中学受験生、習いごとはいつ辞める? 両立は可能?

渋田隆之

中学受験を控えた子どもには、習い事や趣味を辞めさせて勉強に専念させたほうがいいかというと、一概にそうとは言えないそう。

中学受験の第一線で30年以上指導してきたプロ講師・渋田 隆之さんに、受験期における習い事や趣味、心身の調子との上手な付き合い方について教えていただきました。


※本稿は渋田 隆之著『2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです

勉強よりも体調管理を優先に

受験生は一般的に、運動不足になりがちではないかと思います。しかし、成長期どまん中である子どもたちにとって、健康であることは最優先にすべきです。

「入試前に休むわけにはいきません」「体調が悪いのですが、授業は休ませたくありません」と保護者から連絡がくることがあります。

気持ちはわかりますが、健康第一です。「一回の授業でも、休むと合格できないかも」という強迫観念を抱いたまま受験に向かうことのほうが、合格から遠ざかる原因となります。まずは、親子で心身ともに健康でいられるよう、ちょっとした運動の習慣を心がけましょう。

心と体の相互関係を取り扱う心身医療の分野では、心の健康は運動とおおいに関係するという研究結果が次々と発表されています。

デューク大学医学部は、うつ病と診断された患者の大半にとって、週3回、1回30分の運動が抗うつ剤の服用と同じような効果があるという研究結果を示しました。

また、ハーバード大学医学部の精神科教授ジョン・レイティは、次のように述べています。

「運動は、精神疾患の最も重要な薬と同様の効果があるノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンといった神経刺激伝達物質の放出をうながします。ひと汗かくことは、適量のプロザックやリタリン(代表的な抗うつ剤)を服用するようなものなので、心身を正常な状態にしてくれるのです」

おすすめなのは、「朝の散歩」です。

散歩については、早起きの習慣にもなりますし、時間が合わなくてなかなか会えないお父さんと散歩しながら「最近こんなことがあった」「今、こんなことを学んでいる」と話をすることで、急速に親子関係がよくなったという報告を聞きました。勉強漬けで運動ができていないかも、と感じたら、ぜひ取り入れてみてください。

読書はじわじわ効いてくる

「本を読んでも国語の成績は上がらない」という話を聞くことがあります。私は、読書には急激に読解力を上げるための即効性はないかもしれませんが、漢方薬のようにじわじわと効いてくるものだと思います。

本で読んだ内容と似たようなテーマの文章が出たとき、当然ながら有利になります。さらに、本の内容に刺激を受けて、将来の夢が広がって受験に前向きになった子もいます。読書の暇があれば目先の模試対策にあてたいと思う気持ちもわかりますが、本は子どもたちの視野を広げる大切な道具ですので、無駄だと切り捨てるのは、少し待ってください。

朝読書を行う私立中学は多くあります。先生たちからは、国語以外の教科にも読書の効果が出ているという話も聞いています。

英米大学の研究でも、次の4つの読書の効果が明らかになっています。

➀集中力がつく
本の世界にのめり込む生徒は、集中力が高い傾向にあります。

②共感力が育つ
読書を通じて異文化への理解が深まり、共感する能力が育ちます。英語がしゃべれても、共感力がないと、コミュニケーションは成り立ちません。国語講師という立場からも、母国語を軽視すると、あるレベルから先が行き詰まる可能性があると思っています。

③脳内が活性化する
文章から得られる情報からイメージするとき、記憶や経験をたぐり寄せるために我々は脳のさまざまな領域を起動し、新たな神経経路を構築しています。この働きは、テレビやゲームをプレイしているときには起こらないそうです。

④ストレスが軽減する
サセックス大の調査では、6分間の読書によって下がるストレスレベルは、音楽を聴いたり散歩に出かけたりして発散する際の68%以上も効果的であることがわかっています。

