「本人の意志を尊重」の落とし穴は?見逃されがちな“子どもを子ども扱い“することの大切さ
幼児期の子どもの「意志」を尊重するためには、どこまで子どもに選ばせ、判断を委ねると良いのでしょうか。シュタイナーこども園園長を務める赤川幸子さんに、シュタイナー教育が考える最良のサポートや声かけについて解説してもらいます。
※本稿は、赤川幸子 (著)『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです。
子どもを大人と同じように扱ってはいけない
最近の親御さんは、「子どもを一人の人間として尊重しよう」という気持ちが強いあまり、「子どもを子どもとして扱っていない」方が多い気がします。
子どもを大人と同じように扱っていると逆に、大人の意図は子どもにうまく伝わりません。
子どもを大人と同じように扱ってはいけないのです。
例えば、子どもを尊重するあまり、その選択をすべて尊重しようと考える親御さんが増えています。お子さんに、なんでも自由に選んでいいよ、とするわけです。
しかし、それには注意が必要です。
「どっちがいい?」とお子さんに判断を委ねるなら、どれを選んでもいいように、選択肢を限定しておかなければなりません。
そうせずに、本当は選んでほしくないものまで、一緒に選択のテーブルに乗せてしまうことがあります。親の意にそぐわないものを選んだときに、「でも、今回はこっちにしようか」と、訂正してしまう。
これでは子どもは、なんのために選んだのかがわからなくなってしまいます。否定されたという気持ちが残ってしまうかもしれません。
また、「これはどう思う?」という質問も、小さなお子さんには難しいものです。
幼児期は、深く考えて、正しいものを選ぶということはまだうまくできません。そのことを知らず、「個人の意志を尊重しよう」と思うために、ハードルの高い選択を迫っているのです。
幼児期のお子さんに選択させるのであれば、どれを選んでもいいようにあらかじめ親が用意をしておきましょう。
尊重しすぎて、毎日の生活が乱れる
「意志」について考えさせられる出来事は、日々起こります。
「園に行く気になるまで待っているんです」と言って、毎日のように遅刻してくるお子さんがいます。
お母さんとしては、お子さんの「園に行きたい」という「意志」を大切にしようとしているのがわかります。
しかし、シュタイナー教育では7歳までは「意志」を育てる時期と捉えています。そのため特に3歳頃までは、「園に行きたい!」という明確な「意志」を持っていないことがほとんどです。
「自分で起きて、学校に遅刻しないように行く」というのは、実はそれだけで難しいこと。親に毎日起こされているという中学生だって、多いはずです。高校生も怪しいもの。
そのように考えると、幼児期の子どもに対して「本人がやる気になるまで待つ」というのは、いい方法ではありません。
親がすべきことは、「意志」を育てているまっ最中の子どもを、子どもとして扱うことです。
生活リズムを整えて、朝すっきり起きられるようにし、毎日同じ時間に朝ご飯を食べさせて、その後、園に送り出す。それを習慣にすることです。そしてそれは、大人の役割なのです。
子どもはその習慣を、身体で覚えていきます。
頭で「この時間に起きて、ご飯を食べて、出かけよう」と考えて行動するのではなく、身体で毎日の行動をなぞっていくのです。それが後々、「そろそろ園に行く」という「意志」に育っていくでしょう。
子どもを「尊重」するあまりに、親子そろって生活リズムがグダグダになってしまう。そんなことがないように、まずは「子どもを子どもとして尊重する」ことが大切なのです
丁寧な説明や理由はいらない
幼児期の子どもに対して、とても丁寧に説明をする親御さんがいます。
「朝と違ってもう寒いから、ジャンパーを着ないと風邪ひいちゃうよ。風邪ひいたら、園に来られなくなってつまらないでしょ。だから、ちゃんとジャンパーを着て帰ろう」。
ここでお母さんが言いたいのは、「ジャンパーを着て」ということです。
ですから、それだけを伝えればいいのですが、なぜかたくさんの言葉を使ってお子さんに説明をしてしまいます。しかし、これだけたくさんの単語を使って話されると、子どもは結局、何を言われているのかわからなくなってしまうのです。これはよくあることです。
先の説明では、「〜風邪ひいちゃうよ」くらいで、たぶん子どもの集中力は途切れ、結局自分が何をすべきかわからないままであってもおかしくありません。
大人はちゃんと説明をして自分の意図を伝えようとしているのに、全然子どもに伝わらないのは、その説明が長すぎるからです。
説明や理由を、長々と伝える必要はありません。
例えば、してはいけないことは、
「もうそれは、やらないよ。こっちならいいよ」くらいシンプルなほうが子どもに伝わります。
例えば、テーブルに乗ってしまった子どもに対しては、「降りようね」で十分。
