過干渉な親に育てられると「話を聞けない子」になってしまう理由

須賀義一
2024.03.08 13:54 2024.04.08 11:50

頭を抱える男の子

保育士の経験を活かし、子育てアドバイザーをしている須賀義一さん。「話を聞ける子」を育てるためには、まず、「聞いてもらって楽しかった経験」が大切だと言います。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年7月号から一部抜粋・編集したものです。

「話を聞ける」の先にある大切なもの

悩みを抱える女の子

子どもたちを見ていると、その姿には2種類あるようです。自分から「しよう」「やりたい」と思ってする、「自発的な姿」。そして、誰かに「そうしなさい」と繰り返し言われたり、やらないと怒られたり否定されたりしてしまうので、「しかたなくやる姿」。

「○○できたら、えらいな」「○○しないと、○○してあげないよ」こうした言葉がけによって子どもが動くのは、大人からすると「私の関わりによって、子どもが自分からやっている」ように見えるかもしれませんが、結局のところ「やらされている」のは変わらないので、後者の「しかたなくやる姿」になります。

日々の子育ての中では、大人がなんとかしてやらせなければならない場面もあるかもしれませんが、最終的にどちらを目指していけばいいかと言えば、もちろん、子どもが自分から進んでそういった姿を自発的に見せる、前者のほうだと思います。

この自発的な姿を見せてくれる子を育てるためにとても大切なのが、「楽しい」という経験です。子どもは、「楽しい」を糧かてにして伸びていくからです。

「楽しい」ことが重要

見上げる女の子

「話を聞ける子」を育てるためにも、やはり「楽しい」ことは重要です。話を聞いて楽しかった経験、自分の話を聞いてもらって楽しかった経験。この2つの経験を増やすことで、話を聞く力は伸びていきます。

この2つはどちらも大切なのですが、どちらがより重要かと言えば、おそらく「自分の話を聞いてもらって楽しかった経験」のほうになるでしょう。

子どもはまず先に「してもらった心地よいこと」を「いいもの」として学習し、その結果、それを他の人にほどこせるようになるからです。

たとえば、たくさんやさしくされた経験があることで、他者にやさしくすることができるようになります。誰かに自分の話を聞いてもらうと、「自分は肯定された」という気持ちになりますね。

子どももそれは同じですが、子どもは言葉によるコミュニケーション能力は発達途中ですので、「誰かに話を聞いてもらう」の前に、自分の行為や表現を「あら、それ素敵だね」「ああ、おもしろいの作ったね」などと認めてもらうプロセスが必要になります。

もちろん、そのもっと基礎にあるのは、遊びを通してのスキンシップや、「あたたかく見守られる」という経験です。

「サンドイッチ」で信頼感を育む

笑顔の母と息子

ここで、保育士時代にやっていた「サンドイッチ」という遊びをご紹介しましょう。

やり方は本当に簡単。「サンドイッチしちゃうぞ〜」と楽しく言いながら、子どもを誰か2人ではさんでギューッとするだけ。

子どもはスキンシップのある遊びを楽しく感じます(中には接触を好まない子もいますので、無理に行なう必要はありません)。こうした「人と関わる楽しい経験」を重ねると、子どもは人を「いいもの」と感じて他者への信頼感が育っていくようです。

実は、話を聞くことの一番根っこにあるのが、こうした「人への信頼感」です。ちなみに、この「サンドイッチ」、保育の中では「ハムになりたい人〜? トマトにな人〜?」と、子どもをどんどん増やしていって、最終的には「おしくらまんじゅう」状態にして楽しんでいました。

日本の子育ては過干渉

女の子の後ろ姿

実際に子育てをしている人の立場からすると、「そうは言っても、子どもに注意したり、制止したりすることで精一杯。自発的に行動してくれるようになるまで、余裕をもって見守っていられない」という人もいるかと思います。

その原因は、従来の日本の子育てが、子育てをしている人にそうした過干渉ー特に、「○○してはいけない」などの「否定的な過干渉」を求めるものだったからです。「正しい子どもを作るために、否定の過干渉をがんばる」。

