「自制心と思いやり」のない子は将来…? “発達格差”が生まれる本当の理由

森口佑介
2023.04.04 20:00 2023.04.04 19:45

他者を思いやる向社会的行動

テストに挑む子ども

実行機能以外にも、子どもの将来に大きな影響を与える能力があります。それは「向社会的行動」です。向社会的行動は、日常的な言葉で言うところの思いやりです。

友人・知人に親切な行為をしてあげたり、自分の所有物を分け与えたりすることが含まれます。学術的には、他者に利益をもたらす意図に基づく自発的行動とされます。

ここで大事なのが、自発的に、という部分です。お願いされてからやるのではなく、相手の困った様子をみて自発的になされるのが向社会的行動です。

思いやりは、子育てでも非常に重視されます。親を対象に子どもにどのように育ってほしいかを尋ねるアンケートで、しばしば「思いやりを持つ子」が第1位になります。

たとえば、友達が弁当を持ってくるのを忘れていたとします。そのときに、気の毒に思って自分の弁当のおかずを一部あげることは、立派な向社会的行動です。

ここで大事なのは、一部の向社会的行動は、自分にとって不利益になることです。先ほどの例だと、自分のおかずをあげることは、友達の利益にはなりますが、自分にとっては不利益になります。

ですので、向社会的行動ができる人は、自分よりも他者を優先できる人だということになります。ただ、他者を優先することは、将来的に自分に利益をもたらす可能性があります。

たとえば、自分が弁当を忘れたときに、今度は友達がおかずをくれるかもしれません。そういう意味で、向社会的行動は、実行機能と同様に、「未来に向かう」行動です。

 一方、向社会的行動ができない人は、今の自分を優先させる人です。「今を生きる」人と言えるでしょう。

 

向社会的行動が子どもの将来を左右する

女の子

向社会的行動も、実行機能ほどではないとは言え、子どもの将来に影響を与えるという結果が報告されるようになってきました。まず、向社会的な子ども、親切な子どもは、そうではない子どもよりも攻撃性が低く、そのこともあり、友達に好かれ、人気があります。また、教師からの信頼も得やすいことが知られています。

さらに、読者の方も経験があると思いますが、親切な行為をすると幸福感が高まるので、全般的に問題行動も少なく、ポジティブに生活を送りやすいことも知られています。

向社会的な子どもは、学力にも優れるようです。オーストラリアの5万人を対象とした大規模研究を紹介しましょう。この研究では、5〜6歳頃の向社会的行動を教師評定で測定しています。たとえば、泣いている子どもを慰めるかといった質問です。

この研究では、向社会的行動が、その子どもたちの後の学力と関連するかを調べました。学力との関連を調べるのも妙な気がしますが、国を挙げての調査になるので、学力との関連はどうしても気になるのでしょう。

その結果、5〜6歳の頃に向社会的行動ができる子どもは、同時期の学力が高く、その結果として9歳頃の学力が高いことが示されています。友達に親切な子どもは、学力を高めやすいということになります。

なぜこのような関係があるのでしょうか。しばしば指摘されるのが、向社会的な子どもほど、友達や教師に人気があるため、多くの支援や教育資源を受け取れるという点です。教師はどの子どもに対しても平等であってほしいですが、そこは人間ですから、どうしても接し方に差が出てしまうと言うのです。

実際、456人の子どもを対象にした中国の研究では、親切な子どもほど、友達から受け入れられて、支援を受けることができるため、学力が高いことが示されています。

別の研究では、向社会的な子どもは、後に身体的に健康であることが示されています。この研究では、3000人のイギリスの子どもの9歳のときの、向社会的行動を測定しています。向社会的行動は母親が評価しました。

この子どもたちが17歳になったときに、循環器系疾患があるかどうかが調べられました。その結果、向社会的な子どもは、循環器系の問題が少ないことが示されています。

 実行機能と比べると幾分影響力は弱いですが、向社会的行動は、子ども自身に利益をもたらすのです。まさに「情けは人の為ならず」ですね。