子どもを「やさしい子」に育てるために、幼児期から実践すべき3つのポイント

菅原裕子
2024.08.16 13:39 2024.07.30 11:30

座るきょうだい

親ならば、子どもには「思いやりのあるやさしい子」に育ってほしいと願うもの。では、親としてどのようなことを心がけ、子どもと接していけばいいのでしょうか。NPO法人ハートフルコミュニケーション代表理事の菅原裕子さんのお話を紹介します。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年9月号から一部抜粋・編集したものです。

やさしい心を育てよう!

笑顔の女の子

幼い子どもを育てる親に「お子さんにはどんな子に育ってほしいですか?」と質問したら、おそらく「思いやりのあるやさしい子」という答えが上位にあがってくるでしょう。親は、子どもにはやさしい子に育ってほしいと願っています。

ではなぜ、子どもにやさしさを求めるのでしょうか。

それは、やさしく思いやりのある人は、人からも愛されることを知っているからです。人のやさしさはさまざまで、生まれつきの気質によって、そのやさしさの表現は異なります。

道端で高いところに登って遊びたがる我が子に「危ないよ」と手を差し伸べて、怪我をしないように抱き下ろす親、やさしいです。一方で、「見ててあげるから、飛び降りてごらん」と見守る親、やさしいです。

やさしさは人それぞれ。子どもに親の理想のやさしさを求めることはできません。子どもがその子なりのやさしさを発揮できるように見守りましょう。では、どのようにすればやさしさは育つのでしょうか。

やさしい心を育む3つのポイント

二人の子ども

・自主性を育む

人は自発的に行動するようにできています。たとえば、3歳児は自分のおもちゃを人に気前よく貸すことは、まずありません。4歳児は自己主張をするようになるため、ケンカをすることが増えるかもしれません。どれもやさしいとは言えません。

ここで、親が「やさしくね」「貸してあげなさい」「ケンカはダメ」と、子どもに無理やりやさしさを求めることは、決してやさしさを育むことにはなりません。子どもはいろいろな経験をして、試行錯誤しながらやさしさを身につけていくのです。

・やさしさの中でやさしさは育つ

子どもを、やさしい環境の中で育てることを心がけましょう。まずは親子の関係です。子どものやさしさは、親との、安心安全で安定的な絆の中から生まれます。よく声をかけ、笑顔で接し、たっぷりスキンシップをしましょう。

あるがままのその子を受け入れ、他の子と比べることなく、その子自身の成長に焦点を当てます。そして、親が、いろいろな人にやさしくする姿を見せることです。やさしさを見聞きしたとき、子どもはそれをマネるようになります。

・「やさしさ」と「甘やかし」を区別しよう

やさしさと甘やかすことは別物です。何でも「いいよ、いいよ」と済ませることはやさしさではありません。早く遊びたいからと、いい加減な手洗いをする子へのやさしさは、もう一度丁寧にやらせるということです。甘やかしは子どもの機嫌を取る行為で、親は子どもの機嫌を損ねることを恐れているのです。

