登園をしぶる子に「お友だちも先生も待っているよ」の言葉が逆効果だった理由

山下エミリ


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朝の忙しい時間にこそ起こる、子どもの登園しぶり。たくさんの言葉を尽くして説得しようとするも、子どもは断固拒否で泣くばかり。心配になって園での様子を聞いてみても、特にトラブルもなく、登園してしまえば楽しく過ごしているよう。それでも毎朝のように登園をしぶる子どもの本音とは?

育児・教育に悩むの多くの親をカウンセリングしてきた公認心理師の山下エミリさんは、心理学とワークを通して欲求を読み解き、その心に寄り添った子育てを説いています。

本記事では、ひどい登園しぶりで仕事まで辞めた親のケースを紹介しつつ、子どもが安心できる親の関わり方を伝える一節を紹介します。

※本稿は山下エミリ著『お母さんには言えない 子どもの「本当は欲しい」がわかる本 』(青春出版社)より一部抜粋・編集したものです

お母さんから離れられない子の心理

 

幼稚園に行きしぶるお子さんに悩んでいた、まきこさんの例です。

お子さんが保育園に行けなくなり、まきこさんも仕事を辞めざるを得なくなり、このままでは小学校に行けなくなるのではないか……そんな不安で私が主宰する講座を受講されました。

みんながワクワクしている春休みのたびに、まきこさんは心がザワザワしていたといいます。というのも、お休み中は行きしぶりに悩まされなくて済んだからです。でも、休み明けを思うと憂鬱で仕方なかったそうです。

また「行きたくない。お休みしたい。えーん」と毎朝泣かれる日常が始まる。「お友だちも先生も待ってるよ」「行きたくない。えーん」という娘とのやりとり……。

「ママが大好きな証拠だよ。そのうち落ち着くから」

よく、いろんな人にそう言われていたので、学年が上がる新年度は、特に期待が裏切られて、「いつになったら行けるようになるんだろう……」と、娘の前でいつも暗い顔で過ごしていたそうです。

ある日、まきこさんは講座を学ぶまでは全く気づいていなかったあることに気づきました。お子さんの気持ちに寄り添っているつもりでいたけれど、実は自分の気持ちにしか目が向いていなかったということです。

そのことに気づいた時、「だから、私から離れられなかったんだ」と目から鱗が落ちたそうです。

お母さんの心が未発達で自分自身の気持ちにしか目が向かない時は、お子さんの気持ちには寄り添えません。だから、お子さんが不安な気持ちでいることに気づいてあげられなかったのです。

まきこさんはお子さんを励ますつもりで、一生懸命に、「もうすぐ年長さんだから、歯磨きできるようになろうね」「もうすぐ年長さんだから、一人で準備しようね」というように声がけをしていたそうです。

これって至って普通の声がけの言葉ですよね。でも、まきこさんの無意識の不安が言葉に乗っかり、お子さんには「あなたができていないと私が困るのよ」というメッセージになっていたのです。

つまり、お子さんに思いっきりプレッシャーをかけることになり、行きしぶりを助長していたのですね。

まきこさんの「心」が成長した今は、お子さんの気持ちに寄り添えるようになったので、「同じ言葉をかけても、娘は元気に学校に行っています♫」ということです。

情緒的な絆があるからこそ、母親から離れていくことができる

お子さんが行きしぶりになった時、まきこさんはいろんな本を読んで、愛着形成ができていなかったのではないか、と思ったそうです。

お子さんは、お母さんとの情緒的な絆がしっかりあるからこそ、信頼感も芽生え、安全基地であるお母さんから離れていくことができます。

安全基地があると、そこから離れられないのではないか、と思われるかもしれませんが、安全基地があるからこそ、そこを基地として探索行動に出て行けることが心理学でわかっています。

生理的欲求を満たされて、愛着形成ができたら、お子さんの未来にどんなにいいことが待っているのでしょう。

実はその後の人生においても、不安や苦しみに耐える能力を身につけることもできるのです。

お子さんにとって、愛情あふれる母性的な関わりが大事だという話をしました。そのために小さい時の母子間のやりとりを飛ばさないで丁寧にしてほしいのです。お母さんの母性を確立するためにも、これほど重要なものはないからです。

