給食の完食指導でPTSDを発症…「教師に憤慨する親」に弁護士が伝えること

高橋麻理
2023.09.15 16:54 2023.08.28 11:30

学校の教室

小学校に上がると、子どもには子どもの世界がつくられていきます。その成長がよろこばしくもありますが、親が感知できないことが増えるため、不安が消えることはありませんよね。

また、学校という閉ざされた空間で理不尽な目に遭ったり、思いがけない学校の対応に親子ともども憤ったりすることもあるかもしれません。そんなとき、法の存在、法に基づく考え方がトラブル解決の力になってくれることがあります。

※本稿は、高橋麻理著『子育て六法』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

高橋麻理(弁護士)
第二東京弁護士会所属。弁護士法人Authense法律事務所。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。社外役員(社外取締役・社外監査役)に就任し、社内不祥事予防等業務に従事する一方、子どもが関わる離婚問題、子どもに関わる犯罪、学校問題等にも取り組み、子どもへの法教育として小中学校でのいじめ予防授業、保護者向け講演なども行う。法律問題を身近なものとしてわかりやすく伝えることを目指し、テレビ、ラジオ、新聞等メディア出演も多数。『大人になる前に知ってほしい 生きるために必要な「法律」のはなし』(ナツメ社)共同監修。一人の母として子育て奮闘中。X(旧Twitter):@mari27675447

Q. 給食の完食指導のせいで子どもがPTSDを発症。教師の責任を問える?

外をみる男の子

A. 責任追及のハー​ドルは高そう。予防のための話し合いを大切に。

※参考となる法令など:学習指導要領

「完食指導」とは、給食をすべて食べ終わるまで居残りさせるなど、強制的に完食させようと指導することをいいます。

完食指導について考える上では、給食が学校教育活動の中でどう捉えられているかということを知っておく必要があると思います。

文部科学省が定める学習指導要領によれば、給食は「特別活動」に分類されています。特別活動とは、集団や自己の生活上の課題を解決することを通して、資質・能力を育むことを目指す教育活動のことです。

つまり、特別活動である給食の時間は、ただご飯を食べる時間というわけではなく、健康によい食事のとり方など、望ましい食習慣を作ったり、食事を通して人間関係をよりよくすることを学んだりするという教育目的があるのです。

そう考えると、子どもが好まない食事について、成長のためにどのような役割を果たすものなのかを教え、指導すること自体は、むしろ給食の役割といえます。

ただ、そのために「全部食べないと休み時間にさせない」「食べ終わるまで家に帰れない」などと罰を与えて完食を強制することは不適切でしょう。学校教育法11条では「教育上必要があると認めるとき」は懲戒を加えることができるとされていますが、罰を伴う完食指導に教育上の必要性が認められるかは疑問が残ります。

完食指導によりPTSD(心的外傷後ストレス障害)になった場合、学校側(公立であれば市区町等)に慰謝料等を請求することが考えられます。

しかし、指導とPTSD発症の因果関係等の立証にはハードルがあります。ですから、事前の対応こそが重要だと思います。

給食に強い不安がある場合は、あらかじめ、保護者から学校側に伝えるのがよいでしょう。給食に関する学校の教育方針を聴きながら、苦手なものが出た場合の対応について話し合いをする機会をもってみるのがよいと思います。

子どもが不登校になった。出席日数が足りないと卒業できない?

遠くを見る子ども

A. 学校以​外の施設での学習も登校日数に含まれる場合があります。子どもの心身を休ませることも考えてみて。

※参考となる法令など:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律

学校の登校日数が少ないからといって、卒業ができないわけではありません。文部科学省のホームページにも、「通常、毎年一学年ずつ自動的に進級することを基本とする。原級留置が行なわれることはまれである」と記載されています。

また、文部科学省の通知で、不登校の子どもが学校外の施設で相談や指導を受けるときは、一定の条件のもとで、学校長が指導要録上の出席扱いとできるものと定めています。教育委員会が設置する教育支援センター等の公的施設のほか、事情により民間の相談・指導施設も考慮されてよいとされています。詳しくはお住いの地域の教育委員会に問い合わせてみてください。

なお、自治体のホームページで、長期欠食となる場合の給食停止、給食費減額等の手続きの案内をしていることがあります。給食費に関しても自治体に問い合わせてみてください。

ある日突然、子どもが「学校に行きたくない」と言い出したら、いろいろなことが頭をかけめぐると思います。そんなときは、まずは子どもの中にエネルギーが湧いてくるのをじっと待つことがとても大切だと思っています。

不登校の原因を分析したり、どうしたらその原因を排除できるか考えたりすることはいったん脇に置いて、子どもの心身を休ませることが必要なのかもしれません。

実は、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」にも、国や自治体が不登校の子どもや保護者に情報提供、助言その他支援を行うにあたっては「多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ」て行うべきことが定められているのです。

とはいえ、親が子どもの不登校を受け止め、認めることは、本当に難しいことだと思います。難しい状況に直面し、子どもの就学のことで悩んだときは、家庭だけで抱え込まず、教育支援センター、教育相談センター、こども家庭センターなど自治体の相談機関に相談することで、少しでも光が見えることがあると思います。

体育の授業中にお友達にけがを負わせた。医療費を支払う義務はある?

サッカーをする子ども

A. 事実関係によっては治療費を請求される可能性も。正確な事実確認が重要です。

※参考となる法令など:民法709条、民法712条、民法714条

学校での出来事であっても、子どもがお友達にけがを負わせてしまい、お友達の保護者から治療費等の請求をされた場合、民法に基づき、保護者にはその治療費を支払う責任が生じる可能性があります。

ただ、前提として、お友達がけがを負ってしまった経緯は慎重に確認したいところです。けがが重篤で、治療費等も高額になる場合もあるためです。わが子がお友達にけがを負わせてしまったという事態に直面し、不安や焦りのあまり、事実確認が不十分になってしまうことがあります。

でも、よくよく話を聞いてみたら、実は競技中に何人かがもつれ合う格好となり、その過程で一人の子がけがを負ってしまったとか、お友達の方が先に手を出してきて、それを振り払ったら、お友達が倒れてけがをしてしまったとか、いろいろな経緯が考えられます。

わが子に責任があるのか、他の子どもにも責任が認められるのではないか、けがをした本人にも落ち度があるのではないかという点は、支払うべき治療費の金額にダイレクトに影響します。

ですから、子どもとお友達の言い分に異なる点があれば、学校側に、教員や周囲にいた子どもたちにも話を聴いてもらうなどして十分な事実確認をするよう求める必要があります。

また、体育の授業中の出来事となると、そもそも、授業を担当していた教員が、子どもたちが安全に授業を受けることができるように指導し、見守る責任を十分果たしていたのか、という観点も重要になります。

事情によっては、お友達の保護者は、学校(公立であれば国家賠償請求という形で自治体)側の責任を問う方法を選択する可能性もあります。

まずは、何があったのか、子どもの責任はどの程度あるのかということを見定めた上で話し合いをする必要があります。双方の言い分が対立するなど、交渉がスムーズに進まないことも考えられるため、弁護士に相談したり、代理人として交渉を依頼したりすることも選択肢になるでしょう。

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