受験指導のプロが「5歳まで」を重視する理由 学力と語彙力の密接な関係とは?
近年、学習面において、子どもや親の「意識」に変化が見られると感じる人は少なくありません。特に、中学受験などにおいて、「自分はダメだ」「この子に勉強は向いていない」と、自信を喪失し、難関校をあきらめる姿勢が増えているようです。
しかし、子どもの学力は遺伝や素質だけで決まるものではなく、適切な学習方法と「学びたい」という意欲によって大きく変わります。本記事では、子どもが自発的に学ぶ力を育むための具体的な方法と、その重要性について解説します。
※本稿は、和田秀樹・著『5歳の壁 語彙力で手に入れる一生ものの思考力』(小学館)から一部抜粋・編集したものです。
「自信のない受験生と親」が増えている
私は精神科医として仕事をする傍ら、受験や勉強法に関する本を300冊以上出版してきました。また、40年にわたって受験生の通信指導を行うほか、東大や医学部合格のための専門塾を経営してきました。その過程で多くの子どもや親御さんと向き合い、成果をあげてきたという自負もありますが、最近になって親や子の「意識のあり方」が大きく変化していることを実感しています。
その変化というのは、親も子も、自信をなくしてしまっている人が増えたということです。
また、最初から難関校は無理とあきらめ、無難な道を選ぶ親子も増えています。
しかし、長年子どもの学力向上に取り組み、受験指導を続けてきた私が多くのかたにお伝えしたいのは、子どもの学力はもともとの素質や遺伝よりも、勉強の方法や取り組み方に左右されやすいということです。そして何より大事なのは、自分から学ぶ意欲を持つ子どもが、最終的にいい結果を出しているという事実です。
小さな成功体験が子どもの学力を左右する
子どもがこうした意欲を身につけるためには、小学校入学時までの大人の接し方がとても重要です。5歳前後までに親や周りの大人がどう関わるかによって、その子の人生は大きく変わっていきます。
この時期に、子どもが小さな成功体験「できた!」を積み重ね、それを親や周囲の大人に褒められ、成果を認められることで、子どもの中の「自分はできる」という自信や自尊心を養うことができます。そうすると、子どもは自発的に学ぶ意欲と習慣を身につけ、自ら伸びていくのです。当然、小学校以降の学校生活でもこうした意欲や習慣は大いに役立ちます。
これは私自身の精神科医としての経験からも、また精神科医アルフレッド・アドラーや精神分析学者ハインツ・コフートなどの理論からも明らかだと考えています。
実際に東大合格者の多くは、小さな頃から「自分は勉強ができる」という自信を積み重ねています。幼稚園や保育園、さらに小学校、中学校、高校と進学するたびに自信を積み上げ、大学受験を迎えているケースが多く見られるのです。
子どもの「自信」を伸ばすためになぜ語彙力が必須?
幼児期の子どもが小さな成功体験を積み重ねるためにもっとも適しているのが、基本的な読み書きの能力を身につけることです。
日本語を読む力や書く力を高めることは、子どもの考える力を養うことにつながり、小学校に入ってからの学力を確実に伸ばします。これは一生その子を支えてくれる土台になります。
また、言葉は知っていれば知っているほど、読解力を高める上で有利になります。子ども自身も周りの人の話を理解できるようになり、自分の思っていることを伝えられるようになると、日常的に「わかる!」「できる!」と感じるようになります。こうした「わかる体験」や「できる体験」、さらに「人から褒められる体験」を頻繁に重ねることで、自尊心が大きく育っていくのです。
反対に、語彙の知識が少なく、読解力がなければ、先生や友だちが話している内容が理解できず、集団での活動では取り残されがちです。自分の思いをうまく伝えることができなくて不安や焦りを感じてしまう子や、コミュニケーションに自信をなくしてしまう子もいます。
ですから、幼児期のお子さんには、まず身近な言葉にたくさん触れさせることから始めてほしいと強く思っています。
5歳の壁: 語彙力で手に入れる、一生ものの思考力(和田秀樹、小学館刊)
子どもの人生を左右する「壁」は5歳にあり。壁突破のキーワードは「語彙力」。
「やばい」「すごい」で済ませる会話が普及し、言葉が不要な環境に子どもたちは慣れています。しかし、考える力を身につけるためには語彙力は不可欠です。就学前までに、大人が子どもとしっかり向き合い、絵本を読んだり、読み書きを教えたり、知性あふれる会話をしたりすることで、子どもの語彙力は飛躍的に伸びます。語彙が増えれば、見える世界の解像度が上がります。
本書では、受験学習法・幼児教育のプロである和田秀樹先生が、5歳までに語彙力を飛躍的に伸ばす具体的なおうちレッスンを紹介します。