「言葉の力」は学力やコミュニケーション力などを培うための土台ですから、語彙を増やすのは重要です。しかし意外なことに、だからこそ語彙の数にはこだわらない「おおらかさ」が親には求められます。

 

親子

 

「言葉の力」があれば学年が進むほど伸びる

 

語彙力は、知識を得るための基礎です。何を学ぶにも、そこで使われている言葉の意味をわかっていなければ、学んだことにはなりません。

算数や数学でも、それは同じこと。たとえば「平行四辺形の定義」―つまり「平行四辺形とはどういうものか」をわかっていない子は、「対角が同じなのはなぜ?」という問いに答えられません。定理をただ丸覚えしていても、その意味がわかっていないからです。

「意味の把握」という出発点ができていないと、理解はどんどんズレます。そのズレは、年齢を重ねるほどひどくなるでしょう。

低学年のときは優等生でも、学年が進むにつれて成績が落ちてしまう子がよくいますが、その原因はここにあります。逆に、言葉に強い子は学年が進むほど伸びていき、学力のみならずコミュニケーション力も高い「頭のいい人」に成長するのです。

では、そもそも「頭のよさ」とは何なのでしょうか。それは「本質を見通せる」ということです。本質とは、たとえば単語の意味、文章の要旨、話している相手の意図など、目に見えないものです。単に「書かれた言葉を見る」「言われた言葉を聞く」だけでなく、その行間や、言葉の裏にある思いを「読み取る」ことが、本物の「言葉の力」です。この力があってこそ、他人と理解し合い、課題や問題を解決できる大人になれるのです。

 

子どもにとって最大の敵は「やらされ感」

 

この「言葉の力」の習得は、学校に入る前から始まります。というより、むしろ幼児期こそが一番大切な「仕込みの時期」だと言えるのです。

しかしこう言うと、「がんばって本を読ませなきゃ」などと、しばしば親が間違った方向に向かってはりきってしまいがちなのが困りものです。

そのアプローチは逆効果です。「やらされ感」を覚えた瞬間、子どもの関心は大いにそがれてしまうでしょう。

知識を育むための最大のポイントは、「楽しさ」です。子どもは本来、強制さえされなければ、喜んでものごとを知りたがるはずなのです。

では、その楽しさを邪魔せずに、存分に言葉を吸収させるには、親はどうすればいいのでしょうか。そのコツをお話ししましょう。

 

語彙は家庭で自然に増やせる

 

・親の言葉づかいを正確に

年齢を重ねるほど伸びていく子には共通点があります。例外なく、家庭内で交わされる言葉が正確なのです。親の言葉づかいに間違いや曖昧さがなく、理解にズレの起こらない会話が交わされています。まずはお母さん、お父さん自身が適切な言葉づかいをしましょう。子どもはその姿勢を、自然に吸収していきます。

 

・「かみ合わない会話」に要注意

親が「幼稚園は楽しかった?」と聞いて、子が「お腹減った」と答える。そんなかみ合わないやりとりでは、伝える力も、相手の意図をくむ力もつきません。「あれ? お母さんは『楽しかった?』って聞いたよ」と、あくまでも叱らずに聞き直し、「質問と答え」という会話の基本を身につけさせましょう。

 

・笑いのある家庭では知性も育つ!

頭のいい人の多くは冗談が大好き。人を笑わせる行為というのは、実は「予想の裏をかく」という知的な技なのです。楽しさと知性をあわせもつ子を育てるなら、両親が日頃から笑ったりふざけ合ったりしているのが一番。子どものギャグにも、大いにウケましょう。子どもはまたその笑顔が見たくて、さらに思考を巡らせるようになります。

 

遊びの中で語彙を増やす

 

・「しりとり」は最高のゲーム

遊びながら言葉を増やすなら、しりとりが一番。想像力を働かせながら、子どもは積極的に言葉を覚えようとします。電車や車での移動中に、ぜひ親子で楽しみましょう。慣れたら「3文字で」などの縛りを設けて難易度を上げましょう。「食べもの」「虫」「お花」などの条件をつけると、想像力をきたえる効果が大きくなります。

 

・外遊びで「分類」を覚える

親子で外遊びをするときは、子どもが関心をもつものに着目しましょう。もし昆虫に興味を抱いたら、その虫の名前を教え、わからなければ一緒に調べましょう。チョウとトンボの違い、カブトムシとクワガタムシの違いなどを知るにつれ、情報を分類する力が育ちます。もちろん虫に限らず、植物などでも構いません。

 

・図鑑や漫画で知的好奇心を刺激!

遊びの中で好奇心を刺激されると、子どもは親の知識を超えるような細かい情報まで求めるようになります。そこで役立つのが図鑑。興味のおもむくまま、昆虫や花の名前を吸収するでしょう。ちなみに漫画にも有意義なものが多々あります。「日本の歴史」を漫画で表現した作品などは、知的な欲求に応える良書と言えるでしょう。

 

語彙力を育てる会話のコツ

 

・覚える語彙は、何でもOK!

