子どもが性被害にあわないために知っておきたい「グルーミング」の実態【後編】

キンバリー・キング
2025.02.06 16:38 2025.02.12 11:50

うつむく男の子

性加害者は、楽しい雰囲気や共感を隠れ蓑にした「グルーミング」を行いながら、ターゲットとなる子どもに近づきます。子どもを守るために知っておきたい加害者の手口を、キンバリー・キングさんの著書よりご紹介します。(本記事は後編です)

※本稿は、キンバリー・キング著『子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(東洋館出版社)から一部抜粋・編集したものです。

グルーミングの手口(後編)

鉄棒と小学生の女の子

グルーミングのさまざまな手口を解説していきます。解説の中に出てくる言葉や行動を見聞きしたら、その人物に対して注意を怠らないようにしてください。

手口7:「楽しい雰囲気」を隠れ蓑にする

加害者は、ジョークやゲームなど遊びを通して子どもたちに近づいてくることもあります。初手こそいわゆるG指定、全年齢対象の内容かもしれませんが、そこにはすぐに性的な要素が混ざってきます。加害者たちは、くすぐり遊びや社交ダンスごっこに徐々に性的な接触を加えたり、「ゲーム」と称して自分の下着の中に隠した物やお金を子どもに探させたりします。こうした「遊び」の内容はやがて、オンラインポルノを見るよう仕向ける、性的に露骨な場面のある映画に連れていく、といったところにまで及んでいきます。「楽しい雰囲気」を隠れ蓑に、性的な言葉や行為に対する子どもの違和感を、段階的に薄めにかかってくるのです。性的接触という概念になじみの薄い子どもたちは、この手のグルーミングを仕掛けられると、その場の楽しさを性的接触の楽しさと混同してしまうことがあります。加害者の狙いは、まさにそこにあるのです。

【対策】
子どもたちと一緒に、からだの安全を守るためのルールをおさらいし、からだの境界線についても再確認しておきましょう。中でも、特に念押ししてお子さんに伝えてもらいたいことが二つあります。一つ目は、子どもへの性加害があったとき、子どもに非があることはあり得ない、ということです。これは、法律的に同意が成り立たないためです。二つ目は、プライベートパーツが絡む遊びには絶対に参加しない、ということです。そのような遊びに自ら加わることは、からだの安全を守るためのルールを破ることになります。また、そのような遊びに参加させようとする行為は、レッドフラッグです。

手口8:共感を寄せる

子どもたちも、ときには孤独を感じることがあります。その傾向が特に顕著になるのは、家庭内に不和が生じたときです。両親の別居や離婚、家族構成の変化や引越しは、子どもの心を不安定にします。そんなときの子どもは、「きみの気持ち、よくわかるよ。うちの両親もけんかばっかりだったからさ!」といった声かけに弱くなります。その言葉を発した相手が子どもを狙う犯罪者であっても、簡単に心を開き、精神的なつながりを感じてしまうのです。

血のつながりがある両親と子ども以外の人物が同居している状態、家庭内で何らかの問題が生じている状態、この二つの状態はいずれも、児童性被害のリスク因子であることが報告されています(Assink et al., 2019)。子どもが義理の親と同居している場合、あるいはひとり親の場合には、リスクはより高まります。リスクがもっとも高くなるのは、ひとり親の家庭に、その親のパートナーが同棲している場合です。この環境で暮らす子どもが児童性被害の被害者となる確率は、両親ともに生物学的な親である家庭で暮らす子どもの20倍と言われています(Sedlak et al., 2010)。この数字は、ひとり親世帯が子どもを狙う犯罪者の標的になりやすいことを具体的に示すものです。同様に、里親家庭の子ども(養子)が児童性被害の被害者となる確率も、両親ともに生物学的な親である家庭で暮らす子どもの10倍だと言われています(Sedlak et al.,2010)

【対策】
わたしは、子どもを見守る立場にある大人たちが力を合わせ、児童性被害防止のために積極的に動くことこそ、最大の効果が見こめるリスク軽減策だと考えています。家族構成にかかわらず、家庭内に不安や緊張が満ちている時期は、お子さんの安全にいっそうの注意を払うようにしてください。新しい人物をお子さんに紹介する際には、細心の注意が必要です。新しいパートナーや友人が、ご自身の目がないときにお子さんに会いに来ることのないよう気をつけてください。お子さんが在宅しているときは、新しいパートナーや友人は家に泊まらせないようにしましょう。からだの安全の守り方についてお子さんと話し合い、お子さんが困ったときに頼ってもいい人物、つまり「信頼できる」大人を決めておくようにしてください(第3章を参照してください)。

