「つい怒ってしまう」「友達を叩く」イヤイヤ期の悩み、シュタイナー式の乗り切り方は?
成長の一過程だとわかっていても、イヤイヤ期の子どもにイライラしてしまうことも。そんなとき、近年注目されているシュタイナー教育ではどのように対応しているのでしょうか。シュタイナーこども園園長を務める赤川幸子さんに、子育ての疑問や困りごとについて聞きました。
※本稿は、赤川幸子 (著)『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです。
放っておくのではなく気が済むまで待ってあげる
Q. 「どうやってイヤイヤ期を乗り越えればいいのか……」と悩んでいます。
A. イヤイヤ期は、お子さんの「イヤ」をいっぱい出させてあげればいいと思います。そこを抑え込む必要は全くありません
園の様子を覗いてみましょう。
外から帰ってきて泥んこの洋服を着たままの子がいます。ちょうどイヤイヤ期。「着替えるよ」と先生が声をかけても、「やだ、絶対着替えない。絶対この服を着てるー」と、泥んこの服を着続けています。みんなが着替え始めても、その子は泥んこの服のまま。声をかけても「着替えたくない。いやー!」と言うのなら、そのままその子を見守ります。時折、「あれ、もう着替えたかなあ」と、意識と言葉を向けるだけです。無視したり、無理強いしたりはしません。
その間に他の子は、お着替えとトイレが終わり、食事のテーブルの周りに集まってきます。「ご飯をそろそろ食べようと思うんだけど、あなたどうする?」と声をかけます。それでも「まだ着替えない」と言ったら、「そっか。みんな食べるから見てて」と伝えて、部屋の入口あたりに椅子を置いて、そこに座って他の子が食べるのを見ていてもらいます。食事が始まった頃に「お腹空いたよね。どうする?」と声をかけると、「お腹空いた。食べたい」と言います。
そこで「じゃあ着替えなきゃね」と先生が言うと、「うん、着替える」と言って、自分から行動を始めます。自分で着替えて、トイレも済ませ、さっぱりとして椅子に座ることができるのです。
「言うこと聞かないから放っておく」というやり方ではなく、「気が済むまで待ってあげる」という方法です。
子ども自身の中で、ワーッと噴出した気持ちが静まるのを、意識と言葉を向けながら待ってあげるのです。子ども自身、着替えなきゃいけないということは、わかっています。でも着替えたくないという気持ちが勝ってしまう。ただ、だんだんとその気持ちも落ち着いてきます。声をかける前に自分から「もう大丈夫」と言いに来る子もいます。
大人が自分の意図を押し付けるのではなく、子どもの意図を汲んで待ってあげる。その余裕が必要なのです。
子どもには「怒っている」ことだけしか伝わらない
Q. 言うことを聞かない子どもに向かってついつい怒りすぎてしまいます。
A. 小さくても、状況はわかっています。怒っていると、「怒っているということ」しか、伝わりません。まず親がひと呼吸
暴れている子も、泣いている子も、はしゃぎすぎている子も、「こんな泥んこでは、ご飯は食べられない」ということくらい、言われなくてもわかっています。
でも、大人は追い打ちをかけるように、「そんなに泥んこの服では、ご飯を食べられないでしょ!」と叱ってしまいます。
これはよくありません。なぜなら怒っていると、子どもには「怒ってること」しか伝わらないからです。
「これをしちゃダメ! こっちをやって」と何度も言っているのに、子どもに全く伝わっていないのは、お子さんの頭の中に「怒っている」ことだけしか入っていないからです。
一方で、親のほうは、具体的に叱ったり、指示をしたりしていますから、「こんなにちゃんと伝えているのに、なんでわかってくれないんだろう」と、さらに怒りが湧いてくるわけです。
その時の子どもの頭の中を覗いてみると、「どうしたら怒るのをやめてくれるかな……」「いつになったら終わるかな?」などのはずです。
怒られ続けているうちに、だんだんぼーっとしてきてうわの空になってしまう子もいます。心の中で「これ以上怒られませんように」と祈っている子もいるでしょう。
怒っているときには、まずはひと呼吸置くことです。
