二語文が出ないときはどうする? 言語聴覚士に聞いた「子どもの言葉の引き出し方」
ことばが少ない、二語文が出ないといった悩みを抱える保護者は多いもの。そんな子に、保育者はどうかかわればいいのでしょうか。言語聴覚士の田中春野さんに教えていただきました。
※本稿は発達支援の保育専門誌『PriPriパレット 2024年 4・5月号』(世界文化ワンダーグループ)から一部抜粋・編集したものです。
どうしたら語彙が増える?
子どもの興味を入り口に土台を育んで
語彙の少なさにもいろいろあり、数や種類(動詞や形容詞などの品詞)が増えない、または二語文・三語文など、文が長くならないこともそのひとつです。
ことばが少ない要因には、聴力などの身体的要因、人への興味・関心の薄さ、言語理解の弱さがあります。保育者の声は聞こえているか、人への興味はあるか、保育者の指示を理解しているかなど、まず保育者は子どもの普段の様子を見てみましょう。
また、ことばの発達は、人への興味・関心が土台となります。あそびや保育者とのやり取りを通じて、子どもが他者の存在に気づくことを意識しましょう。ことばをやみくもに教えるのではなく、土台を育むこと、子どもの好きなことを入り口にすることが大切です。
園で行って効果があった方法は、家庭に伝え、共有しながら進めることも大切。語彙を増やすことが表現の幅を広げ、活動が豊かになるきっかけになるでしょう。
語彙の少なさの要因はいろいろ
ことばの数が少ない主な要因は大まかに3つ。まずは子どもの様子を見ることから。
1身体機能の未発達や課題
語彙の習得は、子どもが周囲のことばを聞き、真似ることから始まるので、聴力は語彙の獲得に大切です。保育者のことばかけに反応が薄いなど、耳の聞こえに不安があるときは、保護者と相談して病院での検査を検討しても。
また、口の動きが未熟で出せる音が少ないと、語彙が増えにくいです。そのような子には、食べこぼしなどが見られることもあります。
2他者に向かう意識の少なさ
ことばの発達は、他者の存在に気づき、興味を持つことが土台になります。そのベースになるのは、自分と他者、自分と物といった「二項関係」の成立。1対1でやり取りして信頼感を育んだり、物への興味・関心を抱いたりします。
そしてやがて特定の人、物への意識が芽生え、自分・物・他者の「三項関係」が成立します。他者が指さした物を見て、ことばで伝え合う「共同注視」が可能に。
3言語理解の弱さ
ことばの発達は、「理解」→「表出」の順で進みます。
その意味を理解して初めて、場面に合ったことばを発することができるのです。そのため、知的な遅れなどでことばの理解が難しいと、語彙があまり増えません。
話しことばだけで指示が伝わるか確認すると、言語理解の指標になります。
ことばを育む土台に目を向けて
1他者への意識を育む
先述の通り、ことばの発達の土台は、他者の存在に気づき、関心をもつこと。
「ことばのキャッチボール」と言われるように、実際のキャッチボールも人への興味を育めるあそびです。保育者と子どもが物を行き来させると、人に頼む意思が芽生え、やがて語彙の増加に。
また、子どものひとりあそびに加わり、保育者という他者の存在に気づけるよう声をかけても。
【おすすめしたい関わり方】
・転がしキャッチボール
ボールを子どもの方に転がして、保育者の方に返してもらって。そのやり取りが、人を意識することにつながります。
・話すときには物を顔のそばに
他者への興味が薄い子は人ではなく、物のみに注目してしま います。保育者の顔が自然と視界に入るようにしましょう。
2あいさつや興味のあることを
「おはよう」「いただきます」などのあいさつは、子どもが生活の中で日常的に交わし、相手や状況によってあまり変化しないことばなので、導入に最適。また、子どもの関心も語彙を広げるのに有効です。
車が好きな子なら、車のおもちゃで色を学ぶのもよいでしょう。
「たべたい」「ちょうだい」などの要求表現も、子どもにとって習得しやすいことばです。
【おすすめしたい関わり方】
・あいさつを一緒に
あいさつは、くり返しの中で習慣になることば。日常的に何度もくり返し、語彙を増やす第一歩にするとよいでしょう。
・好きなものや要求表現から
好きなことや要求表現のことばは習得しやすいです。やみくもに語彙を教えるのではなく、子どものメリットを意識。
3多感覚でことばを習得
ことばは、聴覚、視覚、触覚、味覚などの感覚とマッチングさせることで、記憶に強く残りやすくなります。
例えば、たんぽぽの綿毛を一緒に触って、「白くてふわふわだね」と色や感触をことばにします。また、「温かい」「冷たい」など対になることばは、両方を体感し比較することで理解が進みやすく、語彙をセットで学べるメリットも。
【おすすめしたい関わり方】
・体感をことばにする
物を保育者と一緒に触って、感触をことばにすることで同じ感覚を共有します。
・対になることばは比較して
「温かい・冷たい」「大きい・小さい」などの表現は、触覚や視覚で比較すると理解しやすいです。
4話しことば以外の方法も取り入れて
ことばの表出に課題のある子は、伝えたいことが複雑化するなかで、うまく伝わらないジレンマから、ストレスを抱えることがあります。
話しことばではない方法でも本人が意思表示できることを優先し、ジェスチャーや絵カードを使ったコミュニケーションを取り入れましょう。人とのかかわりを楽しいと感じられることが大切です。
【おすすめしたい関わり方】
・ジェスチャーで意思表示をする
「いいよ」は丸、「いやだよ」はバツなど、子どもの意思を体で表現する方法を取り入れてみましょう。
・絵カードでコミュニケーションを
視覚的にわかる絵カードを示して指さしを促すと、意思表示がスムーズに。
関連書籍
PriPriパレット 2024年 4・5月号(世界文化社)
保育者や児童発達支援の現場でご好評をいただいている『PriPriパレット』。
4・5月号の特集は、「環境づくり&感覚おもちゃアイデア58」。
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