やさしさは、ただの表面的な感じの良さではなく、本当に自他ともに大切にしようとする態度です。やさしさを育むには、時には厳しさも必要です。

やさしい心が育つ魔法の言葉

泣く娘を抱きしめる母

――お姉ちゃん(4歳)がおやつを食べていたら、弟(1歳)に取られたとき

【OK】それはお姉ちゃんのおやつよ―弟にはっきりと言う
【NG】お姉ちゃんなんだから我慢してあげなさい

4歳のお姉ちゃんは、親が自分の味方で、自分の権利が守られたとわかるとやさしくなれます。守られることはやさしさへの第一歩なのです。

――子ども(5歳)が友だちと遊んでいて、おもちゃを壊され腹を立てたとき

【OK】そうか、大事にしていたし、びっくりしたんだね。でも、〇〇君は謝ってくれたよ―共感を示す
【NG】そんなことぐらいで怒らないの

否定されると、自分の気持ちをわかってもらえないと親にも腹を立て、寛容になれません。この場合は、共感を示すことで、子どもの心を寛容さで包みます。

――忙しくしていたら、進んで手伝ってくれたとき

【OK】ありがとう、お母さんが忙しいのわかって手伝ってくれたのね。助かったわ̶感謝を示す
【NG】すごーい、手伝ってくれてえらいね

自分の手伝いが親を喜ばせたことがわかると、また手伝おうという気持ちを育て、やさしさが育まれます。親からの感謝は、子どもの心を豊かにします。

子どもの思いやりを育むごっこあそび

真剣な顔の子ども

子どもが大好きな「ごっこあそび」は、思いやりの心を育むのに最適のあそびです。幼児の日常生活では、まだ活動範囲が狭く、多くの人と接することはありません。しかし、「ごっこあそび」では、シチュエーションを設定して、いろいろな人になりきることで、たくさんの経験をすることができます。

記憶力や観察力、表現力や想像力、コミュニケーション力など、たくさんの力が必要とされますが、その会話のやりとりの中で、誰かと共感したり、反対に違いを感じたりと、心の発達が促されます。

たとえば、代表的な「おままごと」では、子どもがお母さん役をすることで、「大丈夫? しんどいの? ○○してあげようか」など、親から言われた思いやりの言葉が飛び出してくるなど、ちゃんと理解していたのだとわかることもあります。

ごっこあそびのポイントとしては、子どもはイメージをふくらませてあそんでいきますので、親はその相手となり、決して子どもの世界観を否定したり、壊したりしないように、一緒に楽しみながらお手伝いをしてあげましょう。子どものすごい観察力に、親のほうが驚いてしまうかもしれません。

幼児期に身につけておきたい「やさしい心」

抱っこされる子ども

人の意識は2層からなっていると言われています。1つが、私たちの知識や考えがある層で、「顕在意識」と呼ばれています。そしてもう1つは、「潜在意識」または「無意識」とも呼ばれます。

知識を使ったり思考を巡らしたりするとき、私たちははっきりと意識していますが、体の動きや心の変化は時に無意識で、自然に自動的にそうしてしまうことが多いものです。潜在意識は非認知意識とも呼ばれ、自分で認知することのできない意識なのです。

そして、潜在意識が最もよく育つのが、乳幼児期と言われています。まだ、大人の知識や思考が育つ前に、幼い子どもの脳の中では、脳の最も重要な部分の成長に伴って非認知能力が育てられるのです。やさしさはその一部です。

自分と他者に対して思いやりをもって接することのできる能力は、親の思いやりある腕の中で、やさしい言葉を聞きながら育ちます。子どものやさしさは、親のやさしさの中で育つのです。

菅原裕子

菅原裕子

NPO法人ハートフルコミュニケーション 代表理事
NPO法人 日本ファシリテーション協会 フェロー

人材開発コンサルタントとして、企業の人材育成の仕事に携わる。
従来の「教え込む」研修とは違ったインタラクティブな研修を実施。参加者のやる気を引き出し、それを行動に結びつけることで、社員と企業双方の成長に貢献。

1995年、企業の人育てと自分自身の子育てという2つの「能力開発」の現場での体験をもとに、子どもが自分らしく生きることを援助したい大人のためのプログラム-ハートフルコミュニケーション- を開発。各地の学校やPTA、地方自治体の講演やワークショップでこのプログラムを実施し、好評を得る。

2006年、NPO法人ハートフルコミュニケーション設立。

子どもの心のコーチング 一人で考え、一人でできる子の育て方
子どもの心のコーチング 一人で考え、一人でできる子の育て方 (菅原裕子 著、PHP研究所 刊)

子どもをよい子に育てたい----。そう考えるあまり、声をかけ、世話をやきすぎて、依存心の強い、自立できない子どもが増えているといいます。子どもの将来を思うのなら、自分で考える力、周りの人とうまくやっていける本物の「生きる力」を身につけてほしい。

本書では、コーチングの技術を応用して、子どもの内なる能力を引き出し、子どもが自分で考え、答えを出せる子育て法を紹介します。

ワークショップやPTA主催の講演会で多くの親から支持を得ている子育てプログラム「ハートフルコミュニケーション」をわかりやすく解説した入門書。