トイレにでも行って、間を開けます。それでもやはり、「言わなければならない」という結論になったのなら、よりすぐりの一言を伝えればいいと思います。
一時的には、親に怒られて子どもが行動するということはあると思います。
しかし、長い目でみると「怒られたから、行動する」というパターンを形成することは、いいことではありません。同様に「ほめられたから、行動する」も、動機としてはよいものではありません。
幼児期の子どもは、自分の意志を育んでいる最中です。
周囲の「ほめる」「怒る」といった働きかけによって行動に移すという習慣をつくってしまっては、子ども自身の意志は育ちません。
園では、子ども自身がお茶碗を片付けたり、おもちゃを片付けたりしています。おもちゃの片付けが始まる時間になると、まず先生が1つおもちゃを片付け始めます。
それまではどんなに散らかっていても、先生が片付けることはありません。
散らかしっぱなしにしておきます。お片付けの時間になって、先生が誰も使っていない積み木かなどを片付け始めると、子どもたちは「お片付けの時間だ」とわかります。
先生の一挙手一投足を、子どもたちは本当によく見ているからです。
また、毎日同じスケジュールで動いているので、何となく体内時計で感じとれるようになっていることもあると思います。
先生の「片付け」の動きが合図になり、何も言わなくても片付け始める子が出てきます。「もうお片付け?」「自分は何を片付けたらいい?」と聞きに来る子もいます。あるいは、先生が片付け始めるのを見て、「えー、もう片付けなの、やだー」と言う子もいます。
指示をしなくても、子どもが動きだすのは、習慣のなせる技。習慣をつくることも大切なことです。
叱るときにはその子自身の人格に触れないようにする
Q. お友だちを叩いたりしがちです。ただ、叱り方がよくわかりません。
A. 叱るときには、子どもの身体に注目しましょう
善悪の判断というのは、生まれながらに備わっているものではありません。
「これはよさそうだ。これはダメかもしれない」といったある程度の判断は、2歳を過ぎた頃からなんとなくわかるようになってきます。
その判断のもとになっているのは、それまでの習慣、親や周りの大人の行動や声かけです。「これはやらないよ」と言われていることは、やらないようになっていきます。
例えば、幼児期に周りの子を噛んでしまう子がいます。その子は、もともとの性格が悪いわけでも、いじわるをしようとしているわけでもありません。
多くの場合、言葉がスムーズに出てこない段階の子が、相手を噛むという行動に出ます。言いたいのに言えないから、悔しくなって気がついたら相手を噛んでいた、という衝動の結果なのです。そのような突発的な行動の中に、その子の性格や行動の意味を見出す必要はありません。
周りの大人は、そのようなときに「噛まれた子が痛い思いをするでしょ。だからもうやらないよ」などと説得しがちです。
ただ噛んだ子というのは、何かを考えてそのようにしているわけではありませんから、子どもの心や頭に働きかけてもあまり意味はありません。では、どのようにしたらいいのでしょうか。
噛むだけでなく、叩く、蹴るなどの場合も同じです。
園ではまず、攻撃した子とされた子を離します。攻撃をした子に対しては、「ああこの口(手・足)がちょっと動いちゃったね。この口(手・足)がおとなしくなるまで待ってようか」と伝えます。悪いのは、噛んだ口や叩いた手、蹴った足であって、「あなた自身ではない」という考え方です。子ども自身が悪いわけではないのです。
2人の間で喧嘩が起きたときも同じです。
けんかをした2人を離し、それぞれに次のように伝えます。「こっちにおいで。今ちょっと、この手と足が動きすぎてるよね」。そうして先生の傍に座らせて、「この手と足が、ちょっとおとなしくならないと、みんなの中では遊べないんだ」と伝えます。子どもは神妙に座っていますが、しばらくするとみんなが遊んでいるのを見て、仲間に戻りたくなってきます。すると「先生、もう大丈夫。手も足も大丈夫になった」と伝えてくれます。先生は「本当に大丈夫?」と手足を確認してから、「収まったね。遊んでおいで。また暴れそうになったら、こっちにおいでね」と言って送り出すのです。