手口9:恥の感情と罪の意識を持たせる

手口7の対策でも申し上げましたが、大前提として、性的合意は、子どもにできるものではありません。犯人がいくら「嫌だって言わなかったじゃないか!」と言ったところで、法的には何の意味もないのです。しかし加害者は、子どもを責め立てて罪をなすりつけ、恥の感情を持たせることで心理的に支配し、被害について子どもが誰かに話すことを阻もうとしてきます。そこから逃れることは容易ではありません。典型的なフレーズを紹介しましょう。

・罪のなすりつけ 「きみも楽しんでた。しようって言ったのはきみだ」
・恥の感情 「お家の人が知ったら、そんなことするのはうちの子じゃないって言われちゃうだろうね」
・罪の意識 「このことをママに言ったら、家族はバラバラになるよ。ぼくは刑務所行 きだ」

こうした支配戦術は、子どもから子どもへの加害の中で使われることも珍しくありません。

被害児の多くは、自分の性被害について誰かに相談することに、強い抵抗を覚えます。そうした行為の対象となってしまった自分のことを、ひどく恥じているからです。性加害の期間が長引けば長引くほど、被害児が抱える恥の感情は蓄積されていきます。これに加え、かつてのわたしと同じように、性被害について話せば家族が崩壊する、と脅されている被害児も少なくありません。この脅しが枷となって、被害児の口は、ますます重くなってしまうのです。

【対策】
その性加害がどれほど長期にわたってつづいていたとしても、それは決して被害児のせいではないということを、子どもたちにしっかり伝えてください。その上で、自分の周りには保護者をはじめとする信頼できる大人たちがいて、いつでも自分を助け、守り、愛してくれるのだという認識を持たせてあげてください。いつでも何でも話してほしい、話してくれたことはちゃんと信じると、もう一度、いえ、何度でも、伝えてあげてください。

手口10:「みんなしてるよ」と安心させる

加害者たちは、子どもの警戒心を解くために、自分の行動があたかも「ふつう」であるかのように見せかけてきます。「みんなしてるよ」「ほとんどの子がしてることだよ」。こんな言葉が出てきたら、レッドフラッグです。こうした言葉で、ここまで紹介してきた手口(特に1、3、4、5、7)が秘密裏に進められていくのです。

【対策】
お子さんに秘密を守ることを約束させたり、支配的な行為や過度なスキンシップを試みたり、物やお金を贈ったりしている大人はいませんか?  

お子さんとその人物が、他人の目を避けてこっそり会うような関係になってはいないでしょうか?グルーミングの手口について知っておくことは、小さな兆候も見逃さない注意力を養うことにつながります。お子さんの年齢にかかわらず、「からだの安全の守り方」と「同意」について、定期的かつ継続的に話し合いましょう。健全で適切な仲間関係とはどういったものか、お子さんと一緒に考えてみてください。

手口11:空席に忍びこむ

シングルマザーの方、シングルファザーの方は特に、この手口に気をつけてください!

離婚したこと自体を責めるつもりは、みじんもありません。わたし自身、2度の離婚を経験しています。加害者本人たちからの聞き取りをもとに、どんな子どもがターゲットとして狙われやすいかを探った調査研究があります。示された答えは「ひとり親家庭あるいは機能不全家族の一員で、おとなしく物静かで悩みを抱えていそうな子」でした。(Elliott, Browne, andKilcoyne, 1995)。

離婚直後、ひとり親の多くは、自分の人生の変化に向き合うことを余儀なくされます。このときの反応は、人によってさまざまです。悲嘆に暮れ、落ちこみ、孤独を抱えつづけるタイプ。子どもをベビーシッターに任せる時間を増やして、友人たちと出かけたり、リスクの高い決断をしたり、自分の人生を謳歌するようになるタイプ。真逆のようなこの二つのタイプですが、「子どもに手を出す前に親の信頼を勝ち取っておこう、そのためにまずは親をグルーミングしよう」と考える犯罪者の目には、どちらも格好のターゲットとして映るのです。