もし、すでにお子さんが大きくなっていたとしても大丈夫です。

生理的な欲求を満たしてあげられていないかもしれない、愛着形成ができていないかもしれない、と思われたときは、赤ちゃんの時に必要な母子の相互の関わりを今から始めてください。

おっぱいはあげられないかもしれませんが、なでてあげたり、お子さんがどんな欲求があるのかに気づいて満たしてあげるなど、しっかりと心と身体のスキンシップをとってくださいね。

子どものコミュニケーション能力を育てる「ターン・テイキング」



では、お子さんがお母さんとの愛着形成ができて安全基地になるために、赤ちゃんの時期にどんなことをしてあげたらいいのか、お伝えしますね。すでに大きくなったお子さんとの関係においても参考になるはずです。

おっぱいをあげている時に、途中で赤ちゃんが吸うことをやめてしまったことはありませんか? そんな時はほっぺをツンツンと指で突いたり声をかけたりすると、赤ちゃんはまたおっぱいを吸い出すようになりますね。お母さんならこんな経験、きっとありますよね?

まるで二人でゲームをしているかのようなやりとりです。こんなやりとりからも赤ちゃんはコミュニケーションを学んでいきます。赤ちゃんは、生まれながらにして泣いたり見つめたりというサインを送るわけですが、お母さんがそれに反応しないことには、コミュニケーションは成り立ちません。

赤ちゃんが送るサインにお母さんが注意を払い、サインが送られてきたら、しっかりキャッチして、お母さんがタイミングよくサインを送り返す。こうしてお互いに順番にキャッチボールをするようなコミュニケーションを「ターン・テイキング」といい、人とのコミュニケーションの基本になると考えられています。

実は、授乳時のお母さんと赤ちゃんの母子間のやりとりに、すでに「ターン・テイキング」は存在します。

赤ちゃんがおっぱいを飲む時をちょっと考えてみてください。

赤ちゃんはおっぱいをちゅうちゅう吸っていたかと思うと、ちょっと休憩みたいな感じで「吸啜(きゅうてつ)―休止」という一定のリズムをとっていますよね。そんな時、お母さん側もこのリズムに反応しているはずです。

そして、赤ちゃんが上手におっぱいを飲めるように、先ほどのように頬をツンツンしたりするわけです。

赤ちゃんにとって、おっぱいや抱っこ、話しかけるという行為は、心理的な影響はもちろん、成長を促す成長ホルモンや免疫力を高める物質、さらに心の安定のためのオキシトシンなどの神経伝達物質の分泌を活発にする生理的な影響があります。

つまり、おっぱいはお腹がすいた時だけのものではありません。赤ちゃんにとって、お母さんとのふれあいは大事な栄養になり、母親に対する愛着を形成する上でも重要になるのです。

それだけではありません。お母さんが赤ちゃんのサインに敏感に応答してあげることで、赤ちゃんは「自分が望むことは、なんでも手に入る」という万能感を持ちます。

つまり、お腹がすいたと思えば母乳が与えられ、濡れて気持ち悪いと思えば新しいオムツに交換されて快適になるわけですから、「自分の希望はすべて叶うもの!」と思えるのです。

生まれたばかりの赤ちゃんにとって、お母さんは自分の一部なのです。自分の望みはなんでも叶うのだという万能感を持っていられたら、鬼に金棒ですね。

この後のステップの自己実現の欲求にもつながっていきます。お母さんは赤ちゃんのサインに気づいてあげるだけでいいのです。

そのために、哺乳瓶のミルクではなくて、肌と肌がふれあうおっぱいをできるだけあげてほしいなと思います。母乳の出が少ない人は、食事量としてのおっぱいを考えると、どうせ足りないからと、早々にミルクに切り替えてしまう人も多いのではないかと思います。

でも、おっぱいは「心の栄養としての価値がある」と思えば、自信が湧いてきませんか?量的に足りない部分はミルクで補充と考えられるといいかと思います。

私は、子どもたちが赤ちゃんの時に結構頑張って母乳マッサージに通ったり、お乳の出がいい食事などをしていたのですが、量的には十分でなく、ミルクをあげることを切なく思っていました。

当時、おっぱいには心の栄養がたくさん含まれていることを知っていたら、どんなに励まされたことかと思います。