よく噛んじゃう子、叩いちゃう子というのは、ともすると悪い子であるとか、暴力的な子といったレッテルを貼られてしまいます。
その子の人格を否定するような形で、マイナス評価を受けることもあります。しかし幼児期の噛みつきや手足を使った攻撃に、その子の性格が関わっていることはありません。
生まれついて暴力的な子などいないのです。ですから叱るときには、その子自身の人格に触れないようにすることが大切です。
また、「身体(口・手・足)の一部分が、ちょっと行きすぎてしまった」という形で注意されたほうが、子どももわかりやすいのです。その証拠に、子どもたちは「手も足も大丈夫になった」と教えてくれます。これがもし、「心が落ち着いたら教えてね」と伝えたとしたら、「心が落ち着いたかどうか」を知ることは、かなり難しいのではないかと思います。大人だって、喧嘩や言い争いをした後に「自分の心が落ち着いた時点」を知ることは困難なはずです。
大人ができることは、まだあります。それは衝突を回避することです。
言葉がうまく出てこなくて、相手を噛んだり、叩いたりする子がいるなら、そうなる前に子ども同士を離し衝突を防ぎます。そのために、周りの大人は子どもをよく観察しておくことが必要です。
例えば、ご家庭でも、上の子が下の子を叩いたりすることがあると思います。そんな時に、「叩く子は悪い子だ」と言って叱るのではなく、「ああ手が動いちゃったね」と言って済ませる。注意するにしても、「その手が出なくなるといいね」くらいの声かけで十分です。逆に「悪い子」というレッテルを貼り続けると、子どもは「自分は悪い子なんだ」と思うようになってしまいます。
そのほうが成長におけるマイナスの影響はずっと大きくなります。
悪いのはその子の性格やその子自身ではなく、噛んでしまう口、叩いてしまう手、蹴ってしまう足なのです。注意するときには、子どもの内面ではなく、身体を注意していきましょう。
赤川幸子 (著)『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』(かんき出版)
齊藤工さん、坂東龍汰さんらも受けた!! シュタイナー教育の本。
ー実際に、園に通っていた親御さんからの感想!ー
「必要なものは自然それだけ。シンプルで非認知能力を上げる子育てです」S.K さん
「どこでもできるので助かりました」H.Wさん
シュタイナー教育…オーストリア出身の思想家・哲学者ルドルフ・シュタイナーによって提唱された教育法です。
◎シュタイナー教育は、子ども 1 人ひとりの個性を尊重するとともに、潜在的な能力を引き出すことに重きを置いています。
◎シュタイナー教育は、クラス単位で平等的な教育を施す一般教育とは対照的な教育法。
人は約 20 年をかけて一人前になるという前提で、その 20 年を約 7 年ごとの段階に分け、それぞれの発達段階に適した教育をすることが最も重要と考えるもの。
子どもの学年や年齢、発達の段階なども加味し、最適な授業を行うのがシュタイナー教育の特徴です。
◎シュタイナー教育を受けた有名人
斎藤工さん(俳優)、坂東龍汰さん(俳優)、村上虹郎さん(俳優)、ミヒャエル・エンデ(作家)代表作『モモ』、サンドラ・ブロック(俳優)
◎「子どもの気持ちになってみよう」「子どものやりたいことを推測してみよう」「子どもの気持ちを尊重して、嫌だと言われたらやるべきことでもさせない」などと書かれている本は多いですが、これらは結果的にうまくいきません。
◎子どもの「意思」を尊重しすぎて何でも好きなことをやらせようとする行為は、子どもが自制心をはぐくむ機会を奪っていることになります。
◎この本では、子どもは大人とは異なる認識力の持ち主であることを改めて伝え、子どもがわかる「ことば」や「習慣」を具体的にお伝えしていきます。
◎園で実践していることばかりですので、その効果は実証済み。
親の意図が子どもにスムーズに伝わることで、親は子育ての大変さが大幅に軽減され、子どもは主体性が現れるようになり、親子の信頼関係に好循環が生まれてきます。