彼らは、無料でベビーシッター役を務めると申し出たり、スポーツクラブやダンス教室への子どもの送り迎えを買って出たりして、親の懐に入りこんできます。「子どもは見ててあげるから 、その間にヨガに行ってきたら?」。そんな親切めいた言葉をかけてくることもあるかもしれません。「たまには友達と旅行にでも行ってきたらいいよ」。そんな優しげな助言のかたちで、週末に子どもを泊まりがけで預かることを提案してくる可能性もあります。彼らの目的は、狙った子どもに近づく口実と権利を得て、その子とともに過ごす時間を手に入れることです。グルーミングがつづくうちに、彼らはその家族にとって必要な存在になっていきます。親が一人抜けたことで、空いていた席にするりと入りこんで、いつでも子どもと接触できる立場を獲得してしまうのです。

【対策】
できることなら、離婚後せめて1年間は、新しいお相手との交際は控えるのが望ましいかと思います。離婚の影響を受けるのは、離婚した当人だけではありません。子どもたちにも、両親の離婚という事実を受け入れ、理解し、悲しみ、消化するための時間が必要です。この移行期間は、家族全員にとって難易度の高いものになりがちです。できればこの時期は、新たなお相手との交際は様子見に留め、目の前のお子さんとご自身をいたわること、ご自身の心身の健康を整えることに注力してほしいと思います。新しく交際に踏み出す際には、お相手に関する情報をオンラインで調べてみてください。各種ソーシャルメディア上での交友関係、これまでの投稿などについても確認しておきましょう。

また、お相手の家族や友人からも話を聞いてみてください。この段階では、どんなに慎重になっても、警戒しすぎということはありません。遠慮することなく関係者を訪ねて回って、「またあのママさんが来たよ」「ああ、あの新しいお相手だね」、そんな存在になってしまいましょう。信頼に足る人物だという確信を得るまでは、お相手を家には招かないようにしてください。お子さんを遊びに連れていってあげる、お子さんにプレゼントを買ってあげるといった親切な申し出があっても、この時点ではまだお断りするようにしましょう。お相手との間に永続的な信頼関係が築かれるまでは、お相手とお子さんだけになる状況をつくらないようにしてください。ここまでの記述に、ちょっと大げさなんじゃないか、という感想を持たれた方もいることでしょう。しかしこれが、児童性被害防止の専門家であり、シングルマザーを支える活動もつづけてきたわたしの実感なのです。 活動を通して見聞きしてきた数々の事例、そして、自分自身のシングルマザーとしての経験から、確信を持ってお伝えできることが二つあります。まず、ひとり親を狙った「空席に忍びこむ」手口は、非常に危険性の高いものであるということ。しかしその一方で、親であるわたしたちが必要な知識を学び、安全のための戦略を実践し、正しい選択をすれば、防げるものでもあるということです。

キンバリー・キング

ウィーロック大学(現ボストン大学ウィーロックカレッジ)大学院教育学修士(M.S.Ed.)。自身が性被害にあったことをきっかけに、メイン大学在学中から、サンドラ・キャロン博士のアシスタントとして性被害防止活動にかかわる。幼稚園教諭として働きつつ、非営利組織「ダークネス・トゥ・ライト(Darkness to Light)」の認定ファシリテーターを務め、児童性被害予防教育の専門家として活動している。2016年に刊行した絵本『I Said NO! A Kid-to-Kid G uide to Keeping Private Parts Private』(イヤだって言ったでしょ! 子どもから子どもに伝える、
プライベートパーツの守り方/未邦訳)は、マムズ・チョイス・アワーズ(The Mom’s Choice Awards:MCA)の金賞を受賞している。

栗田佳代

翻訳者。慶應義塾大学総合政策学部卒業。
訳書に、『まっすぐだけが生き方じゃない 木に学ぶ60の知恵』『リチャード・ブランソンの生声』(ともに文響社)。

子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド

子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(キンバリー・キング 著, 栗田 佳代訳/東洋館出版社)

からだの安全絵本が全米ベストセラーとなった性被害予防専門家から、3歳〜10歳の子どもを育てる保護者へ

どんな状況であっても、被害者である子どものせいでは決してありません。

しかし、保護者が知識をつければつけるほど、子どもたちをより安全にすることができるのです。

子どもが性被害の危険に晒される可能性を最小限にするために、必要なこと全部を1冊にまとめました。