朝から晩まで子どもを急かしてばかり。いったいどうしてこんなに「早く」と言ってしまうのでしょうか。その理由を探りながら、自分自身を振り返ってみましょう。

 

 

「早く起きなさい」「早くごはんを食べなさい」「早く支度をしなさい」......。あなたは1日何回くらい、子どもに「早く」と言っているでしょうか。もしかしたら、数えられないくらい言っている、と思う方もいるかもしれませんね。

「早く」という言葉は、昔から親が子どもに言っている言葉です。でも近年、子どもに対し、「早く」を言う頻度が増しているように思います。いったいお母さんたちは、いつ頃から、こんなに子どもに「早く」を求めるようになったのでしょうか。

日本が高度成長期を迎える前、一家の主婦の多くは、家事や農作業といった家の仕事に追われ、子どもにあまり手をかけることができませんでした。そのため、子どもは両親だけでなく祖父母や近所の人たちなど、みんなの手で育てられていました。ところが、高度成長期に入ると主婦の役割は一転。核家族や専業主婦家庭が増え、農作業や嫁姑問題から解放された代わりに、子育ての責任を母親が全面的に負うことになったのです。

現代のお母さんたちは、家事、育児に加え、仕事までもつようになりました。インターネットの普及などから効率が優先され、すべてを完璧にこなすためには、子どもを急かさざるを得なくなったのです。

 

自分を見つめる時間を

 

このような時代背景を見れば、お母さんが子どもに「早く」と言ってしまうのは仕方がないのかもしれません。でも親の「早く」が、上記のように子どもの育ちに影響してしまうことがあるというのは、ぜひ心に留めておいてほしいと思います。子どもは、その時期にしかできない経験を通して成長していきます。そんな子どものかけがえのない時間を奪わないよう、少しだけ普段の自分を見つめ直してみてほしいのです。

 

早くが子どもから奪うもの

 

「早く」と言われ続けることで、子どもは、どんな力を失ってしまうのでしょうか。

 

・待つ力

親の「早く」に応えているうちに、子どもは「早く終わらせることだけが大切」だと、自然に思うようになります。そのため待つことを嫌がり、待たされるとイライラするようになるのです。

 

・じっくり取り組む力

常に急かされていると、自分でじっくり考えたり、時間をかけて何かを成し遂げる力が育ちにくく、物事をおざなりにしがちです。少しうまくいかなかっただけで、すぐ投げ出してしまう子になる可能性があります。

 

・想像する力

一方的に指示されて動くクセがつくと、周りのことが見えなくなり、そこに至るまでの経緯や、相手の気持ちを想像できなくなります。物事をいろいろな角度から捉えられず、思いやりの心も育たなくなってしまいます。

 

子どもに早くを求めるようになった理由

 

一億総イライラ時代と言われる現代。インターネット社会が生み出す便利さとは裏腹に、今、お母さんたちを取り巻く環境は大変になっています。

私たちの生活は、情報化社会になってから、大きく変容しました。携帯電話やスマートフォンの普及により、いつ、どこにいても誰かと連絡が取れるようになり、インターネットの利用で、一瞬にして物事が片づくことも増えました。

まさに私たちは、スピードを要求される時代に生きているのです。子育ても、いつの間にか、そのスピードの渦に巻き込まれてしまいました。本当は、わが子とじっくり向き合って子育てをしたいのに、それが難しくなっているのです。

人と簡単につながれる社会であるはずなのに、なぜか孤独を感じる、生活は昔に比べ快適になったはずなのに、いつもバタバタと何かに追われている......。そんな時代の中で、お母さんたちは、日々頑張って子育てをしているのです。

 

【1】子どもの育ちが、いつしか母親の通信簿に

 

とかく子どもが悪いことをすれば、「お母さんのしつけができていないから」と言われ、いい子に育っていれば、「お母さんが頑張っているから」と言われます。子どもの育ちはまるで、お母さんの通信簿のようです。

SNSやブログなどで他人の暮らしや子育ての様子が見えるようになったことも、お母さんたちの評価の場を増やすことになりました。ネット上に手作りのおやつや料理などをアップするのも、見方によっては、人に評価されたい、認められたいというお母さんたちの気持ちの表われかもしれません。

その一方で、思うような評価を得られなかったり、他のお母さんと比較して自分ができていなかったりすると、焦ったり、落ち込んだりしてしまうのです。

 

このようにお母さんたちは、常に周りの評価にさらされ、その結果に振り回されています。正直、〝子どもの育ちは親の成果〟という周りの見方を変えることは難しいでしょう。でも、お母さん自身が周りからいい評価を得たいがために、わが子を理想の子ども像に近づけようと焦ると、子どもはもちろんお母さん自身も追いつめられてしまいます。

 

【2】2時間の感覚が短くなり、待てない時代に

 

携帯電話がない時代は、待ち合わせ時間に相手に会えなくても、「何かあったのかな?」「待ち合わせ場所はここでよかったのかな?」など、いろいろ思いをめぐらせながら30分くらいは平気で待てたものです。ところが、ほとんどの人が携帯電話を持つようになってからは、時間通りに相手が来なければ、電話やメール、LINEなどで連絡を取り合い、「先にお店に行っているね」などとすぐに対応できるので、待つ必要がなくなりました。