これが、多くの方の子育ての実情と言っても過言ではないでしょう。でも本当は、肯定の積み重ねで子どもの成長を援助していくほうが、子育てはラクになっていきます。

言葉がけは「どうしたの?」だけ

手をつなぐ親子

実は、注意や制止など否定的な過干渉が多いことが、「話を聞けない子」を作ることにも一役買ってしまっています。それは、子どもが「大人からの語りかけは心地よくないもの」と学習してしまうからです。

そこで、否定的な過干渉を減らし、同時に子どもが人との会話を楽しいと思えるようになる魔法の言葉をお伝えしましょう。

それは、「どうしたの?」という問いかけです。「どうしたの?」には否定的なニュアンスがありません。なおかつ「あなたの気持ちを受けとめますよ」という大人側の姿勢が、この言葉には含まれています。

たとえば、友だち同士やきょうだいで、おもちゃの取り合いをしているようなとき。「ダメでしょ。○○ちゃんが使っていたのだから、あなたが返しなさい」このような言葉がけをすると、子どもは否定されている気持ちになります。

そして、否定されるのが習慣になると、ネガティブな行動をとらずにはいられなくなります。さらには、「他の子とトラブルになったときには大人の介入がなければ解決できない」と学習してしまいますので、大人への依存が強まり、自立心が失われていきます。

このようなケースでは、もし大人の介入が必要だと思ったら、「どうしたの〜?」と入ってみます。「またウチの子が人のモノを取ってる。返させなければ」といったニュアンスではなく、あっけらかんと、「どうしたの〜?」と言えるといいでしょう。

返答には「ああ、そうなんだ〜」

叱られる女の子

子どもが何かを訴えてきたら、「ああ、そうなんだ〜」と淡々と受けとめます。その言葉の内容が大人から見ておかしいと思っても、「ああ、そうなんだ。あなたはそう思ったのね」とフラットに受けとめます。

大人の介入はこれだけで十分。そうしたら、「じゃあ、私はあっちで見守っておくから、あとはがんばってね〜」くらいの気持ちで、フェードアウトしてしまいます。その後の解決は子ども自身に模索してもらえばよいのです。

大人の価値観で「物事の善悪」を押しつけるのは簡単なのですが、それでは子どもはなかなか自発的にはなりません。もし、その後、子どもたちで解決したり、取ってしまった側が相手に返せたり、何かを工夫して一緒に遊べるようにできたら、そうした行動を認めていきます。

子どものとったその行動が、大人から見てベストではなかったとしても、「うんうん、なるほど。そう考えたのね」くらいの気持ちで、うなずいてみるといった感じです。子どもの正解の姿を大人が作り出すのではなく、子どもの自発性を伸ばすのです。

「話を聞ける」の先にあるもの

子どもにやさしく語りかける親

トラブルではなく、ポジティブな場面でも、「どうしたの〜?」は応用できます。たとえば子どもが何かを作ったり表現したりしたとき。お絵かきでも積み木でも、砂場遊びでも何でもいいでしょう。

「どうしたの〜? 何を作ったの〜?」こんな感じで聞いて、その答えを、「ああ、そうなんだ〜」と受けとめていきます。

このプロセスが、他者との会話を楽しむ経験となり、それがさらには、他者との信頼関係を大きくすることにつながり、まわりまわって、「話を聞く」という子どもの成長の姿として現われてくることでしょう。

そして、それは単に「話を聞ける」ということだけでなく、その子自身が何かを表現することの楽しさ、自分を表現することへの自信、物事に取り組む意欲、自己肯定感、自尊感情といった、心の基礎的な成長につながっていきます。

試しに「どうしたの〜?」と言ってみてください。きっと、いつもとは違ったお子さんの姿が見られると思いますよ。

須賀義一

須賀義一

1974年生まれ。東京都江戸川区の下町に生まれ、現在は墨田区に在住。大学で哲学を専攻するも人間に関わる仕事を目指して、卒業後国家試験にて保育士資格を取得。その後、都内の公立保育園にて10年間勤務。子どもの誕生を機に退職し、子育てアドバイザーとして、子育てについての研究を重ね、執筆、講演活動、ワークショップを展開。従来の子育てを見直し、個々の子どもを尊重した関わり、子育ての仕方を提案している。家族は妻と一男一女がいる。