ある公立高校の奇跡…国公立大の合格者を18倍に激増させた「探求学習」

茂木健一郎
2024.04.24 00:50 2019.04.23 12:00
 

養老孟司さんも堀江貴文さんも、「探究」を実践していた?

勉強する高校生
※写真はイメージです

堀川高校の他にも、「探究学習をしている子が、していない子に比べて、学力が上がっている」という事例はたくさん聞きます。

例えば、解剖学者の養老孟司さんをはじめとする多くの研究者が、子どもの頃に昆虫採集に熱中する、などの探究的経験を持っています。研究者の中の昆虫愛好家率はとても高いのです。

ではなぜ、入試科目に直接関係のない探究を積んだ方が、学力が上がるのか。それは、探究学習をどれくらい行なったかということが、その子の地頭の良さに繫がってくるからです。

ホリエモンこと堀江貴文さんの例を見てみましょう。堀江さんの話では、久留米大学附設高校2年の終わり頃の成績は、後ろから5番目くらいだったそうです。

彼がいうには、中学校2年生から高校2年生までは、ほとんどの時間をゲームとプログラミングに費やし、とにかく熱中して探究していたとか。そして高校3年生になったときに、ハッとして「やっぱり東大に行きたい!」と思い、一年間は受験勉強に専念します。結果、見事東京大学に現役合格しました。

堀江さんが1年勉強しただけで東大に現役合格できたのは、探究学習を積んでいたおかげで既に地頭ができあがっており、受験科目も難なく吸収できたためだと思います。

つまり、探究することは脳の基礎体力を養うようなものなのです。

探究は脳を「フロー」に導く─グーグルの取り組み

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グーグルの北米本社では、従業員が仕事に没頭し続け、最高のパフォーマンスを引き出すことができるように、さまざまな取り組みが実行されています。

グーグルの取り組みの中には、探究することも入っています。じつは、探究を深めていくと脳は「フロー」という状態に入り、恍惚状態になることがわかっています。それまでの脳と探究を行なったあとの脳ではすっかり変わります。

どのように変わるのかというと、探究により、課題や仕事に没頭し続け、最高のパフォーマンスをやってのける脳に変わっていくのです。

「フロー」について、もう少し詳しく説明しましょう。心理学者のミハイ・チクセントミハイによって提唱されたもので、最高に集中した精神状態のことです。

「集中しているが、リラックスしており、最大のパフォーマンスを発揮する」状態です。フローにおいては、このパフォーマンスをしたら成績が上がるとか、メダルがもらえるとか、行為を手段としてとらえるのではなく、行為自体が目的となるのです。フローは「ゾーン」とも呼ばれます。

フロー、あるいはゾーン状態のとき、脳内ではドーパミンやセロトニンをはじめとする、あらゆる神経伝達物質が活性化し、快感を得ます。それによって圧倒的な集中力が生まれ、最高のパフォーマンスが発揮できるようになるのです。

余談めいた話になりますが、グーグルがこの「フロー」状態に入ることを重視しているのは、「バーニングマン」というイベントへの参加を従業員に推奨していることからもえます。

「バーニングマン」とは、アメリカ北西部のネバダ州のブラックロック砂漠で毎年1週間限定で開催されるイベント。グーグルの創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、毎年欠かさずこのイベントに参加しているそうです。

砂漠の中の会場は、総面積約4.5平方キロメートルという広大な街とその周辺。電気、水道、電話、ガス、テレビ・ラジオ、携帯電話などのサービスもなし。そのため参加者は、食料と水、テントなどを持参し、他の参加者と助け合いながら砂漠の中で一週間を過ごします。

その間、昼夜を問わず、度肝を抜かれるような映像、方向感覚を狂わせる音響、アート・インスタレーションなどが開催され、会場全体がカオス状態になるのです。

この体験が重要なのは、それによって脳が「フロー」状態になることです。日常と異なる条件下で、与えられたものを使って、なんとか1週間を過ごしていく。ある意味、探究が不可欠な状況といってもいいでしょう。

バーニングマンは、確かに圧倒的体験ではありますが、年1回のイベントです。グーグルでは日常的に社員がフロー状態でいられるように、社員が行なう探究の助成なども行なっています。

探究は、脳が喜び、パフォーマンスが上がり、さらに思考力や受験への対応力もつく、まさに「究極」の勉強法と言えるでしょう。

茂木健一郎

茂木健一郎

1962年東京生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。