そして、もらったメールやLINEには、すぐに返信するのが鉄則。そうしなければ、話題に乗り遅れたり、グループからはずされてしまったりするからです。何らかの事情ですぐに返事を出せないときは気になって落ち着かない、というのが現在のお母さんたちでしょう。

 

今の日本は待てない社会となりました。実際は10分しか経過していないのに、何十分にも感じるなど、私たちの時間の感覚も変わってきているのかもしれません。子どもに「早く」と言うことが増えたのは、大人の時間の感覚が短くなり、子どもを待てなくなったことも原因の1つと言えるでしょう。

 

【3】子育てにおいて結果を早く求めるように

 

本来、子どもの成長というのはゆっくりであり、親が子どものためにしていることの結果というのは、すぐにはわからないものです。でも今は、教えたことが次の日にできないとイライラするなど、すぐに成果が出ないと不安になる親が増えているように思います。

現在、子育てをしている世代は、テストや試験において、その答えが出るまでの経緯はあまり見てもらえず、結果で評価されてきた世代です。そのため、家事や子育てにおいても、どうしても結果に目が向きやすく、答えがすぐにわからないと不安になったり、イライラしてしまうのです。また、周りから出遅れることを極端に恐れる傾向もあります。

 

その傾向は、子どもの教育においても見られます。「多少無理をしてでも小さいうちに始めておけば、将来が安心」と、早期教育やお稽古事を始める方がいますが、これも「うかうかしていては周りの子に後れをとってしまう」という焦りがあるからかもしれません。でも「将来のために」と早期教育を始めたとしても、すぐに成果が出ないと、またイライラしたり悩むことになり、不安のループからは抜け出せないのです。

 

※「早く」の頻度は立場でも変わる

「そんなに子どもを急かすなよ」と、のんびりかまえていた父親が、いざ育児休暇などをとって子育ての主な担い手になったとき、「早く」を連発するようになったという例はよく聞きます。子どもに「早く」と言うのは"母親だから"ではなく、立場がそうさせている面も大きいのです。

 

早くから抜け出すためのヒント

「早く」を言い過ぎて、子どもの可能性をつぶさないように、次のことを心に留めておきましょう。

 

【HINT1】「早く」と言ってしまう自分を自覚する

 

子どもについ「早く」と言いがちですが、「子どもを急かしている自分」を、お母さん自身がきちんと自覚していることが大切です。お母さんにそういう意識があれば、ふと気づいたときに「早く」という言葉を飲み込めたり、また、子どもとゆっくり過ごせる時間を大事にできたりするものです。

最近「早く」が増えてきたなと思ったら、自分は子どもに頼まれたときに、「すぐ」に対応できているかということも考えてみましょう。お子さんに、「お母さん、○○やって」と言われたときに、あなたはすぐにやれているでしょうか。「忙しいから後でね」と、待たせることが多くはないでしょうか。大人でもするのが難しいことを、子どもに求めているのです。

あなたと同様に子どもには子どものペースがあります。そして、大人と違って、子どもは「早く」できないのが当たり前です。そう思いながら子どもに接すると、「早く」が少し減ってくるでしょう。

 

【HINT2】長い目で見るゆとりをもつ

 

お母さんは時間に限りがあることを知っているので、毎日忙しく動き回っていますが、幼児期の子どもは大人とは真逆の世界に生きていて、時間はエンドレスにあると思っています。時間の流れもゆっくりで、子どもは日々の体験を通して、少しずつ成長していきます。

前にも述べたように、今あなたが子どものためにしていることの結果が出るのは、明日かもしれませんし、もっとずっと先かもしれません。それは、誰にもわからないのです。

すぐに成果が出ないことで、「これは本当に子どものためになっているのだろうか」と、不安になることもあるでしょう。でも、どんなに不安でも苦しくても、子育てだけはゆっくりと、そんな思いでいることが大切です。子どもの力を信じ、長い目で見る余裕をもちましょう。

 

【HINT3】意識してゆったりとした時間を過ごす

 

手芸、読書、料理など、何でもいいので、自分自身が夢中になれることをしましょう。これはお母さん自身のためでもありますし、子どものためでもあります。あまり時間がとれないようなら、15分程度でもかまいません。心と体を休めるための時間をもちましょう。今はお母さん自身が、いろいろなことに追われる時代です。だからこそ、意識してリフレッシュする時間をもつことが大事なのです。

1人の時間を確保するのが難しい場合は、子どもとの時間をリラックスタイムに変えるとよいでしょう。寝る前に子どもと同じ布団に入って音楽を聞いたり、絵本を読んであげたり、お話をしてあげたり、スキンシップをとるのも温かい時間です。お母さんがゆったりとしていると、子どもも居心地のよさを感じ、親子で気持ちをリフレッシュすることができます。

 

【著者紹介】

大日向雅美(おおひなた・まさみ)

恵泉女学園大学学長。NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事。子育てひろば「あい・ぽーと」施設長。学術博士。40年近く母親の育児ストレスや育児不安の研究に取り組む。著書に、『おひさまのようなママでいて』(幻冬舎)など多数。

 


 

のびのび子育て

「PHPのびのび子育て」は未来を担う子どもたちの健全な成長と幸せを願って、発刊している月刊誌。 2016年8月号の特集は<「早く!」をやめると、自分でやる力が育つ>です。

 

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