「勉強ができる・できない」はどこで決まる? 人気塾長が明かす意外な分岐点
勉強が「できる子」と「苦手な子」。この差は本当に能力の違いなのでしょうか?『天才!!ヒマつぶしドリル』シリーズ(Gakken)の著者で、りんご塾塾長の田邉亨先生は、実はもっと単純な理由があると語ります。20年以上の指導経験から見えてきた、意外な事実とは?
勉強ができる子、苦手な子の違い
──勉強ができる子、苦手な子の最大の違いはどこにあるのでしょうか?
実はこの両者の差には、明確な理由があります。
学校にはテストがありますよね。クラスに40人いれば、真ん中より下にいる約20人はどうしても劣等感を植え付けられてしまうんです。
クラスは1年間一緒なので、その約20人は大体固定化してしまう。その子たちは「勉強が苦手だ」と思い込んでしまいます。
一生懸命中学受験して、ギリギリで偏差値の高い学校に入った子は、まわりが皆できる子ばかりなので、入学した瞬間から劣等感を持ってしまいます。
逆に、普通の公立中学であまり成績の良くなかった子が、偏差値的に無理のない高校に入学した結果、「あれ、私こんなに勉強できたっけ?」と思うこともありますね。
最初のテストで頑張っていい点数を取った子は、そのあとの3年間ずっと成績がいいんです。偏差値の高くない学校であっても、そこでトップの成績であれば、自信を持てますし、指定校推薦の道も開けます。
そういう子は、仮に成績が落ちたとしても、「自分は1位のはずなのに」という思いがあるから努力ができるんです。
なので受験では、その子が力を発揮できる、つまり平均より上に行ける学校を目指したほうが本当はいいと思います。
子どもの劣等感は取り除ける?
――いちど劣等感が植え付けられてしまったら、もうリカバリーは難しいんでしょうか?
いえ、そんなことはないですよ。小規模な個人塾なんかは、そういう子たちの自信を蘇らせるのも仕事です。
勉強で失った自信を取り戻すのに一番簡単なのは、まずは理科や社会などの暗記モノを一点集中でやることです。「この子は数学が苦手なんで、よろしくお願いします」って塾に連れてこられた子には、「わかりました」と言いつつ、まずは理科ばかりやらせます。(笑)
その結果、次のテストでは、理科の点数だけ跳ね上がります。すると子どもは塾の先生を信用してくれるんです。そこで初めて、「じゃあ、苦手な数学をやろうか」という流れになるんですね。
信頼関係のない相手から、「小学校のときの基礎ができていません」と言われたら、子どもだって「うるさいわ!」と反発したくなります。「この人が言うんだったら、信じてみよう」と思ってもらうことがスタートラインなんです。
いざ基礎からやり直そう、となったときも、その子のプライドを傷つけないように、問題の学年は隠すようにします。
例えば九九の段階でつまずている子だったら、問題をパズルや迷路にするとか。
まちがいを指摘するのにも、パズルだとすんなり受け入れてもらえるんですよね。
──子どものプライドを守ることが大事なんですね。
人間はみんなプライドの塊ですので! プライドが生きているようなものですよ。(笑)
かろうじて保っているプライドは、人間の尊厳なので絶対に壊しちゃだめなんです。
しかし、親は子どものプライドを無意識に傷つけがちです。つまずいた子に対して、つい「立ち上がってこい!」みたいな声かけをしてしまう。でも、子どもはそんなに強くはないので、自力で立ち上がってはこれないんです。基本的には、褒める姿勢で接したほうが間違いないと思いますね。
劣等感のある子はとにかく褒める
──子どもには、自分と周りを比較するような視点を持たせないほうがいいのでしょうか?
学校では相対評価が行われがちなので、塾では絶対評価で生徒の自信を育むようにしています。例えば、なにかしらの級を取得することで、個人の成長を実感させることが効果的です。
絶対的な評価を継続的に与えることで、子どもの心を強くすることができます。そうすると、たとえ相対的な順位で負けていたとしても、がんばろうという意欲が湧いてくるのです。
──勉強に自信のない子や、失敗を恐れる子への接し方のポイントがあれば教えてください。
勉強に対して劣等感のある子には、軽いノリで接した方がいいです。軽快で音が少ないモーツァルトのような感じですね。「この学年でこんなことができないと、将来困るぞ」と、ベートーヴェンのような重々しさを出したらダメです。
深刻さを取り除いたうえで、小さい成功体験をつませるのがいいですね。スモールステップを用意して、達成したらとにかく褒める。
失敗を恐れる子は、これまで叱られることが多かった子どもたちなので、むしろ褒めることに徹するのがおすすめです。
(取材・文:nobico編集部 中野セコリ)
『5教科の力がつく 天才!!ヒマつぶしドリル ちょっとやさしめ』(田邉亨著,伊豆見香苗イラスト/Gakken)
『5教科の力がつく 天才!!ヒマつぶしドリル ふつう』(田邉亨著,伊豆見香苗イラスト/Gakken)
楽しく遊んでいたら、いつの間にか算・国・理・社・英の力がついてしまうドリル。その確かな指導力で、公立の小学生に算数オリンピックの金メダルを受賞させるりんご塾。そこで子どもたちが学んでいるプリントを市販化。楽しくヒマつぶしして頭良くなろう!