歯磨きも勉強もしない…不登校の子がやる気が出ない“本当の理由”
不登校の子どもが歯磨きをせずにお風呂も入らない、全く勉強しない…そんな心配を抱えている親御さんは多いようです。
やる気が出ない子どもに親ができることはなんでしょうか? 野々はなこ著『誰にも頼れない 不登校の子の親のための本』から紹介します。
※本稿は、野々はなこ著『誰にも頼れない 不登校の子の親のための本』(あさ出版)から一部抜粋・編集したものです。
なぜ歯磨き、お風呂、着替えをしなくなるのか?
不登校になると何をするのも億劫になります。
「子どもが歯磨きをせずに、お風呂も入りません。大丈夫でしょうか?」
こんな相談を保護者からよくお聞きします。大人には不可解な行動に見え、このままではだらけて自堕落な人間になってしまうのではないかという気持ちになってしまいます。
私は次のように答えています。
「不登校の子どもは皆さん、そうなんですよ。それが普通です」
不登校の程度には軽いものから重たいものまでさまざまですが、不登校になってからも歯をちゃんと磨いてお風呂にも入るという子は、軽症なケースです。不登校を失敗と感じて、生きる気力がなくなるほど落ち込んだ子どもは身だしなみにまで気が回りません。逆にいうと、身だしなみに気を使う気力も残っていないほど、打ちひしがれているという証拠なのです。
ここでもし親が、
「歯を磨きなさい。虫歯になるよ」
「何日お風呂に入っていないの? 不潔だよ」
という言葉をかけたら、子どもに大きなストレスを与えます。
表面的なことだけに目を向けて注意していては不登校の本質は理解できません。親には子どもの「つらい気持ちをわかってほしい」という思いを受け止めてもらいたいです。
心配しなくても、家で休息していれば徐々に気力が回復して、歯を磨いたり、お風呂に入り始めるタイミングが必ず訪れます。言い換えれば、「不登校らしい道のり」を辿っているだけですから、その意味では安心してもいいぐらいです。
私の子ども2人も、不登校のときには入浴せず、歯も磨きませんでした。
元気になったら、身だしなみをちゃんとするのはわかっていましたので、特に気にかけませんでした。
皆さんのなかには健康面に悪い影響が出ると思われる人がいらっしゃるかもしれませんが、お風呂に入らなくても危機的な病気にかかることはないでしょうし、虫歯になっても歯医者に行けば済むことです。それよりも大事なのは、子どもの心に耳を傾けることです。私が主宰している「不登校回復講座」に通う受講生の保護者にも、「気にしなくてもいい」とアドバイスしています。むしろ、中学生、高校生にもなって親から「歯を磨きなさい」と言われることのほうが子どもにとってはストレスです。
不登校の子どもが勉強しないのはなぜ?
身だしなみの次に相談される質問です。
「うちの子ども、全く勉強しません。どうしたらいいでしょうか」
私の答えは、こうです。
「それはそうです。だって、お風呂に入らないくらいですから、勉強するはずもありません」
子どもは生きているだけで精一杯の状態です。生きる気力がなくなっているのに、勉強なんてするはずがありません。勉強に気が向くには順番があります。まずはグラグラになった精神状態を立て直して土台を作ることからスタートです。土台がしっかりできたら、やっと勉強へ意識が向きます。
皆さんは「マズローの欲求5段階説」について聞いたことがあるでしょうか。
欲求を満たすのには順番があることを説明する有名な理論です(図1‒1参照)。マズローの欲求5段階説は人の欲求を説明する心理学の理論ですが、不登校の子どもの行動を理解することにも役立ちます。
欲求は5段階のピラミッド型で説明することができます。
1段階:「生存の欲求」、生きるために必要な欲求です。睡眠、食欲、排泄などです。この基本的欲求が満たされないと次の欲求を満たすことはできません。
2段階:「安全の欲求」、身の危険を感じないようにしたいという欲求です。健康、心、身体、経済的な安定などです。
3段階:「社会的欲求」、仲間とつながりたい、社会から受け入れられたい欲求です。
4段階:「承認欲求」、他者から尊敬されたい、称賛されたいという欲求です。
5段階:「自己実現の欲求」、自分らしくありたい、理想とする生き方をしたいという欲求です。
マズローの理論では、欲求は1段階から順に上に進んでいきます。つまり、生存の欲求が満たされたら、2段階の安全の欲求に進みます。1段目の欲求が満たされない状態では2段階目に進むことはありません。また、ひとつの段を飛び越して次の段に進むこともありません。ひとつずつ順番に進んでいくのです。
さて、子どもはいま、何番目にいると思いますか。
不登校になって家にいることを考えれば、2段階目の「安全の欲求」を満たそうともがいている段階ではないでしょうか。健康面、精神面での安全が満たされていない状態、つまり、子どもにとっての世界は学校が安全な場所ではなくなっているということです。
マズローの理論でいえば、勉強したいという欲求は3段階以降の段階で生まれます。勉強をしてもらうには、その大前提である安心できる居場所(家庭環境)づくりが大切というわけです。
『誰にも頼れない 不登校の子の親のための本』(野々はなこ/あさ出版)
ある日突然、子どもが学校に行けなくなり、寝てばかりで、起きている時はスマホやゲームに夢中。何も話してくれず、考えていることが分からない。そんな状況に、不安で押しつぶされそうな気持ちになっていませんか?
本書は、思春期の不登校に悩む親のための頼れるガイドブックです。