あえて中学受験を回避するメリットとは? 親が知っておきたい「中高一貫校と高校の違い」

中曽根陽子
2024.08.29 14:03 2024.08.21 17:00

考える小学生

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高まり続ける中学受験熱。しかしそれは本当に子どものためになるのでしょうか? あえて中学受験を回避し、高校受験を目ざすメリットはないのでしょうか?

教育ジャーナリストとして、受験や教育の現場を20年以上にわたり取材し続けてきた中曽根陽子さんが、自身の著書『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』で中高一貫校と高校受験それぞれのメリットに触れた一節を紹介します。

※本記事は中曽根陽子 著『<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格』(青春出版社 刊)より一部抜粋・編集したものです

中高一貫教育のメリット

中高一貫教育では、中学と高校を接続し、6年間の学校生活の中で計画的・継続的な教育課程を展開します。

中高一貫教育のメリットとしてよくいわれているのは、

1 高校受験がない分、のびのびと過ごせる
2 特色あるカリキュラムで学ぶことができる
3 大学受験に有利

などですが、私は、中高一貫教育の最大のメリットは、子どもから大人になっていく変化の激しい時期に、継続的に教員から成長を見守ってもらえること。また、ゆとりを持ってそれぞれの発達段階に応じた特色ある教育を受けられることだと思います。

さまざまな経験を通して、じっくり時間をかけて自分に向き合いながら、将来について考えていくことができるのは、中高一貫教育ならではのメリットです。

高校受験と中学受験、どちらを選ぶべきなのか

受験会場の入り口

最近、相談会などで「中学受験よりも、高校受験をしたほうがいいのでしょうか」と、質問されることがあります。判断の前提の話として、ここでは、中学受験と高校受験の違いについてお伝えしましょう。

そもそも、中学受験と高校受験では、受験のシステムが違います。

高校は義務教育ではないとはいえ、ほぼ全員が受験して進学するので、高校受験浪人を生み出さないための構造的な仕組みが出来上がっています。

「全滅しないようにする=収容」という考え方のもとに進路指導が行われるのです。つまり、行きたい学校を受けるというより、受かる学校を受けるというのが高校受験の世界のある意味、常識です。そのために偏差値の輪切りによって受験校を振り分けられる傾向があります。

その偏差値も、同じ学校でも高校のほうが中学より高くなるのは、母集団が大きくなるからです。よく、「中学受験でうまくいかなかったら、高校受験でリベンジさせる」という人がいますが、システムが違うので要注意です。

また、高校受験は当日のテストだけでなく、授業中の態度などが評価される内申点も重視されます。私学の推薦入試でも、学校が求める内申基準を満たしていることが、合格の可能性を高めます。さらに、女子校を中心に高校募集を停止する学校が増えていることから、より選択肢が多い中学受験を選択するという人も多いです。

こう書くと、中学受験のほうがいいのかと思われるかもしれませんが、もちろん高校受験のメリットもあります。高校受験を選ぶメリットは、次の4つだと私は考えています。

高校受験のメリットとは?

1 教育費を抑えられる

高校授業料無償化の範囲が広がっているので、中学から私学に行くより、教育費の負担は少ないです。塾の費用も、中学受験塾より負担は少ない傾向があります。

2 それまでの環境をリセットできる

新しい環境で人脈も広がる中学受験を選ぶ理由として、同じような環境の人が集まるので安心という声がありますが、裏を返せば多様性に欠け、交友関係が固定化しやすいともいえます。高校受験に臨むことで、全く新しい環境に入れるのはメリットの一つでしょう。

3 小学生から受験のための塾通いをする必要がなく、子ども時代をのびのび過ごせる

中学受験対策塾では、夜の9時すぎまで授業があることも、少なくありません。子ども時代に遅くまで机に向かう必要がなく、ゆったりとした時間を過ごせるのは、高校受験を選ぶメリットだといえるでしょう。

4 本人の意思を最優先できる

本来、中学受験、高校受験ともに、親が全てをコントロールするのではなく、上手にサポートする必要がありますが、高校受験のほうが、より子どもの意思を優先できます。

忘れてはいけない「中学受験のリスク」

朝食を食べる親子

いかがでしょうか。中学受験、高校受験のメリットをお伝えしましたが、最終的な「これが正解」は正直ありません。子どもにどちらが合っているかを見極め、子どもがどうしたいかを聞いたうえで、それぞれの家庭で判断するしかないと思います。

ただ、中学受験を選ぶということは、10~12歳で目標に向けて挑戦することになるので、精神年齢の高いお子さん、ある程度の学習習慣が身についているお子さんのほうが取り組みやすいでしょう。反対にまだ精神的に幼くて、勉強に向き合う姿勢が育っていない子は、高校受験を選んだほうがいいかもしれません。

しかし、中にはそういうお子さんだからこそ、サポートがきめ細かい印象のある中高一貫教育を選びたいという人もいるでしょう。そういう場合はなおのこと、世間の価値観に流されず、お子さんに合う塾や学校を選ぶ必要があります。

中学受験をするかしないかを考える前に、受験した先にある中高一貫教育で何が得られるのか、そこで子どもに何を経験してほしいのかを考えてみてください。

わが家の軸をしっかりと持って選べば、どんな選択をしても後悔することはありません。

私の周りでも、受験が原因で親子関係が壊れたり、子どもの心が折れたり、せっかく入学した学校に子どもが通えなくなったりした事例がたくさんあります。心が折れてしまったお子さんの多くが、長い間夜更かしの生活を続けていたり、親の期待を一心に背負って競争にさらされてきたりしているのです。

中学受験に臨むときは、一歩間違えるとそうなるリスクがあることを理解してください。

中曽根陽子

教育ジャーナリスト。マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを活かした登録スタッフ制の企画編集会社を立ち上げ、「お母さんと子ども達の笑顔のために」をコンセプトに、多くの書籍をプロデュース。
その後、子どもの中学受験をきっかけに教育分野にシフトし、教育ジャーナリストとして紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。20年近く中学受験をはじめとした教育の現場を取材し、多くの教員・塾講師とのつながりを持つ。海外の教育視察も行い、偏差値至上主義の教育から探究的な学びへのシフトを提唱。

X:@y_nakasone

<中学受験>親子で勝ちとる最高の合格

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