6時間睡眠と7時間睡眠、子どもの成績に違いは出る? 検証で明らかになった事実
子どもの健やかな成長に睡眠が不可欠であることは、もはや常識として知られていることでしょう。しかし、睡眠が具体的にどのような影響を子どもに与えるのか、科学的な根拠に基づいて理解することは重要です。本稿では書籍『世界標準の子育て大全』から、ブラウン大学経済学者で二児の母でもあるエミリー・オスターさんの解説を紹介します。
※本稿は、 エミリー・オスター [著], 鹿田昌美 [翻訳]『ブラウン大学経済学者で二児の母が実証した 世界標準の子育て大全』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。
睡眠時間が少ない子どもは、うつ病になる
子どもに睡眠は重要なのか?
答えはイエスだ。
最初のエビデンスとして、子どもの睡眠量と日中の眠気、そしてさまざまな測定結果との相関性について紹介する。特筆すべき例の1つが、ロードアイランド州の4つの学区の約3000人の高校生に行った調査だ(1)。
参加者たちは、睡眠習慣についての調査を受けた。具体的には、就寝時間、起床時刻、週末と比較した平日の睡眠時間、などである。
研究者たちは、就寝時間と成績との間に相関性があることを見出した。成績がよくない子どもは睡眠時間が少なく、就寝時間が遅く、「週末の寝坊」(平日より週末に睡眠時間が多くなる、疲労のサイン)がはるかに多かった。また、睡眠時間の少ない子どもは、日中の疲れを訴えることが多く、うつ症状の発生率が大幅に高くなることもわかった。
いっぱい寝る子は、頭がよい
これは(大規模な研究とはいえ)1つの研究結果にすぎないが、実際に、他の多くの論文の結果と一致している。2万人近くの子どもについての17の研究結果をまとめた2010年のメタ分析では、少ない睡眠時間と睡眠の質の悪さと「眠気」は、すべて学業成績の悪さと関連性があることが明らかになった(2)。
同じメタ分析では、日中の眠気と学業成績との間に最も高い相関性が見られた。つまり学業成績においては、実際の睡眠時間よりも、日中に眠気を感じるかどうかのほうが重要なのだ。
これについては、他の論文でも指摘されている。韓国のティーンエイジャー調査は、睡眠の長さは学業成績を予測せず、子どもが眠気を感じているかどうかを予測すると示している(3)。イスラエルの子どもに関する別の論文でも、ベッドにいる時間量よりも、子どもが得ている睡眠の質のほうが重要であると述べている(4)。
しかし、必要な睡眠時間は子どもによって異なる。つまり、重要なのは絶対的な睡眠時間ではなく、あなたのお子さんにとって、その睡眠時間が十分であるかどうかなのだ。このエビデンス(睡眠が重要であることを示す一般的なエビデンスのうえに置かれた情報)は興味深い。
しかし、調査研究に精通している人であれば、本当に”因果関係がある”のかと疑問に思うかもしれない。睡眠不足や眠気は、実際に学業成績の低下の原因になるのか、それとも単に相関関係があるだけなのか? もしかしたら、睡眠の質を悪くしたり、さらには学業成績を低下させたりする他の要因(貧困など)が複数あるのかもしれない。
睡眠時間で子どもの学業成績は変わる?
