追跡調査から見えた、子どもの不登校が「保護者の抑うつ」に及ぼした影響

原田直樹
2024.03.08 11:44 2024.03.08 11:44

落ち込む男子高生

不登校の児童数は年々増加し続けています。文部科学省の発表では、令和4年度の小中学校における不登校児童生徒数は過去最多の29万9000人に達しました。不登校はもはやだれにとっても他人事ではない問題です。

今回は、2月21日に開催された認定NPO法人3keys(スリーキーズ)主催の第25回 Child Issue Seminar「不登校追跡調査から見えたもの~その時に子どもたちは何を思ったのか」において、社会福祉士・研究者として不登校支援に携わる福岡県立大学の原田直樹さんのお話をご紹介します。

三世帯同居が子どもに与える影響

不登校

福岡県立大学内に設置された「不登校・ひきこもりサポートセンター」で追跡調査を実施しました。過去にセンターを利用した保護者と不登校の子どもたちで、調査時点で18歳以上になっている方を対象として行いました。

保護者調査が246名、子ども調査115名を抽出して調査対象としたのですが、保護者調査のアンケート配布総数246で宛先不明が14.2%。子ども調査は、115名に配布して宛先不明が16.5%。回収率も3割と非常に少ない結果となりました。

私も仕事柄いろんな調査を実施しますが、これだけ宛先不明で調査票が戻ってきたのは初めての経験でした。宛先の住所は昔のものではなく、早ければ1年前、長くても6年前の住所に送っても約16%が戻ってきたのです。これは、居住の不安定さを示しています。

そして、1人親世帯ということは経済的な困窮に繋がっています。国の調査では、1人親の世帯の9割が母子世帯です。

母子世帯の年間収入を見てみると、実は年収200万円以下が47.4%で、約半分です。子どもの数は平均1.5人と言われていますので、子ども1人か2人を抱えて、お母さんの収入で親子3人が食べていくのは相当きついと思います。

食費、光熱費、家賃、全て母親の収入から払わなければいけないことを考えると、やはり子どもに相当の我慢を強いてしまいます。こういった状況が、不登校の子どもがいる世帯が抱えている課題と言えそうです。

また、3世代同居は27.3%(19.7%+7.6%)ととても多い。時折、この3世代同居が家庭内ストレスの原因となることがあります。

不登校の相談に来るのはお母さんが非常に多いのですが、子どもが不登校になると、家庭の中でおじいちゃん、おばあちゃんから「何があったの、なぜあの子は学校に行けないの?」とお母さんが聞かれるわけです。お母さんは「そんなの私が知りたいよ」と思ってしまう。

おじいちゃん、おばあちゃんはお孫さんのことを心配して発した言葉なのかもしれませんが、中にはお母さんに対して、「うちの家系には学校に行かなかった子なんていなかったよ」とボソッと言う。これがどれだけ母親の心をえぐるか。お母さんは深く傷つくわけです。

不登校が保護者の抑うつに影響する

原田直樹

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保護者の抑うつについての調査を行ったところ、不登校が解消した時よりも、子どもが学校に行けなかった時の方が保護者の抑うつが非常に強い。

不登校だった過去から、解消した現在にかけて「抑うつあり」が「抑うつなし」へと改善したケースが多く、逆に「抑うつなし」が「抑うつあり」に変わった人は1人もいませんでした。

つまり、子どもの不登校が保護者の抑うつに影響を及ぼしたことが考えられます。親の抑うつ状態が子どもの不登校に影響しているとよく言われますが、不登校が抑うつに影響している可能性がでてきました。

我が子が不登校になると、保護者はとても大きなショック受けます。「なんでうちの子が…」と原因探しをします。しかし、得てして自分の周りで原因を見つけるのは難しく、結局原因を先生、友達、部活動に求めてしまうのです。これで学校と関係がこじれることもあります。

不登校児童の保護者の心理状態の移行

さらに、決定的な原因が見つからないと、無力感や焦り、自分の子育てが悪かったのかと思い始めます。そこから抑うつ・イライラといった心理状態に移行していくのです。

しかし、不登校の原因を保護者のメンタルヘルスの問題にされてしまうと、助かるものも助かりません。

保護者のメンタルヘルスが不登校に影響しているというよりは、不登校が保護者のメンタルヘルスに影響を及ぼしている可能性の方が大きいわけなのです。支援者はこういった心理状態の移行過程があるということを知っていただきたいです。

子ども側も同じです。特に学校に行こうか行くまいか、苦しんでいる子どもは、退行現象という赤ちゃんがえりのような状態を起こすことがあります。学校へたまたま行くことができて帰宅すると、荒れることがあるのです。

私が見たケースでは、高校生の女の子が久しぶりに学校に行って帰ってきた。弟と妹がいないのを確認して、お母さんに「抱っこして」と言うんです。お母さんは抱きしめてあげた。それはその子の精一杯のメッセージだったんだと思います。

しかし、その場面だけを見て「そんなふうに甘やかして過保護だから、この子は不登校になった!」なんて言われると保護者も子どもも逃げ場がありません。

一部分だけを切り取って評価する、ということは支援者はやめなければならない。こういった調査を見ても、不登校の問題においては保護者も支援対象であると非常に強く思うのです。

 

原田直樹

原田直樹

福岡県生まれ。福岡県立大学看護学部准教授。社会福祉士・精神保健福祉士として、障がい児者支援や不登校支援の現場を経て現職。同大学社会貢献・ボランティア支援センター長、不登校・ひきこもりサポートセンター教員スタッフを務める。専門は、学校保健福祉、不登校、子育て支援など。