは、勉強はみんながやっているから、”当たり前のようにやらなければならないもの”と思って何の疑問も感じずにやっていました。真面目な子は特にそうですね。
教育分野の世界では、そのように真面目にやっている子を評価し、そうではない子(勉強の意義に疑問を持っている子)に対しては良い評価を下さない傾向があるのですが、実は、疑問を感じる子こそ大切にしなければなりません。
では、一体、勉強は何のためにやっているのでしょうか?
目先の目的としては、「(中学受験の場合)〇〇中学に合格するために勉強している」というのは正しいでしょうが、「じゃ、〇〇中学に合格して、その先は?」と聞かれるとおそらく「〇〇大学に合格するため」となるでしょうね。さらにその先は「〇〇会社に入るため」になるのでしょうか?
次のような子どもとの問答をご覧ください(これは実際に私が子どもたちにしてきた話です)。
先生が教える勉強の本当の意味
子ども:「先生、このまま勉強して〇〇中学に合格できますか?」
私:「現段階では可能性としては30%だね。秋の模試で偏差値が50まで上がれば可能性も見えてくるね」
子ども:「でも、今やっている勉強って、もし志望校に落ちるようなことになったら、意味なくなりますよね」
私:「そうかな。今やっている勉強は、来春の入試に向けての勉強であることは確かだけれども、その入試のためだけだと思っているの?」
子ども:「え、違うんですか? それ以外に、勉強の意味ってあるんですか?」
私:「たくさん、あるんだよね~」
子ども:「……」
私: 「たくさんあるけど、ふたつだけ話をしようか。
まずはね、頭の使い方の勉強になる。例えば、算数では、いくつかの基本パターンを知っていると、その組み合わせによって複雑な問題が解けるようになるよね。
世の中に出ると、複雑な問題だらけだけど、実は原因って、簡単な基本の組み合わせだったりするんだよね(中学生以上の場合には次のような話→『数学の因数分解ってあるね。あれは、複雑な形をした式が、いくつかの要素に分解されたもので成り立っているね。つまり、世の中の複雑な現象は、いくつかの問題に分解できて、それの掛け合わせで起こっている、というように応用できるんだ』)。
理科で実験があるよね。あれは、『多分こうじゃないか(仮説)と考えて、実験して試す(検証)』よね。実は、この考え方は社会に出て働けば当たり前にやることなんだけれども、理科はただの暗記と思って勉強していると、君の言う通り、勉強は役に立たないね。
しかし、このようにして意味がわかっている人には、勉強したことが役に立っているんだよ。つまり学校の勉強というのは『たくさんの種類の考え方』を学んでいるんだよね。社会に出ると意識せずに、国語的に考えるとか、算数・数学的に考えるとか、理科的、社会的に考えて解決することがたくさんある。だから今の勉強は、そのためのシミュレーションということだ。だから、学校の勉強はすべてに意味があるんだ」
子ども:「そんな意味があるんですね。そういう話は聞いたことがなかった!」
私:「もうひとつはね、かなり重要なことなんだけども、それは自分の成長のために勉強があるということだよ。だからトップ校に行く人と比べて自分ができないという比較ではなく、1カ月前の自分と比べて成長したのかどうか、それが重要になる!
また今、勉強して、仮に来年の入試で、自分が行きたい中学に合格できなかったとしても、今よりは成長しているよね。努力を続けた子は、来年の2月には目標まで届かなくても、中学では、さらに伸びていくんだ。途中であきらめると、それが癖になって、何かあるとあきらめる人間になってしまう。中学受験で人生が終わるんじゃないんだからね、人生にはまだまだ先がある。しかし、コツコツ努力し続ける人が、最終的に、成長できる人になり、自分のやりたいことができるようになっていくんだよね」
子ども:「なるほど、そういうことなんですか!」
私:「だから、目先の受験に合格するための勉強という意味も確かにあるけど、やるだけやって仮にダメであっても、その先でさらに伸びていける人になりたいと思わない?」
意味がわかれば、子どもは自ら頑張れる
このような話を私は今まで幾度となくしてきました。
中学生、高校生対象の講演会でも、必ず話すテーマのひとつです。
子どもたちは、意味がわかれば、意欲的に頑張っていきます。今までつまらないと思っていた勉強に対する見方が変わります。趣味やスポーツでも、同じではないでしょうか。
試合やコンクールで勝てない、トップになれないのになぜやるのでしょうか? 「楽しいから」「やっていて意味を感じるから」「仲間との連帯感があるから」など、理由はたくさんあることでしょう。
勉強も同じなんです。意味があるのです。
ただ、意味がないようなやり方をしていたり、意味を認識できる機会がなかったり、強制的・義務的であったりするために、ネガティブになってしまうのですね。