松岡修造さんが考える「日本の子どもの弱点」とは? 最後までやり抜く力を育てる親の態度

松岡修造
2024.03.25 10:50 2024.04.16 11:50

松岡修造

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松岡修造さんは世界トップレベルのテニス選手でしたが、同時に、さまざまな競技を観戦し、応援することも大好きでした。「がんばれ!」と心から応援した言葉は、自分にも返ってくるから──。(取材・文:鈴木裕子、写真:金子睦)

※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年7月号から一部抜粋・編集したものです。

単純に「根性がついた」だけじゃない

正直なところ、プロテニス選手としての現役時代は、ケガや病気に悩まされたり、実力的にもなかなか世界の壁を破れなかったり、苦しい時期もありました。

ですが、スポーツによって得られたものは少なくありません。トレーニングによって体が鍛えられたことはもちろん、メンタルも強くなりました。

ただ精神面が強くなったといっても、単純に「根性がついた」というのとは、少し違うんです。そのあたりをご説明するためにも、僕が初めてテニスラケットを握った頃のお話から始めましょう。

ちょっとしたことで人生は劇的に変わる

水泳をする子どもたち※写真はイメージです

僕はもともと水泳を習っていたのですが、姉がテニスをしているのを見て興味がわき、テニススクールに通うようになりました。テニスをするのは本当に楽しくて、すぐのめり込みましたが、さほど上手でもなかったので、まさか自分がプロになるとは思ってもみませんでした。

そもそも当時、日本の男子テニス界には、錦織圭選手のように世界で活躍する選手がおらず、そういう世界を想像できなかったということもあります。

テニスで生きていこうと思うようになったのは、18歳のとき。アメリカにテニス留学して、現地の大学に進もうとしていた矢先、ある大会で思いがけず、いい結果が出たのです。

そのときに、「とりあえず2年間、プロとしてやってみないか」とコーチに言われ、プロ転向を決意しました。もしも、その大会で早々に負けてしまっていたら、プロにならなかったかもしれないと考えると、行動を起こすことで運が向いてくるということはあるのでしょう。

とはいえ、その時点でのテニスの実力は、とうてい世界に及びませんでしたが、だからこそ挑戦したいと思いました。不安よりも、チャレンジしたい気持ちのほうが勝ったのです。

日本人の弱点を克服しよう

地球儀を眺める女の子※写真はイメージです

プロは1年のうち10カ月ぐらい海外を転戦します。飛行機のチケットやホテルの予約をとるのはもちろん、現地での練習相手を探すのも自分でやらなければなりません。そこで乗り越えなければならなかったのは、コミュニケーションの壁でした。

僕も含めて、日本人は自分の意見を主張したり、未知のことにチャレンジするのが不得意な人が多いようです。国民性や教育によるのかもしれませんが、言われたことを忠実にやるのは得意なので、「間違ってはいけない」「失敗したら怒られる」という気持ちが強く働きがちです。

また、日本では遠慮したり周囲に気をつかったり、控えめであることが美徳とされているところがあります。それも良さではあるのですが、世界で活躍するために必要な、自分の頭で考え、やりたいことに対して自ら道を作っていく力は育ちにくい。

世界に出てテニスをやっていくには、そうしたメンタリティを変えなければ道はないと、当時のメンタルトレーナーから、はっきりと言われました。でも、性格はそう簡単には変えられませんし、考え方を変えればいいと言われても、難しい。

コミュニケーションは能力アップのカギ!

人のいない体育館※写真はイメージです

そこから先のメンタル強化は、選手それぞれに工夫が必要で、どうしていくかは本人次第です。試行錯誤する中で、「具体的に行動するとメンタルも変わっていく」ということを、僕は海外転戦中に実感しました。

現地で練習相手を探すとき、できれば自分より少しでも上手な選手とやりたいのですが、最初は声をかけても100%断られていました。熱意を伝えようと、つたない英語で必死にお願いしても、相手にしてもらえません。

そこで僕は、相手の練習や試合をよく見ていて、たとえば「あなたのフォアハンドはすばらしく、僕は憧れている。少しでいいから、僕に時間をもらえませんか?」と、相手の国の言葉で話しかけるようにしました。

すると、だんだん「OK!」と言ってもらえるようになりました。それからは、少しずつ海外の選手とコミュニケーションがとれるようになり、テニスがますます好きになって実力がつき、試合にも勝てるようになったのです。

夢に向かって自分で考え、最後までやり抜こう

スポーツのすばらしさを子どもに語ろう!の画像1※写真はイメージです

「スポーツによってメンタルが鍛えられる」と聞くと、「ハードな練習によって根性がつく」ということだと思われがちですが、僕の考えは少し違います。

「自分の目標や夢を実現するには何が必要で、どうすればいいのか」を自分の頭で考え、行動に移していくこと。やり抜いたときに得られる達成感と自信。それこそが、メンタルを強くしてくれるのです。

もちろんスポーツでなくても構いません。勉強でも習い事でも、自分が決めたところまで「やり抜く」ことができれば、強い心が育まれます。強い体を育むという点や、「この技術を身につける」などと目標を立てやすいという点では、スポーツに少しアドバンテージがあるかもしれません。

そう言われても、「うちの子は、体を動かすのは得意じゃなくて」という親御さんもいらっしゃるでしょう。そんな子には、できるだけたくさんの種類のスポーツを経験させて、向いているものを見つけてあげたり、指導法を変えてみたりするのがいいと思います。

ただ、スポーツをすることがすべてではありません。スポーツは、「応援する」のも楽しみの1つ。

僕はプロテニス選手でしたが、その頃から人の応援をするのが大好きでした。特に大きな大会では、選手たちはそれぞれ、人生をかけて戦います。そんな必死な姿を観たら、自然と一所懸命に応援したくなるんです。

本気で応援した人は、自分もがんばれる!

野球をする子※写真はイメージです

応援の醍醐味は、選手と一体化できることです。一所懸命に応援すると、選手が金メダルをとったら自分のことのようにうれしい。その感動をきっかけに、スポーツに興味がわく可能性もありますし、自分も何かに挑戦してみようという気になるかもしれません。

大舞台のために、いかに努力をして、葛藤してきたか。そんな選手たちが本気で戦う姿を目にすると、「自分もがんばろう!」という気持ちになるものです。

幼い子どもにだって、きっと伝わると思います。そう――。選手を「がんばれ!」と必死に応援した言葉や心は、自分に返ってくるのです!

そうすると、親が「何かスポーツをしたら?」とか「勉強しなさい!」などと言わなくても、子どもの体は自然と動いて、がんばれる子になる。

子どもは元気で笑顔が一番。スポーツであれば、お母さんが笑顔で一緒に遊んであげることで、自然とそうなります。そして、お母さんが笑顔でいられるためには、お父さんの協力も必要。お父さんも、がんばれ!
 

松岡修造

松岡修造

慶應義塾高等学校2年生のとき、テニスの名門・柳川高等学校に編入。その後、単身渡米、1986年プロに転向。'95年のウィンブルドン選手権で日本人男子としては62年ぶりのベスト8進出を果たす。現在は「修造チャレンジ」などを通じてジュニア育成に尽力しながら、メディアでも幅広く活躍している。

Instagram:@shuzo_dekiru