教育熱心な親がやりがち!「解説トーク」が子どもを伸ばさない理由
幼児期の子どもに対して、たくさん話しかけ、語彙や知識を増やしてあげたいと思う親は少なくないでしょう。ですが、シュタイナーこども園園長を務める赤川幸子さんは、もっと親子の間の静かで豊かな時間を大切にしてほしいと言います。赤川さんの著書『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』より、その理由とシュタイナー式の子どもとのかかわり方についてお届けします。
※本稿は、赤川幸子 (著)『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです。
大人は余計なことを言いすぎている
園に見学に来た方は時折、先生があまり話さないことに驚かれるようです。
シュタイナー教育においては、先生がずっと話しているということはありません。
もちろんそれは、無言で過ごすことをよしとしているのではなく、必要なことを端的に伝えているために、言葉が少なくなっているのです。
私たちは、やっていいことは一言で伝え、ダメなことも一言で伝えます。
「〜だから」などと理由を説明することはありません。幼児期は特に、短い言葉で端的に言わなければ、伝わらないからです。
理由が必要なのは大人の世界であり、子どもの世界に必要なのは、身体に結びついた具体的な短い言葉です。
一度、ご自身とお子さんの会話を録音して、1日の中で子どもに向けて使った言葉を書き出してみるといいと思います。やってほしいことは1つなのに、余計なことをたくさん喋りすぎていることに気がつくはずです。
言葉を手放すことができると、とても穏やかな時間がお子さんとの間に生まれます。
先日バスで、お子さんに向かってずっと話しかけているお母さんがいました。外に見えるものを解説しながら、お子さんに伝えています。そうすることで、お子さんの語彙や知識を増やそうとしているのかもしれませんが、子どもはすでに飽きてしまっているようでした。
たくさん話しかけることがよいことだと思い込んでいると、親子の間の静かで豊かな時間を失うことになるかもしれません。
お子さんがバスから外を眺めたり、一人で手遊びなどしているのであれば、そっとしておいたほうがいいのです。
ぼーっとしているように見えても、頭の中でぐるぐると何かを考えているかもしれませんし、もちろんぼーっと休息することも大事。
おしゃべりをすると、身体が止まってしまいます。身体に働きかけるこの時期は、おしゃべりよりも何か遊びの世界に誘うほうがいいでしょう。
解説はいらない
検索によって知識があっという間に手に入るようになった今、「できるだけこの機会を生かして、子どもに知識を教えよう」と考える親御さんを見かけるようになりました。
赤トンボを見たら携帯で検索し、「赤トンボには何種類かいて、よく見るのはアキアカネという種類だよ」「赤くなっているのは雄のトンボだよ」「どこにいると思う? アキアカネは初夏は山地に、秋は平地にいるんだって」などと解説し、赤トンボに関する情報は、今のうちに教えてしまおうというわけです。
愛情からだということはわかるのですが、このような解説を子どもがそのまま覚えていることはありませんし、後々、赤トンボのことを知りたくなったときに、その子が調べればいいだけのことです。
幼児期の今は、「あれが赤トンボだ」ということを知るだけで十分です。
もっといえば、「何か飛んでるね。虫さん飛んでるね」くらいでもいいと思います。
また翌年同じ光景を見たときに、「あの虫さん、なんていうの?」と、お子さんが聞いてくるかもしれません。そうしたら、「赤トンボだよ」と教えてあげる。
その時に吹いている風の冷たさをなんとなく思い出して、「風が冷たくなったら、飛ぶトンボ」ということが自然とわかってくる。
そんな淡い記憶の積み重ねを大事にしたいものです。
小さな子どもに、詳しい解説はいりません。
赤トンボが飛んでいるのを見つけたら、「赤トンボだね。風が涼しいね」とちょっと冷たくなった風を一緒に感じてもいいですね。
赤トンボを見ながら肌で涼しさを感じれば、「秋とはこういうものか」ということが自然とわかるようになります。「秋」という抽象的な言葉は、このようにして子どもが使える言葉になっていくのです。
すべてを言語化しない
すべてを言語化し解説しようとすると、「感じる」部分を置き去りにしてしまいます。
子どもにとっては、赤トンボという限定的な知識より、秋そのものを自由に感じるほうが大切です。
これは絵本の読み聞かせでも同じです。
幼稚園のクラスで、グリム童話や昔話を読み聞かせるのですが、大人はつい「わかった? 悪いことをしたから、狼は食べられちゃったよね。悪いことをしたらダメなんだよ」と言いたくなります。
しかし、そこは我慢。
お話は、語りっぱなしにします。
もちろん「どう思った?」と感想を聞くことも、「だからこうなんだよ」と解説や教訓めいたことを言うこともありません。
