子どもの語彙を楽しく増やす 家庭の習慣

高濱正伸

「言葉の力」は学力やコミュニケーション力などを培うための土台ですから、語彙を増やすのは重要です。しかし意外なことに、だからこそ語彙の数にはこだわらない「おおらかさ」が親には求められます。

※本記事は、「PHPのびのび子育て」2018年10月号より、一部を抜粋編集したものです。

高濱正伸(花まる学習会代表)
1959年、熊本県生まれ。東京大学大学院修士課程卒業。93年に、「国語力」「数理的思考力」に加え「野外の体験教室」を指導の柱とする学習教室「花まる学習会」を設立。算数オリンピック問題作成委員・決勝大会総合解説員。

「言葉の力」があれば学年が進むほど伸びる

語彙力は、知識を得るための基礎です。何を学ぶにも、そこで使われている言葉の意味をわかっていなければ、学んだことにはなりません。

算数や数学でも、それは同じこと。たとえば「平行四辺形の定義」―つまり「平行四辺形とはどういうものか」をわかっていない子は、「対角が同じなのはなぜ?」という問いに答えられません。定理をただ丸覚えしていても、その意味がわかっていないからです。

「意味の把握」という出発点ができていないと、理解はどんどんズレます。そのズレは、年齢を重ねるほどひどくなるでしょう。

低学年のときは優等生でも、学年が進むにつれて成績が落ちてしまう子がよくいますが、その原因はここにあります。逆に、言葉に強い子は学年が進むほど伸びていき、学力のみならずコミュニケーション力も高い「頭のいい人」に成長するのです。

では、そもそも「頭のよさ」とは何なのでしょうか。それは「本質を見通せる」ということです。本質とは、たとえば単語の意味、文章の要旨、話している相手の意図など、目に見えないものです。

単に「書かれた言葉を見る」「言われた言葉を聞く」だけでなく、その行間や、言葉の裏にある思いを「読み取る」ことが、本物の「言葉の力」です。この力があってこそ、他人と理解し合い、課題や問題を解決できる大人になれるのです。

子どもにとって最大の敵は「やらされ感」

この「言葉の力」の習得は、学校に入る前から始まります。というより、むしろ幼児期こそが一番大切な「仕込みの時期」だと言えるのです。

しかしこう言うと、「がんばって本を読ませなきゃ」などと、しばしば親が間違った方向に向かってはりきってしまいがちなのが困りものです。

そのアプローチは逆効果です。「やらされ感」を覚えた瞬間、子どもの関心は大いにそがれてしまうでしょう。知識を育むための最大のポイントは、「楽しさ」です。子どもは本来、強制さえされなければ、喜んでものごとを知りたがるはずなのです。

では、その楽しさを邪魔せずに、存分に言葉を吸収させるには、親はどうすればいいのでしょうか。そのコツをお話ししましょう。