子どもが怪獣や電車など、好きな分野の知識を貪欲に集めているとき、「怪獣の名前なんか覚えたって......」などと考えないこと。子どもはこれで「記憶する」という作業を体得します。夢中になっているときは放っておくのが一番。時折「こっちは何?」など、ワクワク感を高める質問をするぐらいでよいでしょう。

 

・もし間違っても叱らない

正確な言葉づかいを覚えさせるためには、その場で間違いを正す必要がありますが、「違うでしょ!」などと叱るのは厳禁です。たとえば、「○○って言いたかったんだね」といった言い方で正解を教えましょう。このフレーズは、子どもが何かを言いたいのにうまく表現できずに困っているときにも使えます。

 

・子どもの疑問に答えられなくてもOK

「空はどうして青いの?」など、大人でも難しい質問をされたら、まず「そんなこと、よく気づいたね!」と感動を示し、「お母さんも知らないわ。一緒に調べよう」と誘いましょう。すぐに正解を言えなくても、子どもはガッカリしたりしません。むしろ、知らないことを知ろうする親の姿勢に感化されるでしょう。

 

就学前の「暗唱」が効果的!

 

・「音」で言葉を覚えた子は強い

文字を習う前の段階で「口頭言語」つまり、「音声としての言葉」に多く触れさせておくと、あとあと学力が伸びます。おすすめの方法は「暗唱」。子どもは大人が思うより、ずっと暗唱が好きです。名文朗読の動画などを見ながら、「お母さんも言えるかな?」とまねて見せれば、きっと「僕もやる!」と乗ってくるでしょう。

 

・リズムのある名文なら楽しい!

覚える文は『平家物語』の冒頭など、時代を超えて愛される名文がよいでしょう。また、「一番はじめは一の宮―」といった手まり歌、宮沢賢治『風の又三郎』冒頭の「どっどど どどうど」など、リズムのあるものもおすすめです。子どもは面白がって何度も口ずさむうちに、すっかり覚えてしまうでしょう。

 

・意味がわかっていなくてもOK

名文には難しい言葉も出てきますが、意味まで知る必要はありません。聞かれたら答えてあげたほうがいいですが、まずは言葉そのものを覚えることが大切。子どもの吸収力は凄まじいので、驚くほど早く言えるようになります。そのときに「すごいね!」と驚きを示せば、喜んでもっと覚えようとするでしょう。

 

9歳まではオタマジャクシ

 

・幼児期は「夢中体験」を増やす

カエルにたとえると、9歳までは「オタマジャクシ期」。この時期は無邪気に何かに没頭し、外界と深く親しむことが重要です。それが9歳を過ぎた「カエル期」に、本質を探る力となって花開きます。6歳以前の幼児期であれば、なおさらです。「夢中体験」を増やし、その中で言葉に触れさせていきましょう。

 

・トラブルはチャンスなり

6歳までは、気配りをしたり空気を読んだりする必要はありません。心の向くまま、のびのびと好きなことをさせましょう。その結果、もしも友だちとトラブルを起こしたときは、むしろ社会性を身につけるチャンスです。「なぜこうなったと思う?」「どうしたらいいと思う?」と本人に考えさせましょう。

 

・男の子と女の子の違い

男の子と女の子の違いについても知っておき、それぞれの特徴に合わせて上手に刺激しましょう。男の子は概して勝負ごとが好きで、マニア度も高め。遊びには競争の要素を入れ、収集癖の邪魔をしないことが大事です。一方、女の子は空想好き。バカにしたりせず、「それでどうなったの?」と、どんどん語らせましょう。

 

語彙を増やすために語彙の数にこだわらない

 

子どもの語彙を増やすには、のびのびと好きなことをさせるのが一番です。就学前から机の前に座らせて文字を教え込んだり、「この言葉の意味は?」とテストしたり......。これでは子どももウンザリでしょう。

テーマと矛盾するように聞こえるかもしれませんが、6歳までは語彙が少なくてもいいのです。どんなジャンルであれ、好きなことに没頭させておくと、やがてグングンと語彙を増やすようになりますから、幼児期の親は、おおらかに構えることが大切です。

また、親が正確な言葉づかいをすることと、子どもの疑問には親も身を乗り出して関心を示すことも重要です。「知ること」の楽しさを、子どもは親の姿から学びます。

ですから、親自身が好奇心をもって自分の生活を楽しむことも、子どもの成長の強い後押しとなるでしょう。

 

 


 

「PHPのびのび子育て」 10月号より

 

のびのび

 

本記事は、「PHPのびのび子育て」2018年10月号特集【ちゃんと話せて聞ける子に】より、一部を抜粋編集したものです。

 

【著者紹介】

高濱正伸

花まる学習会代表。東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。1993年に作文・読書・思考力・野外体験を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。毎日放送「情熱大陸」など数々のメディアで活動が紹介される。著書に、『子育ては、10歳が分かれ目。』(PHP研究所)など多数。