「落ちて怪我をしたら危ないから、テーブルから降りるよ」とか、「ご飯を食べるところだから、テーブルには乗っちゃいけないよ」などと言う必要はありません。
論理的に話すことが当たり前になっている親御さんは、「やっちゃいけない理由」を言って、子どもが納得したのを把握してから、「やることを伝える」という手順を踏みたがります。
でも、納得なんて子どもはきっとできないはずです。だって、そのテーブルに乗ったら、目線が高くなってとても楽しいことがわかっているからです。
そんなワクワクしている子どもに対して、してはいけない理由をあれこれ述べても、伝わりませんし、そうなるとなおさらやりたくなるのが子どもというものです。
親は必死に説得し、子どもはそれを聞かずに怒られる。お互いに余計なエネルギーを使うことになってしまいます。
そうならないためにも、平易な言葉で一言二言ぐらいで伝える。理由や説明をつけないで言うだけで、子どもは納得して動いてくれます。
説明がいらないというのは、大人とは異なる部分です。幼児期の子どもに、説明や理由はいりません。
それはこの時期が、子どもの頭に働きかけるのではなく、身体に働きかける時期だからです。
説明や理由というのは、相手の頭に働きかける方法です。大人ならそれでいいのですが、子どもには、身体や動きに繋がるような言葉のほうが効果的です。
子どもはとにかくこの時期、身体がメインです。頭はそっとしておいてあげましょう。
動くきっかけとなる言葉を選ぶ
子どもに伝わるのは、動くきっかけとなる言葉。
そのため、何かをしてはいけない理由を伝えるより、「これをしたらいいよ」と言うほうがずっと伝わります。
ですから「テーブルには乗らないよ」より「テーブルから降りようね」のほうが、次に何をすればいいかがわかります。さらにいえば、「こっちの台に乗っていいよ」とプラスの言い方をしたほうが伝わります。
「乗らない」「降りる」とテーブルに乗ることを禁止されるより、「(別の台に)乗っていい」と許可されるほうが、よっぽど嬉しいものですよね。また「乗らない」という制止より、「降りる」「乗る」という動作を伴った言い方のほうが、子どもは自分の動きにつなげることができるため受け入れやすいのです。
どんな言葉であれば、子どもが「スムーズに動き出せるか」を考えて言葉を選んでみるといいでしょう。
言いたいことがうまく伝わらないときには、親御さんの使っている言葉が、身体の動きにつながっていないのかもしれません。また、それをきっかけに行動することができない言葉になっているのかもしれません。
伝わらない理由は、子どもの性格や理解力にあるのではありません。子どもが頑固だからでもありません。
発せられる言葉に、原因があるのです。
赤川幸子 (著)『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』(かんき出版)
齊藤工さん、坂東龍汰さんらも受けた!! シュタイナー教育の本。
ー実際に、園に通っていた親御さんからの感想!ー
「必要なものは自然それだけ。シンプルで非認知能力を上げる子育てです」S.K さん
「どこでもできるので助かりました」H.Wさん
シュタイナー教育…オーストリア出身の思想家・哲学者ルドルフ・シュタイナーによって提唱された教育法です。
◎シュタイナー教育は、子ども 1 人ひとりの個性を尊重するとともに、潜在的な能力を引き出すことに重きを置いています。
◎シュタイナー教育は、クラス単位で平等的な教育を施す一般教育とは対照的な教育法。
人は約 20 年をかけて一人前になるという前提で、その 20 年を約 7 年ごとの段階に分け、それぞれの発達段階に適した教育をすることが最も重要と考えるもの。
子どもの学年や年齢、発達の段階なども加味し、最適な授業を行うのがシュタイナー教育の特徴です。
◎シュタイナー教育を受けた有名人
斎藤工さん(俳優)、坂東龍汰さん(俳優)、村上虹郎さん(俳優)、ミヒャエル・エンデ(作家)代表作『モモ』、サンドラ・ブロック(俳優)
◎「子どもの気持ちになってみよう」「子どものやりたいことを推測してみよう」「子どもの気持ちを尊重して、嫌だと言われたらやるべきことでもさせない」などと書かれている本は多いですが、これらは結果的にうまくいきません。
◎子どもの「意思」を尊重しすぎて何でも好きなことをやらせようとする行為は、子どもが自制心をはぐくむ機会を奪っていることになります。
◎この本では、子どもは大人とは異なる認識力の持ち主であることを改めて伝え、子どもがわかる「ことば」や「習慣」を具体的にお伝えしていきます。
◎園で実践していることばかりですので、その効果は実証済み。
親の意図が子どもにスムーズに伝わることで、親は子育ての大変さが大幅に軽減され、子どもは主体性が現れるようになり、親子の信頼関係に好循環が生まれてきます。