読書には時期がある。本とジャストミートするためには、時を待たねばならないことがしばしばある。しかしそれ以前の、若い時の記憶に引っかかりめいたものをきざむだけの、三振あるいはファウルを打つような読み方にもムダということはないものなのだ。

これは、ノーベル文学賞受賞者の大江健三郎氏の言葉です。

過去に、難関中学に合格した教え子が、5年生のときに『ソフィーの世界』を読み「よくわからないことがわかったよ、先生!」と言ったことを思い出します。

子どもが1ヶ月に読む本の数は、両親が読む本の数とほぼ同じだというデータもあります。まずは、保護者が読書を楽しむ姿を見せ、本に触れる機会を増やしてみてはいかがでしょうか。

習いごとと受験は両立できる?

習いごとを整理するのは、6年生の夏休み前が一つの目安だと思います。

しかし、とくに集団競技の場合は「自分がやめたらチームが負けてしまう」「キャプテンとしての責任がある」といった悩みがあるのも事実です。バレエやピアノの場合は、次の発表会までは続けるという選択をされる家庭も多いです。

現在の学力と目標校との差をしっかりと見つめ直したうえで、塾に相談して「この時期までに整理する」と決めていきましょう。決定の際には、保護者が一方的に決めるのではなく、本人の意思を尊重していきたいものです。

また、絶対に習いごとをやめないと志望校に合格しないかというと、例外もあります。習いごとは、人生を豊かにする趣味になる可能性が高いので「やりくりしながら受験までがんばれるかも」と思ったら、続ける可能性を探るのもよいでしょう。

習いごとをやめた家庭の失敗エピソード

サッカーをやめたら成績が上がると思っていました。

ところが、サッカーをやっていた時間に勉強をするかと思ったら大間違い。その時間は、ゲームをしたり漫画を読んでいたりと、勉強時間はまったく増えませんでした。また、サッカーはストレス解消にもなっていたようで、母親に当たり散らすことも増えました。

スポーツには頭がよくなる要素がたっぷり詰まっています。ここ一番の集中力、忍耐力、判断力、チーム競技であればコミュニケーション力、スポーツマンシップにのっとった相手への礼儀、体調の管理やメンタルコントロール……。さらに、体を動かすことによるストレス解消ができるというメリットもあります。

また、幼いころから屋外で体を動かしていると、脳の基礎となる感覚を鍛えるだけではなく、さまざまな能力を育むこともできます。進学実績がよい学校は、部活もさかんで体育祭にも熱心です。

エジソンにまつわるエピソードも一つご紹介しておきます。

エジソンのもとに、ある父親がやってきて、こうたずねました。

父親「どうしたら、あなたのようなすばらしい発明家になれますか。どうしても子どもがあなたのようになりたいというので、毎日どのように努力したらいいか教えてください。集中力がまだ足りないような気がするので、今のままではとても無理だと思うのですが」

エジソン 「家じゅうの時計をすべて外しなさい。日常に縛られてはダメだ。時間の概念を忘れて、好きなものにただ集中することだ」

スポーツやピアノなどの習いごとを夢中でやったことのある子どもが、中学受験の世界でも追い込みに強いことは、これまでに何度も実感しています。

「好きなことを、徹底的にやった経験」は、大きな財産となりますので、残り期間とていねいに向きあって、習いごとと勉強のバランスを決めていきましょう。

関連書籍

2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100

2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100(かんき出版)
2万人を超える受験生親子を合格へ導いてきたプロ講師が、 中学受験で悩み、迷っている人の手助けとなる100のヒントを紹介します。

□塾はどう選べばいい? 大手だったら安心?
□勉強の習慣をつけるコツって?
□志望校はどうやって決める? 変えるのはNG?
□学校を見学するときのポイントは?
□模試の結果は、何に注目すればいい?
□受験直前期、子どもとどう接するべき?

などなど、受験をするか迷っている人にも、塾に通っている人にも役立つ!
著者の教え子とその保護者のエピソードも満載です。