子どもがお話から何かを感じることができれば、それだけでいいのです。気持ちを言葉にして発表させたり、大人がそれを引き取って解説する必要はありません。すべてを言語化する必要はないのです。
白黒つけず、あいまいにしておく
感じたままを、そのままそうっとしておく。
これはとても大切なことです。
大人は、あいまいなままにしておくこと、ぼんやりとさせておくことが苦手。白か黒かはっきりしたい、「その気持ち」にラベリングしたいと考えてしまいます。
幼児期は、身体を育てる時期。触覚、生命感覚、運動感覚、平衡感覚といった身体感覚を育てている時期です。言葉ではなく、感覚で生きているのです。
ですから言葉ですべてを解説するのではなく、その感情や感覚が、なんなのかはわからなくていい状態にしておくのがいいのです。
大丈夫。そのうちだんだんと、わかるようになります。
子どもの頃、怖いのに何度も読んでとせがんだ絵本はありませんか? 怖いけど、気になる。怖いけど、好き。そんな折り合いのつかない気持ちを、一言で表すことなどできません。
その解決しない気持ちをそのままにしておくと、感情を育てる時期に入ったときに、その奥深くにある意志のようなものが動き出します。お化けの本をもっと読んでみたくなったり、感情を揺さぶる小説や漫画を読み耽るようになったりするのです。
シュタイナー教育では、7歳から14歳で、感情を感じる力(感性)を積み上げていくことに注力するのですが、それは7歳までに意志がしっかり育ち、さまざまなことを感じられる段階になるからです。感情を言葉にするのはもう少し待って、お子さんが感じるままにさせておきましょう。
身体と一体だった感情が、離れる
幼児期には、身体と感情はぴったりとくっついています。
赤ちゃんであれば、お腹が空いたり眠くなったりすれば、泣いて訴えます。
「身体の状態=感情」となっているからです。
それがだんだんと分離していきます。年中さんくらいになると、お腹は空いていても機嫌はそこまで悪くならず、ある程度普通に過ごすことができるようになります。
また、「お腹ペコペコだよ」と、言葉で身体の状態を言い表すことができるようにもなってきます。
自分の状態を把握した上で、それを言葉で表すことができるようになるのは、年中さんくらいになってからです。
このように言葉にできるようになれば、問題が解決されるため泣いて訴えなくてもよくなります。
また、規則正しい生活をしていれば、「そろそろお昼ご飯だ」ということが身体で予測できるようになるので、感情の高ぶりを抑えることができるようになります。
2〜3歳頃は、身体と一体だった感情が離れ始めるために、感情との向き合い方が難しくなるのかもしれません。この時期、感じるままにさせておくことで、成長と共に言葉が増えてくると、その感情をうまく表すことができるようになっていくのです。
赤川幸子 (著)『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』(かんき出版)
齊藤工さん、坂東龍汰さんらも受けた!! シュタイナー教育の本。
ー実際に、園に通っていた親御さんからの感想!ー
「必要なものは自然それだけ。シンプルで非認知能力を上げる子育てです」S.K さん
「どこでもできるので助かりました」H.Wさん
シュタイナー教育…オーストリア出身の思想家・哲学者ルドルフ・シュタイナーによって提唱された教育法です。
◎シュタイナー教育は、子ども 1 人ひとりの個性を尊重するとともに、潜在的な能力を引き出すことに重きを置いています。
◎シュタイナー教育は、クラス単位で平等的な教育を施す一般教育とは対照的な教育法。
人は約 20 年をかけて一人前になるという前提で、その 20 年を約 7 年ごとの段階に分け、それぞれの発達段階に適した教育をすることが最も重要と考えるもの。
子どもの学年や年齢、発達の段階なども加味し、最適な授業を行うのがシュタイナー教育の特徴です。
◎シュタイナー教育を受けた有名人
斎藤工さん(俳優)、坂東龍汰さん(俳優)、村上虹郎さん(俳優)、ミヒャエル・エンデ(作家)代表作『モモ』、サンドラ・ブロック(俳優)
◎「子どもの気持ちになってみよう」「子どものやりたいことを推測してみよう」「子どもの気持ちを尊重して、嫌だと言われたらやるべきことでもさせない」などと書かれている本は多いですが、これらは結果的にうまくいきません。
◎子どもの「意思」を尊重しすぎて何でも好きなことをやらせようとする行為は、子どもが自制心をはぐくむ機会を奪っていることになります。
◎この本では、子どもは大人とは異なる認識力の持ち主であることを改めて伝え、子どもがわかる「ことば」や「習慣」を具体的にお伝えしていきます。
◎園で実践していることばかりですので、その効果は実証済み。
親の意図が子どもにスムーズに伝わることで、親は子育ての大変さが大幅に軽減され、子どもは主体性が現れるようになり、親子の信頼関係に好循環が生まれてきます。