真相を解明するために、実験データ(睡眠量が研究者によって操作されているエビデンス)、そして「準実験」データと呼ばれる、必ずしも研究実験によって生成されたわけではないランダムな変数を参考にすることができる。こうすることで、研究者が操作を行う真の実験データと、世界が私たちのために操作を行う準実験データの両方を見ることができるのだ。
成人や大学生の睡眠研究では、極端な操作を行うことが多い。夜通し起きていた被験者にテストを受けさせて結果を確認するのだ(成績は悪くなるが、本人はよくできたと思っている(5)。
子どもの場合は倫理的に問題なので、実験的な操作はわずかな睡眠時間の変動に限られている。カナダで行われた素晴らしい実験例を見てみよう。
調査では、研究者たちは8歳から12歳の32人の子どもを3週間にわたって追跡した(6)。
最初の1週間、子どもたちは通常通りに眠るように指示された。2週めでは、4日間にわたって睡眠時間を1時間追加する(「長い睡眠」)か、1時間減らす(「短い睡眠」)かのいずれかを選ぶように指示された。3週めは時間を入れ替えた。2週目に睡眠時間を減らした子どもは睡眠時間を増やし、逆も同じようにした(7)。
それぞれの週の終わりに、研究者たちは子どもと親を研究室に呼び、子どもに大量の認知テストを受けさせ、親には子どもの行動や眠気などの詳細な質問を行った。
操作はごく小さいといってよさそうだ―わずか1時間の長短である。ほとんどの子どもの毎日の睡眠スケジュールは多少異なっているはずだ。どんなに厳格に就寝時間を決めたとしても、少しの振れ幅があってしかりだ。だからあなたは直感的に、1時間の睡眠時間の差は関係ないと考えるかもしれない。ところがデータによると、確かに関係があったのだ。
研究者たちは、子どもは「短い睡眠」の週の作業記憶と数学のテストの結果が悪く、親は、注意力の低下と感情制御の悪化を報告する、という結果を発表した。睡眠時間を短期間だけ変化させるという同じ基本構造を持つ他の研究でも、イスラエルの4年生から6年生の生徒たちに同じような悪影響が見られたというデータが得られている(8)。
さらに年少の子どもたちを対象にした異なる種類の実験では、睡眠習慣を改善するように設計されたプログラムを使った(9) 。
この研究から、家族に睡眠の重要を伝え、子どもの眠りを改善するツールを提供するという「睡眠教育」によって睡眠時間が増え、学校での成績が向上したことがわかった。
[注 釈]
(1) Wolfson, Amy R., and Mary A. Carskadon. “Sleep Schedules and Daytime Functioning in Adolescents.” Child Development 69, no. 4 (1998): 875–87.
(2) Dewald, Julia F., et al. “The Influence of Sleep Quality, Sleep Duration and Sleepiness on School Performance in Children and Adolescents: A Metaanalytic Review.” Sleep Medicine Reviews 14, no. 3 (2010): 179–89.
(3) Shin, Chol, et al. “Sleep Habits, Excessive Daytime Sleepiness and School Performance in High School Students.” Psychiatry and Clinical Neurosciences 57, no. 4 (2003): 451–53.
(4) Sadeh, Avi, Reut Gruber, and Amiram Raviv. “Sleep, Neurobehavioral Functioning, and Behavior Problems in School-Age Children.” Child Development 73, no. 2 (2002): 405–17.
(5) Pilcher, June J., and Amy S. Walters. “How Sleep Deprivation Affects Psychological Variables Related to College Students’ Cognitive Performance.” Journal of American College Health 46, no. 3 (1997): 121–26.
(6) Vriend, Jennifer L., et al. “Manipulating Sleep Duration Alters Emotional Functioning and Cognitive Performance in Children.” Journal of Pediatric Psychology 38, no. 10 (2013): 1058–69.
(7) 少々忙しいが、全員が「長い」と「短い」の両方で扱われる設定は、生徒の数が少ないことを考えると研究者には非常に助かる。こうすることで、同じ子どもの睡眠時間が多い場合と少ない場合を効果的に比較できるため、統計的なノイズが大幅に減少し、重大な影響の推定に役立つ。
(8) Sadeh, Avi, Reut Gruber, and Amiram Raviv. “The Effects of Sleep Restriction and Extension on School-age Children: What a Difference an Hour Makes.” Child Development 74, no. 2 (2003): 444–55.
(9) Gruber, Reut, et al. “School-based Sleep Education Program Improves Sleep and Academic Performance of School-age Children.” Sleep Medicine 21 (2016): 93–100.
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